エピローグ
シシリ武器店ではクレアが持ってきた小切手に、二人は驚愕の表情を浮かべていた。小切手には、見たこともない金額が記されている。
「なんですか、これは…」
「領主様が、武器の代金を支払ってくれたみたいですね」
クレアがニコッと微笑む。何をしたかわからないが、彼女が何かをしたとしか思えなかった。
「あなたが、何かしてくれたのか?」
問いかけるシシリに、クレアは微笑むだけだった。
「いや、いいんだ。何も聞かない」
シシリは手を振ってそれ以上の質問はやめた。
「でも、ありがとう。いい機会だから、このお金で別の商売でも始めてみるよ」
その言葉に、クレアの表情が明るくなる。
「いいですね。ぜひ、そうしてください」
「クレア姉ちゃん…」
シシリの隣にいたイオリが声をかけた。
「ありがとう。オイラ、頑張って父ちゃんを手伝うよ」
その顔は、晴れ晴れとしていた。
「頑張ってね。新しい商売が決まったら、教えて」
「うん。オイラ、喫茶店やってみたいなって思ってるんだ。父ちゃんには言ってないけど、この町にはくつろげる場所ってないし」
「そ、そう……」
クレアは、イオリがいれたどす黒いコーヒーを思い出して吐き気が込み上げた。
「まあ、いいと思う。憩いの場所があるっていうのも、ステキじゃない」
「へへへ」
照れ笑いを浮かべるイオリの頭をこづきながら、クレアはシシリに別れを言って武器店をあとにした。
日はすでに傾き、夕日がクレアの影を大きく伸ばしている。
クレアは、ため息をつきながら、あてもない旅を再開したのだった。
そんな彼女の背中を見送りながら、イオリは聞いた。
「父ちゃん、あの人、ライトニング・クレアだったのかな」
「さあ、どうだろうな。人は見かけによらないというしな」
「もし、そうだったらいいな。今まで、魔王を倒した勇者のこと嫌いだったけど、クレア姉ちゃんだったら好きになれそう」
微笑むシシリは、ポンとイオリの頭に手を置いて、いつまでもクレアを見送っていた。
第Ⅰ部 完
魔王のいなくなった世界は混沌としていた たこす @takechi516
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