#4 自分の使う武器を改めて見直すと新たな発見があるよね


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鍛冶屋ブラックスミスギルドの受付奥にある、共有工房。

共有工房にある、奥の部屋で『魔剣』に関する細かい話をする事にした。


工房へ一歩入れば。

鉄の匂いと焼ける空気が漂う、外の雨季の真っ只中であったのにも関わらず。

そこの空間は年がら年中変わらないと直感した。

石と鉄の空間に隔たった熱気は恐ろしい程に渦巻いて、更にどこか懐かしくもあり耳にした事もある音が響いた。


ガン!!ガン!!ガン!!


その音はよく聞きなれ、その空間の熱気と言うのはこういうモノと言わんばかりだった。

肌によって焼ける空気。

その根源の火床ほどを始め。ふいご・大槌・小槌・金床・テコ棒にテコ皿と火箸がご丁寧に整然と並んでいる。

俺から見たら何をどうやって、使うのか今になっても想像もつかない。部屋の住まう連中は、それを手足の様に使い分け、迷いなく選ぶ。


ガン!!ガン!!ガン!!


切りたがねで打ち据えて、火花を散らた。打つ度に鼻につく鉄の匂いが漂うし懐かしくもある。


そんな音を背景に、突き進み更に奥の仕上げ部屋に入った。そこが目的の部屋だ。

せんすきや、トンボすきがおいてあり。更に年季の入った作業台が置かれている。その机の上には何万と言う刀剣が置かれては、磨かれているのだろう。


「そいじゃまぁ・・・みてみるかの・・・」


「レージさんの剣とんでもないダスね、こうやって見ると・・・」


その幾万の剣の一本として、机の上に置かれたのは俺の剣。ゴトリと置くと、ダルダの父が手を伸ばす。


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やはり何度も見ても、真っ黒いの柄頭から鍔元まではいたってシンプルだ。

俺の眼からは見えても、双葉の鍔には微細なレリーフにダルダの父は目には多種多様な道路標識の一つに見えたのかもしれない。


「フンム・・・純・・・魔銀鋼じゃな・・・このレリーフは・・・ほっほう・・魔脈の紋じゃ・・・ひょっとしてお前さんの知り合いに魔導師がおらんか?魔眼持ちのな・・・」


「・・・居いました・・・」


単純でかつシンプルな返答をすると、ダルダ父が言葉をつづけた。


「ふーむ・・・教えてやろう・・・魔脈の紋って言うのはのう、魔力の通り道じゃ。分かりやすく言えば、剣の魔脈・・・まず間違いなく、刀身のの部分にも施されておるはずじゃ・・・おおよそ、お前さんはそれを儂らに伝えに来たんじゃろう・・・」


図星だ・・・俺は素直に頷き、そして口を開く。


「はい・・そうです。魔剣には魔導師の指示の下で魔銀鋼による、冶金と彫刻を彫らなければ意味がないそうです・・・」


俺の言葉を聞きながら。職人は楔に柄尻、切羽に鍔、手慣れた手つきで外していく。あっという間に俺の魔剣がバラバラになっていった。

そして、切羽からの身幅が細く、を埋めていた黄金の縁取った黒鋼のカバーが外した・・・・。感嘆の声が上がる。


「相変わらずじゃのう・・・」

「ヒエッ・・・」

「うっへぇ・・・・」



ダルダ父に娘、俺も飛び込んだ精緻の世界に驚いた。その中心は正八面体の石で、金色の縁取りがなされた。

正八面体の石を中心に広がるのは、鍔に刻まれた『魔脈の紋』と似た刻印が、全体にビッチリと綿密に、精緻に、刻み込まれ。


当初、俺が手渡された時に俺が菱型の石と思っていた飾りの部分には目を疑うモノが広がって居た。

そのひし形部分は、正八面体の一つの石の一部分だったのだ。

石の内部は宝石の様に手が加えられた、自然な物体とは思えない程とは思えない。

酷く人工的で幾学的な筋が光となって放つ、ぼんやりと前世のイメージにあるCPUのチップの回路に酷似し。細々とした刻印にはうすら気味悪くもあった。



「やっぱりのう・・・間違いない・・こいつあぁ・・ガラムの仕事だなぁ・・・」

「ガラム・・・?」


「・・・・っ!!」


やはり、職人同士だとこういう所では世間は狭いらしい。

そして仕事を美酒に酔う様に褒め合うもの。思わず俺は肝を冷やす、マズいな俺が例の勇者の一行の関係者だとバレる・・・正直に言うべきだろう・・・。

そんな俺の心情を察したか、ダルダ父の次の言葉に俺は驚いた。


「ダルや・・・スマンが、お前さんはちぃいとばっかし席を外してくれんかのう・・・。」

「おとーん・・・なんでだス?」

「正直に言えば、お前さんには知るに早い事での・・・すまんがな・・・なに・・なんか食って待ってろ・・・な?」

「そーいうことなら仕方がないダス・・・」


内心俺はホッとしつつも、ダルダ父の次の言葉には覚悟する。


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ダルダ父は何も言わなかった。

彼が一旦席を外し棚から厳格な小箱を開ける。恐ろしい程の美しい工具は余りにも武骨な工房には不似合いな器具とも言えた。

彼は片眼鏡を付け、その化粧道具にも酷似しているブラシを手に取ると、綿密な彫像部を奇麗に磨き始める。


「小童・・・ガラムは元気かえ?」

「はい・・・今はグランシェルツにいるそうです・・・この剣は一年前に俺が村から出る際の餞別に・・・」


何度見ても精緻な刻印に、酷く緻密でとても繊細な部分には極細のブラシで研磨する。ブラシの先は不思議と光っていた、彼はその事を気にも留めずボヤく。


「ったく・・・こんな子供にとんでもないもんを・・・。」

「その剣について・・・何か・・・」

「いいや・・・気にしなくてよい・・そうじゃ・・お前さんは一般的な魔剣についてどれだけ知っておる?」

「そうですね、石持ちの魔獣相手だと純粋な魔銀鋼で作った魔剣じゃないと効かない・・・そして、さっきも言いましたが魔剣には魔導師の元で作らないと意味がない事です・・・。」


彼は成る程なと・・・肩で息をする。しかし作業を一向にやめようとはしない、体の所作が染みついているからだ。


「『魔剣』って言うのはな、元はある一族しか使えない剣なんじゃ・・・」

「一族?」


俺の短い返事を耳にして作業をしつつ、語り始める。淡々と作業をしつつ言葉短めだったのは、集中に削がれぬ様に彼なりに留意しているのだ。


「剣聖の一族じゃ・・。祝福を受け魔剣を携える事が許された一族とも言われてのう。・・・その精製方法は、彼らだけでは形に出来ないと言われていた。」


唐突だった。

荒唐無稽な御伽噺に戸惑いながら、聞き入る。

彼の指先は恐ろしい程に迷いが無い。反対側をクルリと回す。


「一つは・・・我々地人族もつ鍛冶と冶金の技、一つは魔脈と同期した人間と知恵、そして一つは万象の耳長の眼があり。初めて作り出せる代物じゃよ。」

「・・・では・・・騎士達が持っている魔剣って言うのは・・・?」


手を止めず、彫刻部の研摩に専念しながら答える。


「あれは、人の手で扱えるように仕向けた。どうしても魔獣に対して討つ力は必須だった。それゆえ、彼らは魔銀鋼の精製方法のみを人に教えた・・・剣聖の一族は『魔剣』の真のリスクを知っているからだ・・・。」

「真のリスク?」


彼は口籠ったしばらく沈黙する、彫刻部の清掃を終わらせる。


「『魔剣』を持つ者、資格亡き者手にすれば命を落とす・・・だから・・・『魔剣』と呼ばれるのだよ・・・。」


に刻まれた、彫刻部分は見違える様に輝いていた・・・凄い。こうも奇麗に見違えるのかと、内心驚いた。


次に覆う黒鋼、鍔、柄、切羽に柄尻の装飾に楔と・・・僅かな塵を研摩の筆で丁寧に研磨されて輝きを取り戻す。こういう仕事ぶりは、見ていて飽きない。息をするのも忘れる程だった。

俺の魔剣を丸一日かけて綺麗にしてくれた。全ての仕事が終わらせたのは、夜が更けはじめた頃た。この一年分の汚れと塵がすっかり消え失せた。

改めて見て新品同様に輝いている。


「わざわざ・・・此処まで・・・本当にありがとうございます!!」

「下賤な奴らをノシてくれた礼と思ってくれ・・・。奴らの事だ、お前さんを狙うに違いないからのう・・・。それに、この『魔銀の刷毛はけ』は『魔剣』のみならず魔導師の杖なんかの彫刻部を研磨するのによく使われるんじゃ。」

「おとーん、お仕事終わった?ご飯用意しただス、レージさんも食べるだスヨ」


工房での空気を読んでダルダが現れる、彼女はこういう事には慣れている様子だ。受付にはギルド会員達が飲み食いをする連中であふれかえっていた。


「まぁ、手間賃払いたければ、飯代は払ってくれや?」

「モチロン、喜んで。」


こうして夜が更けていったのだ。


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