#11 目的がズレ始めて来たけどとりあえず参加するしかないよね
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「おかぁさま!!これ一体どういう事ですか?!なぜ私もお母様と一緒に同行しなければならないのですか?!」
——我が娘が狭い馬車の中で遠吠えの様な声を上げて私に食って掛かってきた。
——仕方がない、セントナイツウォーリアー本部から離れて。暫く別行動になりますからねぇ・・・あの男から離れて体が疼いて仕方が無いのでしょう・・・。
「まぁ落ち着きなさい、すこしマスを・・・」
「ではなくてぇ!!」
——シモのネタはタブーでした・・・わが娘ながらお堅い性格になったのは・・・
「お母さまのお陰でこういう性格ですのよ!!」
——むむむ・・・とりあえずこうして別行動を起こした理由を話しておきましょう・・・。
「とりあえず、私達は疑似餌です・・・あのガボネ・ガボンネ伯爵は貴方達の動向を観察しているでしょうねぇ・・・。ともかく、例の大会には彼の参加は必須です・・・しかも山派の連中に知られずにね・・・」
「では今、私達の馬車に食いついているのは・・・」
「まぁ・・・そうでしょうねぇ・・・おおよそ、この家紋付き馬車に食いついたお陰で彼ら・・・いや彼の行動を隠匿できるでしょうねぇ・・。」
——今年の『武戦大会』を通して、山派貴族の手の者に獣人派閥一派。海派貴族の手の者・・・。そして無派閥として・・・あの男レージ・スレイヤーを放り込ませる・・・ネージュちゃん曰く「こちらも保険をかけて置く」と言っていたけど・・・。
「では・・・万獣皇様はこの一件をどう見ているのですか?」
「面白いからヨシっ!!だそうよ・・・。毎年毎年マンネリだからつまらないとも言ってたし・・・重鎧士の件も快諾して3枠も取り入ってくれたそうよ・・・」
「・・・」
——娘は酷く呆れた顔で私を見ていた。獣人の殆どはいい加減かつテキトーな集まりなのだ・・・。
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——『武戦大会』の取り決めを毎年行う為に。
——『ヴォルガング』の領海域内にある本島。島内にある『万獣の洞』と言われる場所で、各種族の長達が集まっていた。狼、獅子、兎、亀、蜥蜴・・・五大種族の長たち。既に高齢と化しながらも、行く末と現状の実態に思い悩んでいるご様子。
「まぁ良いんじゃない?毎年毎年、ウチラ獣人ばっかり優勝してばっかりでは・・・」
「相変わらず獅子族の長は・・・我々にとって大事な収益・・・客が少なくなるのは困るな・・・それに・・・身内だけで騒ぐのもバカバカしい・・・」
——獣人の一人、獅子族の長老が緩い口調で快諾する。それに続いて兎族は神経質な顔をしながら、長い眉毛を釣り上げて、年ごとの収益を記載した用紙を見てため息をする・・・。
「しかし山派の貴族らも考えたもんだな・・・。『重鎧士』だっけ?よくあんなモン作ったもんだ・・・アレがあったら優勝間違いないな・・・」
「アレは鎧と言えるかねぇ・・・なんというか・・・なぁ・・・しかも3枠も設けて・・・それでも多すぎの気が・・・」
——ガタイの良い蜥蜴族が感心し、タバコを吹かし。負けず劣らずの体格を持つ亀族の長が干物を噛み砕いていた。事の大きさよりも代理戦争という肩書を持った今回の大会は惰性で行ったツケだと皆が皆、思っている。
「若い子は血気盛んだし、だからと言って山派の言い成りも面白くないわねぇ・・・」
「山派貴族の連中は、高みの見物だろうて・・・いつの時代も若者にツケを回す・・・因果よのぉ・・・」
「やはり、あの愚王の傷跡が疼いておるのだよ・・・サーヴェランスも我々もな・・・」
——狼族の長の言葉に蜥蜴族の長が自嘲気味に吐き捨てる。そんな彼らの会議に私が一言投げかけた・・・・。
「じゃぁ、ここで問題・・・どの派閥にも属さないのが優勝したら・・・どうなるかしら?」
——そんな一言に、「なんじゃそりゃ」って顔になる。即答したのが兎族の長だ。
「もし仮にそうだとしたら、少なくとも・・・山派貴族の目論見は完全に白紙ですな。なんせご自慢の『重鎧士』の価値が無意味になりますからなぁ・・・」
「もしそんな奴が居たらな・・・」
——まるで一本の糸に望みをかける様な言い草だ・・・。
「・・・やはりそうなりますよね・・・」
——想像通りの答に私は含み笑いをした。
(・・・ネージュ様に、ラヴィア殿、そして可愛い可愛い私の・・・ネイア・・・ウフフ・・・期待してるわよぉ・・・)
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現在絶賛乗船し『ヴォルガング』本島へ渡航中である・・・。
なんせ、『サーヴェランス』から城下町兼港町の『アレー・ジュア』と渡る。
ところがどっこい、俺達はそのまま右から左へ、『ヴォルガング』のある本島へ渡る船へ乗ると言う忙しいスケジュール。
しかもこの一連は、『セントナイツウォーリア』の指示の下で動いている・・・計画的な意図を感じずにはいられない・・・。
「いつの間に国家間の問題解決が、何でこうなったんだよ・・・。」
「確かに異常というのはたしかですね・・・」
俺の言葉にミスティアは続けた。聞けば国家間の問題解決のはずが、『武戦大会』の参加へとすり替わっていたからだ。
豚の出荷の如く、ベルトコンベアーで流されている感じが否めず、少々不安になる。ハルーラはそんな俺に発破をかける。
「とはいうモノの・・・『武戦大会』ていうのは小規模ながら士官ではそこそこ良い手柄になるのよねぇ・・・将来の事を考えれば『ついで』じゃない?」
「しかし、獣人のプライドが潰れないか?・・・なんか獣人って気位高そうでさぁ・・・」
ふっとヴィラの顔を思い出す・・・が・・・それにネイア姫が答えてくれた。
「強い人を敬うのが獣人の常識です・・・ヴィラが貴方について来たのも、その強さを理解しているからです。」
「そっか・・・。それならこっちも、それ相応の働きをしないとな・・・。」
う~ん・・・少しぎこちない・・・。
あの夜、ネイア姫は感謝された。自身の命で父親たちを奮い起こさせようとした行動を止めた俺へ。そして、過去の影や自身の血族の呪いとのシガラミを払拭できた事を。
他に何か言いたげだった、しかしそれを口にしなかったのは彼女なりのケジメがあったんだろう・・・。あの極薄の格好は・・いやいやいや・・・彼女はそんな・・・でも・・・う~~~ん・・・
「・・・あれが本島っすね!!」
悶々とした俺の耳にダルダの声が響いた。
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