48 レッツ廃墟探検
翌朝、朝食の後で
「せんせー、今日はどこに探検に行くの?」
「今日はね、廃墟! ……って言ってもわからないよね。むかーしあった、街の跡だよ」
「鎌倉みたいなところ?」
「鎌倉は今でも街だね。えーとねえ、ピラミッドとか、そういう感じかなー」
「ピラミッド!」
「わーい、楽しそうー!」
「そこだったら虫もいないだろうってジュスタさんが言ってたしね」
「虫いないの? ほんと!?」
「ジュスタさんも一緒に行きますか?」
「いや……。妾は行かぬ。あそこには思い出もある分、少々辛くてな。オウムに先導させよう。魔物避けにもなるからの」
薄く微笑むジュスタさんが痛々しい。神様にとっては昔の事でもずっと忘れられないことなのかなあ。
だとしたら、私たちとの思い出も、いつかは愛しく思い出して寂しくなったりするのかもしれないな……。
「……ジュスタさん、この森、思い切って切り拓いて、人間と交流したらどうですか?」
「む? なんじゃ、突然」
「寂しくないですか? 私だったら、言葉を交わす相手がいないままずっとひとりでいるのは耐えられません」
「妾のことを思ってくれるのは嬉しいが、古の時代ならいざ知らず、今は人間が増えておる。妾の側には魔物がおるし、人里に近づけば人間と魔物、互いにとって良いことにはならぬ」
「でも――」
「言うたであろう、人も、動物も、魔物も、妾にとっては等しく愛を注ぐ存在じゃ、と。人と交わることには固執せぬ。逆に、軽率に人と交われば、今は敬意で済んでいるものが畏怖になるやもしれぬ。それどころか、魔力を司る存在として人間の欲に巻き込まれる可能性もな」
そうだ、この世界の神様って万能じゃないんだ――。
目の前の少女の姿をした女神を見て、改めて私は考えた。
「すみません、余計なことを言いました。忘れて下さい」
「そうじゃの、もっと文明が進化して人間にとって魔物が脅威でなくなったら、この髪の色を変えて街を渡り歩くのも楽しいかもしれぬな。昨日のケーキは美味であった。妾もたまにはああいうものを食べたいものじゃ」
私の事を気遣ってくれたのか、少しおちゃらけたようにジュスタさんが言う。私はそれに頷いて見せた。
「その時には、兄か姉の役をさせて神様も連れて歩くといいですよ。人間の営みを間近で見たら、あんなめちゃくちゃなこともしなくなるんじゃないですか」
「それもいいのう」
お互いにくすりと笑い合い、私たちはその話をそこで切り上げた。
念のためにリュックに飲み物などを詰めて準備をしてから、私たちはあのオウムに先導されて遺跡へと向かった。
相変わらずこっちのペースを考えないスピードで飛ぶよ、このオウム!
ほとんど全力疾走だったせいか、30分ほどで目的地へ着いた。ちょっと驚いた。「さほど遠くない」どころかかなり近いね? もしかしたら私たちの移動スピードがおかしかったからそう感じるのかもしれないけど。
「うわぁ……」
「すごーい」
「い、遺跡だあ!」
子供たちの感嘆に混じって、私も思わず叫んでしまった。
密林の中から現れた石造りの大きな建物はアンコールワットを彷彿とさせるようなもので、周囲にも崩れてはいるけども小さな建物がいくつもある。
蔦が絡まったり木に飲み込まれている部分があったりするけど、確かにこれは街の跡。
テンション上がってくるー!
「よーし、じゃああの建物の中を探検だよー!」
「オー!」
「はーい!」
神殿だか宮殿だかわからないけど一番大きな建物に、私たちは意気揚々と乗り込んでいった。
通路もそこそこ広いし、天井も意外に高い。
本当に虫は出ないのかなって心配になる。
いや、それよりも、無計画に進んでいったら迷子になりそう。通路はそこそこの複雑さがある。
「ちょっと待って、先生、地図を書きながら行くからね」
まさかTRPGのマッパー経験がこんなところで活きるなんて。
私は手帳とボールペンを握ったまま、進んだ道を書き込んでいく。幸い、通路は碁盤の目の様になっているので、私の拙い技術でもなんとかなりそうだ。
「部屋があるよー?」
「先生、見ていい?」
「いいよ、でも気を付けてね。モンスターが出てくるかもしれないからね」
私の言葉で、そろりと聖那ちゃんと
そして、一瞬にして顔色を変えて急ぎ足で戻ってきた。
「何かあった?」
「ほ、ほ、ほ、ほね……」
「先生、ここ、お墓?」
「えっ?」
手帳にペンを挟み込んで、私もそろそろと部屋を覗く。すると、あちこちに茶色い骨になった遺体が散らばってるのが見えてしまった!!
まさか、まさか、この遺跡に出てくるモンスターって……。
私の想像を読み取ったように、骨がカチャカチャと音を立てて組み上がっていく。そして、ふらふらとこちらに向かって歩いてきた!
「うっそ、スケルトンじゃーん!!」
「ぎゃー!」
一瞬にしてパニックに陥った子供たちはダッシュで逃げた。もちろん私も全力ダッシュした。
だけど、スケルトンも追いつけないながらも凄い速さで追ってくる!
「椅子、椅子投げて!」
「椅子召喚!」
月姫ちゃんがすぐさま椅子をスケルトンに向かって投げる。椅子がスケルトンにぶつかると煙幕が広がって……それが晴れたとき、そこにはバラバラになった骨が散らばっていた。
「うわっ、すっごい嫌な予感」
「黄色い箱になってないよ?」
こわごわと見守る私たちの前で、骨が再び組み上がっていく! やっぱりー!
「うぎゃー!!」
「虫よりやだぁぁぁ!!」
「一翔くん! 八門遁甲の椅子!」
「椅子召喚、八門遁甲の陣!」
一翔くんがすかさず八門遁甲の椅子を出すけれど、スケルトンは椅子の中に入ってもまっすぐこちらに向かってくる!
「うっそー! なんでー!」
もしかして脳みそがないから!? そんな理由で突破できるものなの!?
なんだかわからないけど、とりあえず私たちはまた走って逃げるしかなかった。
そして、気がついたら、合流したスケルトンがどんどん増えていて……。
「来なきゃよかったよぉぉ!」
「骨怖いよー!」
阿鼻叫喚の地獄絵図だよ!
帰ったらジュスタさんに思いっきり恨み言を言ってやるー!
どうしよう、普通の椅子も八門遁甲の椅子も効果がないとなると――。
「桂太郎くん、あの骨に向かって椅子を投げて!」
「ぼ、僕ですか!?」
一か八かだ! アンデッドには治癒魔法が効くと相場が決まってる! もしかしたら桂太郎くんの癒やしの椅子が効果あるかもしれない。
「投げて! 倒してあげないと、あの骨のモンスターは安らかに眠れないんだよー!」
「安らかに眠れない……わかりました、椅子召喚! 骨さん、すやすや寝て下さい!」
意味合い違うね!? でも桂太郎くんがモンスターに向かって椅子を投げたことだけでも結構凄いことだよ。
そして、私の期待通り、桂太郎くんの椅子を食らったスケルトンはキラキラと光って消滅していった。――でも、全然手数が足りないんだよね!
「いける、いけるよ! もっと投げて!」
「はいっ!」
桂太郎くんの椅子投げのスピードはそれほど速くないけど、悠真くんの椅子爆弾がスケルトンの足止めになった。爆破されて細かくなってから、また組み上がるまでに時間が掛かる。
そこに桂太郎くんの椅子が当たると、スケルトンを浄化することができた。
30体ほどのスケルトンを倒した頃には、黄色いコンテナがふたつ現れていて、中身を見てみれば飲むヨーグルトだった。
いや、そこでカルシウムアピールしなくていいよ……。
「これ、飲む?」
「喉渇いたから飲むー」
「そうだね……」
そして私たちは、全員疲れ切った顔をして飲むヨーグルトをずずずっと飲んだ。
うん、喉が渇いてる時って、こういう濃いものあんまり効かないね。牛乳の方がまだよかったかも。
遺跡探検は、はっきりいって失敗だった。確かに虫は出なかったけど、もっと全員にまんべんなく嫌悪感を与えるようなモンスターが出るなんて!
すっかり迷子になった私たちは、椅子で建物の壁をぶち抜いて、無理矢理道を作って脱出した。
もしかしたら将来、ここを調査する人がいるかもしれないけど。
本当にすみません! 背に腹はかえられなかったんです!!
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