49 置き土産は希望の苗
「ジュスタさん、遺跡、散々な目に遭いました」
白亜の宮殿に戻ってからじっとりとした目で報告をする。子供たちも主に精神的なものでぐったりと疲れ切っていて、空気がどんよりとしていた。
「なんじゃと? 虫がいたのか?」
「虫も嫌ですけど、もっときついものがでましたよ。骸骨! 不死者! スケルトン30体くらいに追い回されて、普通に倒せないし詰んだかと思いました!」
ジュスタさんは頬を引き攣らせていた。あそこへはずっと行っていなかったんだろうし、通路の大きさから考えてジャイアントモスは出ないだろうとは予測できても、まさか死体がアンデッドモンスターになってるとは思わなかったんだろうな。
「よく、無事に戻ってきたのう……」
「幸い桂太郎くんの椅子が効果があったので。あと、迷子になったので遺跡壊して出てきました」
「壊したのか……」
「穴を開けたくらいですが、壊しました」
「うううううーむ、それは、妾に責められることではないな。そなたらにも大変な思いをさせたのう」
しゅん、となっているジュスタさんはもう小学生にしか見えない。物凄く反省している様子だった、
ジュスタさんも知っていてやったことじゃないのだから、文句はこのくらいにしておこう……。
「とりあえず、みんな疲れ切ってるので、食事が確保できるくらいのモンスターを倒したら、今日は早めに休みますね」
「うむ、では準備ができたら呼ぶがよい」
いつものように八門遁甲の椅子でバリアを作ってから、ジュスタさんに魔物除けを解除してもらう。わらわらと八門遁甲の椅子の中がいっぱいになったところで、再度魔物除けをしてもらって退治開始。
もちろん、
今日はもう、無理に戦わない。なにせ子供たちの疲労が色々な意味で凄い。
3日後、LV95まで上がったステータスを見ながら、私はあることを考えていた。
もうすぐここから去る私たちが、今まで出会った人たちのためにできること。
ハーストン伯は私たちが魔物を減らしたことを「数十年掛かってもできなかったことを成し遂げた」と評価したけども、それは神の思惑であって私たちに強制的に与えられた使命だった。
そうではなくて、この世界に一時存在した「私たち」の気持ちを、残していきたいのだ。
お風呂に入る前に子供たちを集めて、私はひとつの話をもちかけた。
「ねえみんな、きっともうすぐおうちに帰れると思うけど、この世界で会ったレティシアさんとかクリスさんとか、いろんな人に言いたいことはないかな?」
私の言葉に、一斉にみんなは周りの子と相談したりしてざわざわとし始めた。
もうすぐ帰れるという希望と、決して元の世界では経験できなかった日々とを考えているんだろう。
「あのね、騎士団の人たちにお礼を言いたい」
「レティシアさんにも!」
「王様殴りたい」
「さやかちゃん、気持ちはわかるけど殴っちゃ駄目だよ……」
「なんで?」
フロードルの王城での事を思いだしたのか、普段は割りと穏やかなさやかちゃんがキリキリと眉をつり上げていた。
「ハーストンさんが言ってたでしょう、フロードルって国は、オルミアに比べて今は貧乏なんだって。だから、貧乏脱出したいから、私たちの力を使って戦争して、オルミアからソントンとかの街を取ろうとしたんだろうって。――確かに、
きっとあの村だって、村人が満足に食べることができたのならば、「旅人を攫って売る」なんて事はしようと思わなかったはずなのだ。
「お金たくさん作ればいいんじゃないの?」
「貧乏で何が大変かっていうとね、『お金がないこと』じゃないんだ。お金がなくても大きい畑があったら食べるものができて、食べ物を買わなくても困らないで生きることができるでしょう?」
「そうかー」
「じゃあ、食べ物がいっぱいあればいいのにね」
「ひとつ知りたいことがあるんですけど、この世界にジャガイモってあります?」
「ああ、それがのう……例の南の大陸にはあったのじゃが……」
「あの、神が沈めたってところですか!」
本当にとんでもないことをしてくれたなあ! 凄い、私の中であの神への印象の下げ幅が史上最悪を記録したよ!
ジャガイモはヨーロッパに渡ってから食糧問題に多大なる影響を及ぼした作物だし、日本でも江戸時代に飢饉対策にサツマイモを栽培するようになったのは有名な話だ。
ジャガイモがあるなら普及させればいいと思ったんだけど、まさかこの世界では絶滅してるなんて!
「みんなにアンケートでーす! 焼き芋好きな人は手を挙げてー」
「大好きー!」
「好きー」
手がバラバラと上がる。今ではスーパーでも一年中売ってたりして、美味しい焼き芋が気軽に食べられるようになったから焼き芋好きな子は多いね。
「フライドポテト好きな人は手を挙げてー」
「大好き!!」
「だいすきー!」
おっと、和食党の
「ところが、なんとこの世界にはジャガイモがないので、フライドポテトもポテトチップスも食べられないそうです」
「うそー!」
「えええ、やだー」
「食べたい!」
「あ、私たちは食べられるよ。お弁当に入ってたこともあったでしょう?」
「そうだった!」
そうだ、そういえばクリスさんたち辺境騎士団と一緒に行動してたとき、お弁当の中にジャーマンポテトが入っていた日があったはず。
騎士団の面々はクリスさんを始めとして適当――いや、おおらかな人が多いせいか、お弁当は全て「なんだかわかんないけど美味しいー」って食べてたけど、レイモンドさんだけはしげしげと「なんだこれ」って顔して見ていたのを思い出した。
「ねえ、ジャガイモってね、年に2回採れるんだよ。お米は普通は年に1回だね。ジャガイモがこの世界にあったら、今よりもっとここの人たちがお腹いっぱいになると思わない?」
6年生の理科の授業ではジャガイモを育てる。子供たちでも育てられる作物だし、扱いは難しすぎるものではないだろう。食べるときにはちょっと注意が必要だけど。
私の思いつきの発言に、子供たちは思ったよりも真剣な顔で頷いた。
「
「うん! 神様にお願いするね」
優安ちゃんは手を組んでお祈りを始めた。これで置き土産の準備はできた。後はどうやって伝えるかなんだけど――。
「ジュスタさん、お願いがあるんですが」
「うむ、聞こう」
私は手帳とペンを取り出すと、ジュスタさんにあるお願いをした。
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