第11話 無実ですわ

 会場はざわついていた。

 このままではまたもや無実で断罪されてしまう!しかも今回は死刑!


 私やってないんですぅ!!

 その時…


「セシリア奥様は無実ですわ!!」

 とアグネスさんが前に出た。従者のジョルジュも


「そうです!奥様は人殺しなど目論んでおりません!!そんなことができる方ではありません!屋敷の使用人の悪いところを正してくださいました!」

 ニールも


「そうです!奥様は確かに我が強いですがそれは人を殺すとかではありません!人間としての強さです!正しい魂を持ち行動しています!そちらの赤毛男は奥様を誑かそうと媚薬の香水をつけ奥様を嵌めようとしました!怪我をした侍女のリネットから真実を聞けばいいでしょう!」

 と反撃する。


「それに落石も明らかに人為的な罠が施した痕跡がありました!!私達だって命を落としていた可能性があります!」

 とジョルジュも叫ぶ。


「戯言を!まるで俺が罠を仕掛けたとでも言いたいようだな!!」

 と王子は否定し…

 私達と王子達はお互いに睨み合った。

 ローレンス様は続けて言った。


「失礼ながら…エステル様は…本当に妊娠されていたのでしょうか?妊娠発表からまだふた月と聞きました。ふた月ではまだお腹の張りは少ないでしょうし外見は全く判りません!


 居りもしない子ができたと言い、セシリアさんとの婚約を破棄させたばかりでなく今度は彼女を架空の子殺しの犯人に仕立て上げたのではないでしょうか!?そうでないと子が殺されたと言うのにそんなドレスをキッチリ着こなして皆の前に出て来れる筈がない!!」

 と言うローレンス様はビシリと言い放った!!

 エステル嬢は王子によりかかり


「酷い…私を疑うなんて…主治医に聞いてみるといいわ…」

 と涙する。

 国王陛下も王妃も来賓客もあっちを見たりこっちを見たり複雑な顔をしている。


「父上!!母上!!私が嘘をついているとでも!?全てこいつらのでっち上げに過ぎない!」

 とエルトン王子はさらに詰め寄る。

 しかしそこで味方がまた現れた。


「恐れながら国王陛下!王妃様!我が妹は王子と婚約期間中の間…デートの一つもしていません!もちろん男性と手を繋いだことも無ければ付き合ったりしたこともないのです!根本的にこいつは男性に興味がないのです!兄である私が証明しましょう!」

 お兄様!その言い方だと女の子しか好きじゃないみたいなことになるからやめてほしい。

 すると陛下は顔を曇らせ


「た、確かに…エルトンがセシリア嬢とデートに出かけることは無かったと思うが…」


「た、確かに…茶会には何度か来ましたが…二人とも仲睦まじいとは言えなかったような…」

 王妃様も思い出すように顔をしかめた。


 その場は一瞬シーンと静まり返った。


「ごめんなさい!私は…王子のことを好いたことはありませんわ!」

 とついに私は言う。


「なっ!…う、嘘を申すな!!エステルに嫌がらせしたのは俺のことが好きだからなくせに!結婚してからも忘れられずエステルの子を…」

 と王子は焦る。そんなわけないだろう。何でお前のことが好きなんだよ?と冷たい目で見ると


「くっ!その目!本当は照れ隠しだと思っていたが違うのか!?」

 違う。きちんと軽蔑してる。


 アグネスは言う。


「ですが…奥様と旦那様はとても仲睦まじく馬車に乗っておられました。私には偽りと思えません!リネットさんからも聞かされております…。奥様は確かに王子を好いてはおられなかったようです」


 その真剣な眼差しにエルトン王子は気圧され…私と旦那様の強い目を見た。

 ローレンス様は私の腰を取り引き寄せた。そしてこれは大嘘をついた。


「つつつ、妻とは結婚してからままま毎日毎晩愛し合っておりますので!!!浮気などあり得ないのです!!!私の禿げを大変気に入っております!!」

 とクルンとステップを踏み後頭部の禿げを国王陛下や王妃に見せつけまたシーンとした。

 しかし陛下と王妃は耐えきれず爆笑した!!


「ハハハ!!何だそれは!!」


「あ、あら…ホホホ!!まぁまぁこれは!!」

 とお腹を抱えた。


「禿げていても笑わないでいてくれるのが妻のセシリアです!そんな優しい方が裏切るはずはありません!」

 ともう一度旦那様は陛下達に向き直り言うと…陛下は


「うむ…ファーニヴァル伯爵…。この件改めて調べさせてもらう…すまぬが今宵の結婚発表だが…もう一度調べてから執り行う!」


「そんなっ!父上!!ど、どうして…」

 とエルトン王子はまた焦る。


「エルトンよ…お前は私の子だ…。狡猾で嘘を付くことも昔からあった。親の私が見抜けないと思うてか!?この件はきちんと調べさせてもらう!


 さぁ、皆、折角来たのだ!今宵の夜会を楽しんでくれ!もうじきに冬がくる!社交シーズンも終わりだ!」

 と国王陛下はおっしゃって音楽隊が慌てて演奏に戻った。

 エルトン王子は私達を睨み


「俺は信じない!信じられるのはエステルだけだ!不愉快だ!エステル!行こう!まだ安静にしていないと!無理をさせて悪かったね!」

 と逃げるようにエステル嬢の肩を抱き兵士に縛られているウォルトには


「さっさとそいつを連れて行け!」

 とウォルトは口に何か皮のマスクを嵌められモゴモゴと言おうとし、涙目で私の方を見た。

 しかし兵士に連れて行かれる。


「セシリア!待っていろ!きっと俺が証拠を突き付けてやる!!」

 王子はビシリと指をこちらに刺して決めてきた。

 それはこちらの台詞だ。

 エステル嬢は泣きながら


「いえ…エルトン様…もういいのです。どうしても私の子を殺した女がどんな顔をしてここへ来たのか見たかったのです」

 とシャアシャアと言い放たれた。私の顔が子供が亡くなったことよりも見たかったらしい。

 王子達は大広間から出て行った。


 二人が出て行った後も皆動揺していた。どちらを信じればいいのかヒソヒソと話し合っていた。


「ローレンス様…一曲踊り帰りましょうか。折角旦那様から頂いたドレスがダンスも無しで帰るのは辛いですもの」

 と言うとローレンス様は赤くなり私の手を取り、その手にキスをし


「美しい妻セシリア!僕とダンスを踊ってください!」

 と言い、何も悪いことはしていないと堂々としてみせた。


「はい!」

 と手を取り私はローレンス様とダンスを踊る。


 禿げた伯爵と美女が踊り始めたのでその場の張り詰めた空気が少し和らぎ皆再び禿げを見て笑いを耐えていた。

 いつもは自信を無くしてションボリしているローレンス様は笑われても気にせず頑張って胸を張り踊る。


「美女と禿げが楽しそうにダンスをしている…」

 とヒソヒソと声が聞こえるが気にせず踊る。

 練習を頑張ってきたのでローレンス様は何とか間違えず踊りきった。


 他の者も様子を見つつ踊り出した。


「ローレンス様…。先程ははっきり仰ってくださりありがとうございます。とても凛々しかったですよ!」


「あ…あれはいつものセシリアさんを見習い真似をしてみたのです…」


「まぁ!私を?」


「はい!セシリアさんはいつも正しいことを言いますし!そ、そこが素敵だとお、思い…」

 と目線が泳ぐ。


「まぁ…ローレンス様もいつもお優しく見ていると私安らぎますの!」

 何か癒しよね。顔は地味な旦那様で後ろを向けば禿げているけど日々見ていると癒される。それはローレンス様が純粋だからか。他の男達はギラギラとした目しか向けないしね。


 ようやく曲が終わり、私たちは早々に帰ろうとした。先程の王子達との言い合いで注目を浴びたしね。国王様達に先程の無礼をきちんと詫びて頭を下げて、グレンお兄様とクラリス様にも挨拶してそそくさと大広間を出た。

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