#3 需要と供給はバランスをうまく取らないと維持できなよね

-8-


「ガハハハハ!!!見てくれ以上に腕っぷしは良いのう!!しかし、うちのギルドに入っているギルドの面子は。個人経営で生業としている小さいギルドなんじゃよ」


鍛冶屋ブラックスミスギルドの受付場は結構広々としている。

なんせ、立ち入る客の殆どが地人だからだ。

皆小柄ながら幅広な体格、木製の床には所々修復の後が散在するも、気にもせず歩き回る。

玄関先での大立回りを知った受付嬢が、サービスと言わんばかりにわざわざ俺にジャケットを着せてくれると、口を開いた。


「さっきはありがとね・・・うちのギルドはね、個々の客をメインにオーダーメイドで注文する個人工房が主なのよ。製造する為に魔銀石なんかは別個で仕入れなければならなくてね。ギルドでそう言う材料を大量に仕入れる為に作ったのよねぇ・・・」


受付役の人は獣人の女性で兎を模した耳を生やしており、飄々として俺に口頭で説明してくれた。


「さっきの連中は『ゲスノズ商会』と言うゴロツキ連中よ・・・目を付けられているから気を付けて頂戴」


彼女はそういって、ウィンクする。美人にそう言う目で見られるのはかなり歯がゆいのは。前世から引き摺った、異性に対する免疫の無さか・・・?


「いやぁ・・・レージさんに大変迷惑かけただス・・・アイツら、ここ最近。頻繁にやって来ては。妙な魔銀石を高値で吹っ掛けてきたダスヨ・・・」


受付嬢がわざわざ、用意した円型テーブルを囲む。

面々はダルダ、ダルダ父、ダルダ工房の関係者とズラッと並び。うさ耳獣人がサービスと言わんばかりに。アルコール度数が滅茶苦茶低く薄い飲み物・・・ロー・エールをジョッキで差し出す。俺はそれを勢い余って一気に飲み干す。

元よりアルコール度数はそこまで強い酒と言うには水気が強い。ビールをコレでもかと言わんばかりに酷く薄め。生姜に似た薬味の風味が酷く鼻につく、どっか癖のある飲み物だ。

北方では体を温める為によく飲まれ、その味を久々に感じつつも、本題の前に自身の知識分量をひけらかす。


「確認なんだけど・・・魔銀石って、魔銀鋼の原材料・・・本来は市場に流れて来るのは、製鉄ギルドで認められた魔銀鋼・・・で、それ以外だと魔銀石を直接、商会から独自購入して・・個人で独自に精製する・・・だったよな・・・」


言葉をつづけた。ルイーンさんから聞いた内容を説明する。


「・・・で、ここからが本題。結果から言うと。ここ、レイグローリーに出回っている分量だけ輸送した量と全然合っていない。実際に確認をとったら、レイグローリーの市場現場だけ供給過多状態だ。」


「なんじゃそりゃ・・?」

「えぇっと・・・どういうことダス?」


俺の言葉に首をかしげる一同。俺も分からない。


「ルイーンさんも、この実態に頭を悩ませてるんだよ。なんせ量が多いっていう事だけでなく・・・不思議と質も負けず劣らずの上物と言うのがね・・・過剰供給で市場が混乱しているんだよ・・・。」


見えない相手の意図が全く理解できずに俺も困惑していた。市場と同等の質を、法外で高額で売りつける意図が理解も把握も出来ない。

一つだけわかるのは、荒らしている面々だけは確定的にわかっていた。ダルダがそれを口にする。


「さっきの奴らだス・・・『ゲスノズ商会』って奴らだスよ。あいつらが何処からか持っていた魔銀石を法外な価格で売りつけようとしたダス・・・きっと他のギルドにも上がり込んで、押し売り紛いをしてきたダス・・・」

「『ゲスノズ商会』・・?」


商会の名を俺が復唱する、如何にもな名前。今度は彼女の父親が悪態混じりに説明した。


「連中はぽっと出の新規の商会でな、殆どはビガーの様な悪たれの集まりじゃ!!」


その悪態に続いて、ダルダは『ゲスノズ商会』について話す。


-9-


『ゲスノス商会』っていうのは、一昨年の冬場から発足した商会。

去年の冬から唐突に勢力を伸ばしてきた。取り扱うのは、ギルド関連の下請けを始めとした下部組織だという。所詮ゴロツキ商会で、その上位組織というのが・・『傭兵ギルド』というのだ。


「『傭兵ギルド』?」

「『傭兵ギルド』は、騎士さんとは違って、小規模の魔獣退治を生業とした日雇い兵士の事だス。レージさんは知らんかっただスか?」


あー・・・俺はてんで、しらんかった。そんな顔をしていると。ダルダは『ヴィラ様の気持ちがよくわかるわー・・・』って言う顔になっている。あ・・・はい・・・と言う訳で俺は弁明する。


「そうだなぁ・・・旅先だと、ドーニンドー商会の伝手で渡って来たから。そういうの無縁だったなぁ・・・行く先で色々で打ち払ったけど・・・」

「まぁ・・・レージさんなら率先して人助けするっすから、まぁ無縁な世界なのは解るっス。」


マイルドな言葉で擁護を受け、喋り続ける。


「ん~でな、その『傭兵ギルド』の仕事って言うのは本来。魔獣以外にも護衛や警護、他には災害救助と何でもするっす。いわゆる何でも屋っス、その『ギルド』は主に土地の警護やら村の助っ人が主なお仕事っすよ。」


万屋か・・・見えて来たぞ・・・何となくのイメージを俺は口にする。


「ひょっとして連中は、上役の『傭兵ギルド』からの依頼以外に・・・グレーな仕事を引き受けている連中ってわけ?」


的中したらしい、ダルダの糸目が更に険しくなった。周りも頷きながらダルダが肯定の返事をする。


「そうだス、連中は別個で直接仕事を引き受け。その行いは殆ど犯罪紛いの行いっス。本来は上役のギルドに報告する義務があるっス、連中はそれを無視して非合法で犯罪的な仕事をホイホイ受けて。取り調べでは白を切り通しているっすよ・・・」


ギルドと言うシステムとしては上下の間は絶対。それを蔑ろになれば現場での連携も取れなくなるという。聞きかじり程度の知識だがそれでもぼんやりと輪郭が見えて来た。

が・・・その証拠は何一つないのだ・・・。特に連中が持っている魔銀石の出所は・・・。


-10-


——レイグローリー、北部に位置する、倉庫街。そこの一角は『ゲスノズ商会』の本拠兼倉庫。

——その一角は、ワシが全財産をはたいて買い取った倉庫じゃ・・・そして管理しているのは秘かに掘り出した魔銀石の山・・・。こいつを市場に流す為に、わざわざ商会を立ち上げた・・・なんだが・・・。


——くそ!!なんだあの餓鬼は!!

——こっちの筋金入りの札付きの連中をボコボコにしやがってぇ・・・。鼻、喉、腹・・・一人一人が患部を抑えて足取り重く歩いてやがる。全く脂と骨で出来た豚が!!


「はながいてぇ・・・」

「ひぃ・・・げぇ・・ひいい・・・」

「げほ・・がほぉ・・・」


——くそっ・・・情けない連中め!!どう見ても餓鬼だろうに!!


「お前らいい歳して・・・あんなガキに、のされやがてぇ!!」


——木を削り取って形にした気に入りの杖を振り上げる、この情けない豚共には一回痛い思いをしなければならない!!糞が!!

——ビィシ!!バギィイ!!ガスッ!!ドガスッ!!


「ひぃい!!!」

「やめてくれぇえええ!!」

「いたい!!いひいいいい!!!」


——図体とイキリ具合はいっちょ前で!!くそが!!せっかくこっちは良い鉱脈を見つけて掘り出してきたって言うのに・・・!!!

——クソクソクソ!!


——何も言わねぇで、丸まってやがる!!くそぉお!!

——倉庫の奥の個室からドアが開く、真っ黒い襤褸切れマントを羽織った男・・・。


「ふん・・・随分手ひどくやられた様だな・・・」

「クソムカツク餓鬼がいてな・・・ジョー!!」

「餓鬼・・・?・・俺の仕事・・・か?」

「そうだ!!・・・・こいつらよりは腕っぷしはつえぇ!!」


——超有名・・・魔獣専門傭兵ギルドの『ブラック』で『千人兵』にまでになったこの男・・・。上から数えて3番目のランクに就いていた、凄腕の傭兵じゃ!!なんせ主なキャリアは、北方の黒い大森林の魔獣を狩り続けた男・・・。

——あのクソイキリな餓鬼にぎゃふんと言わせてやるわい!!


「フン・・・人間相手か・・」


——へへ・・・不気味な奴だぜ・・・黒いマントとフード、二の腕まで纏った黒革。それと同じ様に両の手には指の先にまでの黒い手甲。両足も太もも半ばまで黒皮で覆っている、左手が義手の男。

——胸部には魔獣に抉られたような大きな傷が広がって居た。フードで覆った顔は獰猛な蛇の眼を表すような表情、髪は酷く赤い。


「グフフフ・・・まぁまぁ・・・気を立てるなよ・・ジョー・・わかるな?」

「まぁいい・・・人間相手・・・か・・」


——そういうや否や左手がダランとなる・・・鞭の様にしなるとガビーの一人が血飛沫を上げた


「アッブボォエェエエエエエエ!!」


——真っ赤に染まったガビーの一人を見て逃げようとする、・・・が

「オッボエェエエエエエ!!!」

「アヴヴェヴェヴェヴェヴェ!!!!」

——のた打ち回った、ガビー共は血煙噴き出す。他の面々は震えあがて居やがる・・・コイツは良い・・・コイツなら・・・。


——元傭兵ギルドで赤札を受けて追放された傭兵『赤霧のジョー』・・・


「忌々しい!!眼帯傷顔のベイビーフェイスが・・・!!」

「・・・眼帯傷顔・・・ほぉっ・・・」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る