#10 過去の行いで思い上がった一派が噴き出すのは仕方がないよね


-29-


ネイア姫が薄着姿で俺の部屋に訪れていた。その恰好は一年前、スレイヤー村に訪れた際に着ていたあの死に装束にも似た格好をし思わずドキリとした。


「ネイア姫?」

「手続きを・・・」


全身鎧のフェイスから籠った声が響く。サイン用の署名をする、誰が誰の部屋に出入りしたか・・・そういうのも記載する決まりなのだ・・・。


(息苦しい・・・)


そんな感情がこもったため息が出そうだった。それを堪えてサインボードを返す。

ネイア姫に付き人のメイドが一人、ワゴンに軽い軽食を持ってきていた。


部屋に入ってからネイア姫が第一声を発した。


「あまり居心地のいい都市ではないでしょう・・・これが・・・サーヴェランスという都市の実態です・・・。」


「・・・」

俺は何も言えず頭を掻く、図星を言われたと言うのもあるが・・・。


「いやぁ・・・顔に出ちゃったかも・・・」

「夜食の準備ができるまで少しお話をしましょう・・・」


その裏ではメイドさんが軽食の支度をしており。俺は話す内容を模索していた、そんな俺を見かねた彼女はストレートな質問をぶつけてきた。


「この街を見てどう思いましたか・・・」


彼女の言葉と行動につられて窓際へと歩を歩ませた。


-30-


「この都市は貴族階級のみで構築した都市です、それ故に皆命の価値は重く。厳戒態勢を常に維持する閉鎖都市となりました・・・。」


窓際での対話、話題としては余りロマンチストな内容では無かったが・・・。そのまま一呼吸して話を続ける。


「かつては、都市としてはここまで厳重な警戒を行う都市では無かったのです」


「サーヴェランスは元々普通の都市と変わらなかったと?」


「そうですね・・・変わらないと言うより王族達の至上主義を元に形成し。管理しておりました。それは封建的ですが庶民や旅人も出入りが自由で非常に活気があったと聞いております・・・。」


聞いていた・・・それは又聞き・・・母親・・・ネージュ様から聞いた話なのだろう・・。


「こうなった切っ掛けは・・・当時、まだ強健国家だったローレライからの理不尽な圧力が原因。それを誤魔化す為に王族達は裏で権利を放棄し。貴族や臣下、そして国民に分割したのです・・・。」


「権力の分割・・民主への移行か・・・しかしローレライからの圧力っていうのは・・・」


「簡単に言えば王族階級による支配国家を要求し、そのまま属国になる事を強要してきました・・・。」


勿論そんな要求には応えられない訳だ・・・そのローレライの要求を誤魔化す為に・・・


「現在の方向性に固める為に都市には貴族階級を設け、さらに特権階級を与えると同時に厳格化。さらに市民と貴族の間との接点を完全に切り離したのです、それは癒着目的を防ぐ意味合いもありますが。それ以上に外見だけでも貴族特権階級を設けた封建制度をより強化させた・・・と見せかけるやり方に変えました。」


成る程・・一見、ローレライ王国の要求に答えながらも中身は民主を貫いたわけか・・・けど。


「外見だけでなく、段々と貴族に支配される形になってもおかしくない・・・」


「はい・・・表面上はそう見せかけ・・・実態は市民の言葉を基に議論する・・・今の行政議会体制を持つようになったのです・・・。それを延々と続けるようになり・・・このサーヴェランスはこの様な管理都市へと変容してしまいました・・・。本都はその形を維持できましたが・・・」


監視の目の甘い地方の領土はそうはいかない訳か・・・。


「山派貴族と言われるようになった起因はそこか・・・・」


彼女が頷く・・・。

要はガワだけの貴族社会を作り上げたのは良いが、監視の目の甘い地方には冗談で済まされず。徐々に貴族支配主義の連中が増え始めた訳だ・・・。


「山派貴族の発祥はローレライとの接点での異物とされ、今は既に腫物のように膨らんでこの国の病症となっています・・・。」


「特権階級を与え、それを取り上げる事も出来なくなったのは時間の所為か・・・。」


長々とやっていれば、その密を啜る害虫が増え傲慢な貴族たちによる無意味な法整備で迷走する・・・。どの世界でもそういう連中を抱えると苦労すると言う訳か・・・。


「その彼らの抑止力として立っていただいたのが・・・ダルク姉さんです・・・。姉さんが抑止力として働いていたのは、軍備強化に強いグランシェルツとの太いパイプを持っており。彼らの目的には大きな隔たりを持っていました・・・。」


「グランシェルツの軍整備は魅力的だからな・・・魔剣や騎士のノウハウはハッキリ言って段違いだ・・・となると機嫌を悪くしたくないのは頷けるな・・・。」


「そして、更にダルク姉さんは侯爵の地位をも持っているだけに。貴族階級でも強力な抑止力を保っていたのです、山派貴族の方向性は間違ってはいませんが・・行き過ぎれば・・・ヴォルガングを尖兵にする為に徴兵を促したら・・・。」


両国の立場が悪くなる・・・か・・・。

ネイア姫の嗚咽が漏れそうな中、俺は肩に手をかける。


「その為に、俺達がやって来たんだ。無理難題な注文だがな・・・答えはラヴィラ子爵が示してくれたからな・・・」


「ヴォルガング本島で行われる・・・『武戦大会』・・・そこで優勝すると言う話ですね・・・。」


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——サーヴェランス統合総会議堂・・・山派貴族筆頭のダルク侯爵が今期議会と執務を全面休職を表明し、ふた月後の事であった。

——ダルク侯爵無き山派貴族の武力強硬はガボネ・ガボンネ伯爵を筆頭に推し進めて、とうとう海派を沈黙させた。

——そんな山派一派連中がルヴィラ子爵の一言で騒然となった。


——『武戦大会』・・・だとぉ?


「我々は獣人・・・強い者に従うのが常というモノ・・・まぁそちらの要求を呑むならそれ相応というモノ・・・」


——何を馬鹿な事を?!

——長々と援助を受けて必要な時に拒否するとは我儘にもほどがあるではないか!!


「甘い汁はそちらも貰っている筈ですよ?なんせ『武戦大会』だけでなく我が国は性風俗もお盛んですので。文字通り色々としています・・・まぁそちらの作り出した産業文化の支えがあればこそですがね・・・」


——ははは・・・確かにお世話になってるな・・・

——おい!みろ・・・あそこにいる貴族議員もつい先日・・・


「其れに、国交以来。万年獣人が優勝している以上・・・こちらとして従う義理は・・・無い!」


——軍備強化と宣って、この様では意味が無いですなぁ・・・・

——本当に国民の税を有効活用しているのかね?

(忌々しい!!死に体の海派共め・・・なら・・・)


「ほう・・・ならこちらとしても、その成果をそちらの場で見せればいいですかな?」


「ガボネ・ガボンネ伯爵殿・・・自慢の『重鎧士』とやら・・どれ程のモノか見せてもらいたいです・・・勿論・・・我々が仕切った場で優勝しても文句は言えますまい・・・」


(バァカめ!!自分達でお膳立てした手前だ・・・泣いてすがったって許さんぞ・・・くくく・・・)

——ザワザワ・・・

——コレはとんでもない事になった・・・。


——今年の『武戦大会』は国家間の代理戦争だなこりゃ・・・。


「国王陛下・・・宜しいのですか・・・?」

「ふぅむ・・・この場で取り決めたのは彼らだ・・・それ相応の責務を負い・・・そして、決めた事・・・。我々はその行く末を見守るだけぞ・・・」

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