#7 厳戒な場所へ出入りするにはそれ相応の権利を利用した方が良いよね

-20-


ベテラン冒険者達とは例の旅籠街で別れ、別行動をとることになった。


実際、俺達の目的は本都『サーヴェランス』であったし、彼らはその直系城下町『アレー・ジュア』までだ。


アッシュさんの手引きでその日の午後には『サーヴェランス』へと出立する。


それは今まで乗って来た馬車とは別の意味でグレードが段違いだ、元々乗って来た馬車が一般用だった事を指し置いても・・・。


その馬車は杖と太陽、月桂樹を模した刻印を刻んだ、セントナイツウォーリアー専用に拵えた馬車だ。外見は上品な黒の冶金で拵えた外装、シルバーの上品な縁取りに、月桂樹のレリーフを施している。


特に内装は恐ろしい程白い。

シート機構からひじ掛けを始めとした、8人乗りという大所帯ながら。広く拵えた内装はダルダが目を見張るほどの様な職人の技が光っていた。


(まさしく、馬車のリムジンだな・・・こりゃぁ・・・)

乘ってから暫くして、実際走っているのか否か錯覚を起こすほどの揺れが全くなかった程だ。


俺は脳内である不安をよぎらせる。

元よりネイア姫、金狼貴族という貴賓レベルの厚遇を受けてもおかしくない。しかし、任の内容を関知している俺達からすれば目立つ行動は差し控えるべきだと俺は考慮していた。


「っていうか・・・俺達、目立つわけにはいかないでしょ・・・?」


俺は不安の末にネイア姫に耳打ちする、俺達の目的は『ヴォルガング』と『サーヴェランス』の裏での交渉という表面上表すわけにもいかない。

しかし、帰ってきた言葉は意外なモノだった。


「確かに目立つ訳にはいかないですが・・・ですが、今回はアッシュ様の手引きを利用した方が色々事がすすみやすいと思います。」

「なんせ、セントナイツウォーリアー仕様の馬車であれば検問に引っかかる事なく通過できます故に・・・。」


「そんなに厄介なのか・・・」


ネイア姫、ヴィラの言葉に俺は驚く。アッシュさんが答える。


「まぁ簡単に言えば、平民で最初に入る際に身元を調べ上げるまで一週間以上。制約で丸々一日は食われるからね・・・、それを無視して本都には居るのは破格だよ。」


-21-


馬車の中で、アッシュさん主導で話を切り出した。


「君たちの目的は大体察している・・・まぁ正直、君たち程の立ち位置じゃないと如何にもならない事態になっているからなぁ・・・」


アッシュさんは心底ウンザリとした表情、そして続けて語る。


「さっきのブラハム準男爵は、危険人物の一人でね・・・山派の貴族でも下っ端の腰巾着なんだが・・・」


「あの男の行動が異常に早く現れた事・・・ひょっとして『赤熊獣』に関わりが?」


ヴィラが直感的な回答を促す。「どういうことだス?」と疎いダルダが首をかしげたのを横目で答えた。


「あの赤熊獣は異常な体臭を持っていました・・・人為的に変異させた黒熊獣の亜種かと・・・」


ヴィラの言葉にハルーラが促した。


「要はあの魔獣の一団は・・・故意に育成していたって事ね・・・まぁ魔法や薬学があればワザとそういう個体を作り出す事は出来るけど・・・」


「訓練用とか?」

「あのような危険な個体で訓練なんて・・・聞いた事は無いです・・・。」

「貴方なら、それでも足しにならないでしょうに・・・」


俺が突飛もなく答える、突飛の無い回答にミステイアが首をかしげ。ヴィラが突っ込む。そんな光景に苦笑してアッシュさんが答えた。


「あるさ・・・『重鎧士』っていう兵装を担う為の訓練用としてね・・・」

「ひょっとして、アッシュ様はその情報の真偽を確かめる為にブラハム準男爵殿を監視していたのですか?」


ネイア姫を始め一同、アッシュさんに視線を集める。


「はい・・・ネイア様、山派貴族達が良からぬ行いをしているとダルク侯爵様からお伺いし、警戒を促す様に申し付けられました。」


神妙な面持ちのアッシュさんがネイア姫に答えた。


「見えてきました・・・城塞都市・・・サーヴェランス・・・。」


ミスティアが窓に写る影に指を指した。補整された街道の先に延びた先にあったのは、巨大な白い壁と建造物が合致した様な城塞都市だった。


-22-


『壁幕』という言葉で表現してきたが、『サーヴェランス』の都市外壁。

一言で言えばまさしく、『城壁』という機能的な意味合いが強かった。ざっと10m以上は優にある、整然としたどこかしら幾学的で無機質な・・・機械然とした壁だった。

大き目の関所を設けた街道には蟻の列の様に並んでいた。


「すげぇな・・・全部・・・行商人か・・・」


酷く込み入った商業の馬車たちの列が出来ており。俺はそれを横目で見るのだが、随分と待たされた様子だ。


「なんせ、住んでいる貴族毎に取り付けや確認をしているからね・・・この都市に出入りする事すら、難儀しているのだよ。」


「貴族都市と言う話は聞いたでしょうけど、なんせ一介の商店は愚か商品の購入は行商呼びつけて買うのが当たり前なんですよ・・・。」


アッシュの言葉に続いてネイア姫が説明をし、ヴィラが付随して補足をする。


「もう一つは都市内部に不審者を入れない為の対策でもありますわね・・・。」


要は、都市内部に住んでいるのは国家レベルの賓客。命を狙われるのはザラ、その対策のために病的なまでの警戒態勢を毎日行っている訳だ・・・。


窓越しから、見上げる行商人たちの顔に驚きの表情。

俺達が乗る馬車は、そんな視線の中で、関所の奥へと我が物顔で突き進んでいった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る