#9 出鱈目と言われても持ってきたのは本物で偽物では無いよね
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「デタラメダ!!こんなもん!!」
だよな・・・速攻俺は脳味噌で毒突いた。外周には三国の学徒の面々が目を見張っていた。それは俺が持ってきた魔獣に原因があった。
街道中央都市アマチの外周を囲う、壁幕に入って直ぐの所に本部があり。夜の帳が下りていた。
富士額のデコっパケ、なすびの様なだらしない二重顎に。スケベ上司特有の糸目が何ともキモいオッサンが怒鳴る。
ジーベル魔導師総司令官と言うこの男、肩書だけが立派そうで、如何にも無能なオッサンは俺の弁明の言葉に耳も傾けない。・・・なるほど・・・ハンスと馬が合いそうだ・・。
「こんな作り物信用できるか!!!」
一応持ってきたんだがなぁ・・・マジもんの空飛ぶ魔獣。
『蜂』擬きをジーベル司令官は俺の持ってきた死骸を足げにする。
「オヤオヤ・・・ジーベル司令官ではないですかぁ・・・?」
「ああぁぁん!???・・・ゲェッ・・・」
そう切り出したのは、あのシャクル・ガリーフ講師だ。猫背茫々の風体は直ぐに分かる。ジーベルの足げにした魔獣を見て目を見開く。
「すごいねぇ!!こいつは・・・新種だよ!!!新種の魔獣だ!!・・・ダァイハッケンダヨォオオオ!!!!」
ジーベルは心底嫌そうな顔になる。そんな中で追い打ちで、助けられた斥候部隊のリーダーが包帯だらけで現れる。
「君・・無事だったんだ・・・あっ・・・コイツだ!!例の空飛ぶ魔獣!!」
その言葉にどよめいた。ガリーフはそう言って死骸を見聞する。とりあえずそれに続いてガリーフは敵の特徴を解析する。
「まるで魔獣・・・と言うより羽虫に酷似しているねぇ・・・」
「そいつ電撃の魔法も使うし、その死体は切り落としたが両手は刺突のブレードっぽい爪を持ってる・・・接近戦も出来そうだよ・・・。」
「魔法だと!?」
「俺も受けたぜ!?あの電撃魔法・・きつかった・・・」
魔獣が魔法を伝える事、そして斥候の隊長も俺に同意し。それを聞いたガリーフは、オーバーリアクション気味に興奮し、兵士達に検分用のテントに持って行く様に指示した。
「ん?アレ?ジーベルは?」
シャクル講師の一言、皆顔を見まわす。
その頃には、ジーベルはいつの間にか姿を消していった。
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シャクル講師は検分の為に俺達と別れた。
斥候の隊長、アークと名乗った騎士見習いは彼らのいる相部屋へ訪れた。そこにはネイア達も居た。全身包帯の痛々しい姿ながら、ネイア達の美少女らに溶解液や切創でやられた部位を薬草液で拭って貰っており。天国気分のご様子、ものの見事に鼻の下を伸び切っていた。
「お前らなぁ・・・」
隊長の面目は丸つぶれの様子だ。俺も愛想笑いをする・・・だが・・男ならわかる・・・わかるぞ・・・!!
一目散に俺に気づくネイア、少し控えめに俺に安堵するミスティア。既に気付いていたヴィラは騒ぎの事を察し、ハルーラはノリよくそれを聞き出そうとする。
「レージ様!!ご無事で!!」
「ああ・・先輩!!・・・!!」
「この男が、あの魔獣ごときで遅れはとらないわよ・・・で・・・」
「表が結構、騒がしかったけど?レージ君・・・」
「ああ・・例の飛行魔獣の死骸を持って来やがったんだよコイツ・・・俺達が苦戦したのに・・・」
「原型留めるのにいろいろ苦労して・・・一体だけなぁ・・・」
「凄いダス」
「確かにすごいわね・・・貴方が原型を留めて仕留めるなんて・・・。」
アークの言葉に斥候部隊の面々が「なにぃ!??」と驚愕する。ベット越しで顔を見合わせ、信じられんと言う表情をしていた。称賛するダルダと皮肉交じりのヴィラ、二人はマイペースに溶解液で部下の患部を丁寧に拭っていた。
「ほっ・・・ほら!!ミスティアの赤焔衝で、アイツらだけだったからな・・・。ありがとう、ミスティア。ネイア姫の魔法障壁と彼らの介護。ダルダやハルーラさん、ヴィラも色々仕切ってくれて。こっちも発揮できたよ。」
アークは、改めて俺に向かって頭下げた。
「仲間に代わってお礼を言わせてもらう。本当にありがとう!!」
助けたのは彼女達で・・俺じゃないんだが・・・
少し的外れな感謝をされて、やや恥ずかしい気持ちだった。
彼らの看病は、神聖国家サーヴェランスから派遣された、聖杖師団の医師と医師見習いの面々が現着し引き継ぐ事になった。同国のセントナイツウォーリアは、フルプレート系の鎧を纏い物々しい也でアマチの街道を見回りしていた。
こうして、三国の戦力が集結したアマチの情景はこの街名物の光景へと様変わりする。
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——スフィア・アース王宮魔導師団魔導師総司令官室、アマチの中でも一際立派なホテルの最上階を牛耳っている。所謂スィートルームと言う奴だ、もちろん儂にとってはこの部屋がふさわしい・・・しかし・・
——忌々しいクソガキ共め・・・金蔓のハンスの間抜けもそうだが・・どいつもコイツも無能無知蒙昧なカス共が・・・・ッ!!
——クソガキ・・・ッ!!忌々しい・・・レイグローリーからの横流しの物資と資金が途切れて早ひと月・・・。謀殺目的で、出張らせたのに・・・まさか、本当に空飛ぶ魔獣の死骸を持ってくるとは・・・。クソックソックソッ!!
——いつの間にかサーヴェランスの面子も現着するし・・・。忌々しい・・・しかもあの、『パンドラ』のガリーフとも接点を持って居やがる・・・クソ!!
——我々は魔導国家だぞ!!??先進魔法国家のスフィア・アーツなんだぞ!!???
——脳筋のグランシェルツや魔法後退国のサーヴェランスの連中とは・・わ・け・が・ち・が・う!!!
——ましてや・・・レイグローリーィの様ないい加減都市のチンピラ共とは絶対に違う・・・グヌヌヌヌヌ・・・・
『そうだ・・・違う・・お前の国、スフィア・アーツは他の国とは違う・・・何故ならお前は、あのミスティアと言う少女を立派な魔導師に育てたんだからなぁ・・・』
「だ・・誰だ!!??・・なぜそれを!?」
『私はお前の味方だ・・・ふふふ・・・勿体ない・・・お前の手に残れば立派な苗床になっただろうに・・・』
——なんだと?・・・どこまで知っている・・・っていうより、この部屋にいつの間に・・それに全身黒フードの風体をして『味方』・・・私の行いを何故知っている?!・・・それに・・なんだ・・あの石は?
『信じる信じぬ、どうでも良いさ・・・だが連中が厄介なのは私も同じ。要は利害の一致って奴さ・・・私もあの餓鬼どもが少々目障りでな・・・コイツを使って連中を陥れる事が出来る・・・。』
「・・・あのレイグローリーのクソガキ共を目の敵にしている奴等か・・・?」
——ん・・・なんだこれは・・・?・・・これは・・・宝石?
『こいつを例の羽虫獣の死骸を植え付けるがいい・・・ヒヒヒ・・・そうすれば・・・その混乱に乗じて・・・お前が手塩に育てたミスティアが再びお前の元に戻るだろう・・・』
「ふふ・・そうかっ・・・それでミスティアを・・こいつは良い・・・ククク・・・」
——よぉおし・・・これを使い・・うまくすれば・・あの苗床を・・・ぎひひ・・・
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