16~18〈集合〉

16



「あんた、とんでもねぇでかぶつだな。俺は鉄の拳っつー一統のリーダーをやってるアロダイトだ。よろしくな」


ヨハンに声を掛けた男はそう名乗り、右手を差し出した。


最終休養日の翌日。作戦参加者が続々と集まる森の入口で、あの一件以降”気高き鉄アイアンノーブル”という名が広まりつつあったヨハンは、かなり注目を集めていた。

早速話しかけてきたアロダイトといえば、徒手空拳で有名な組合員だったはずだ。

先日レクリルが教えてくれた情報である。


なお、物資の運搬を任された参加者は一旦別の場所に集められており、この場に居たのはルヴィアとヨハンの2人だった。


「丁寧にどーも。俺はヨハン。こっちはルヴィアだ。うちのリーダーは運搬班に回ったレクリルっていう兎獣人でな」

「よろしくね」

「ああ、見かけたらそっちにも声をかけておくとするよ。にしてもこんな綺麗なねーちゃんが戦闘班なのか……ほう、流石に強いな。確かに隙がない」

「あら、ありがとう」

「背中を預ける可能性があるなら強い方が頼りになるってもんだ。改めて今回はよろしくな」


もう一度だけ挨拶したアロダイトは、その場を離れて仲間たちの元へ合流したようだった。それを見ていたほかの組合員も、ヨハンに声をかけるようになった。

ヨハンはここぞとばかりに、団に入る人間を求めている事を広めたが、入りたいという人は現れなかった。


「まぁ、皆自分の居場所があるもの。仕方ないわよ」

「そりゃあそうだな」

「にしても人気者ね。ヨハン」

「ルヴィアは名乗りもせずに居なくなりやがったからな。話しかけられる方も大変だ。変わってくれよ」

「やあよ。そっちは頼むわ」

「あいあい」


ヨハンは軽い返事をし、周りを眺める。

「人助けを生業とする旅団」

聞こえはいいが、あまりに夢想的なその目標を聞いたもの達は、ヨハンらに小馬鹿にしたような目を向けていた。

ひそひそと何かを話している様子もある。


「やな感じ」

「なぁに。俺にビビってるから表立って言っては来ないんだ。そんな腰抜け共なんて気にしないでおこうぜ」

「口は悪いけど、確かにその通りね」


ヨハンの物言いにむっとした態度を取ろうとした者もいたが、彼の迫力には勝てなかったか、話しかけてくることは無かった。


「集まれぇ!作戦を説明するっ!」


組合のいかつい職員が大声を上げ、参加者に招集をかける。

いよいよ討伐作戦が始まろうとしていた。



17



作戦の概要は単純だった。

ビフロンスを中心に扇状に集まった魔獣達をとにかく切り捨て、開いた道を通ったり、おびき出されたビフロンスの元へ駆けつけたりで、最大火力を持つアーリマンをぶつけるというもの。


ルヴィアらの役目は、とにかく魔獣を倒し続けることだ。

レクリルもいる運搬班が、回復薬や食料を運んでいるため、長期戦になってもある程度戦える見込みの様子だった。


「ビフロンスと戦いたいやつは向かっていっていいが、アーリマンの攻撃に巻き込まれても知らんぞ。やつは人がいようとお構い無しだ」


先程から説明しているいかつい職員は、ハーリオンの組合長、ヴァンダムだという。

なるほど、荒くれの組合員らを纏めるに相応しい技量をもっているようだ。なぜなら、立ち姿には戦闘に慣れたものの風格があるから。しかもあの強面具合では、そんじょそこらの組合員では反抗できないだろうし、そうしようという意思すら湧かないに違いない。


「討伐作戦の開始は正午からだ。各自装備を確認し、時間が近づき次第、広がった陣形をとってくれ。魔獣の数は凡そ500。今回集まってくれた参加者は1000だ。最低でも2人で一匹倒せれば苦にはならんだろう。説明は以上だ」


なるほど。


「あれは面白くないわね」

「ああ。後で聞いておくか」

「そうしておきましょう」


500匹の魔獣は、どの程度の難度のものが何匹いるのか、そういった情報は一切説明されなかった。

聞かずに突っ込んだ無謀な組合員は最悪死んでしまうだろう。


「まぁ、あくまで俺らに与えられている役目は露払いだからな。組合でも、それ以上は期待してないんだろ」


ヨハンの言った通り、組合で戦闘評価10のメンバーは信頼されている。もちろん戦闘面"のみ"だが。

そしてそれ以外の組合員でビフロンスを倒せるとは考えられていなかった。


ヨハンとルヴィアが組合員に確認すると、魔獣のほとんどは精鋭クラスであり、騎士クラスが複数。騎士団長クラスが2、3匹とのことだった。集まった参加者のほとんどは精鋭クラスに苦戦はしないだろうが、騎士、騎士団長クラスとなると怪しい。

ルヴィアやヨハン、先程挨拶を交わしたアロダイトなどが相手せねばならないだろう。


「戦いが始まったら孤立している騎士クラス、騎士団長クラスに向かって走ってみる?」

「孤立してなかったら?」

「地道に周りの魔獣を片付けましょう」

「うーんそうだな。それがいちばん良さそうだ」


2人はやることを決め、装備の確認を行っていく。正午まではまだ時間がある。

ルヴィアとヨハンは、いっそ早めの昼食を摂ろうと、運搬班のレクリルを訪ねることにした。



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「いやぁーっ!助かるなぁっ!そんな魔導がありゃ引く手数多じゃないのか」

「えへへ。確かに商会から勧誘されたりしましたけど…夢を諦められなくて」


レクリルは物資の補給所に、運搬班として集められていた。

虚空庫から、ハーリオンから持ってきた物資を取り出し、並べていく。

その魔導に感心した職員が、レクリルを褒めちぎっていたのである。


「へぇ、夢ね」

「はい!人助けをしたいんです!その為に旅団も作りました!」

「そ、そうか〜。が、頑張れよ」


職員は微妙な顔をして立ち去っていった。

運搬班の他の人員にも、そのようなことを話したりしたが、反応は芳しくない。

そもそもここは戦闘はしたくないというような人物がかなりの数志願していた班であり、端的に言ってやる気が無かった。

やる気があってもレクリルを小馬鹿にするだけだった。

もちろんレクリルには心強い仲間もいて、既にある程度の技術もあり、平たくいえば自信が着いていた。故にそんな戯言は真に受けなかった。


レクリルは自分自身、そんな変化に驚いていた。以前ならば、萎縮して言い返す事も出来なかっただろう。しかしルヴィアやヨハンのことを思い浮かべると、不思議と強くなれるのだ。


「ふふふ。団長になるって、こういうことなのかもぉっ」


レクリルは嬉しそうな顔で、作業を続けた。

一段落する頃、レクリルに声を掛けてきた者達が居た。

ルヴィアとヨハンである。


「レクリルー!作戦の開始は正午かららしいんだけれど。せっかくだから、早めにご飯を食べない?」

「腹が減っては戦は出来ぬとか言うしな」

「それでわざわざこっちまで来てくれたのっ?」

「もちろん。レクリルも一緒に食べるでしょう?」


うん!

とレクリルは頷き、ルヴィア達と食事を摂った。味気ない携帯食糧や干し肉だったが、いつもより美味しく、力が漲る気がした。

もちろんそれは、ルヴィアもヨハンもだった。

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