第12話 黒幕は…?
大広間を出て廊下を歩く禿げた僕にセシリアさん、アグネスさん、護衛のニールと従者のジョルジュ。
僕は先程までの緊張の糸がようやく切れたのかお腹がぐうと鳴った。
「わっ!す、すいません!!」
と慌てる!女性が二人も居る前で情けない!
無理もない。会場の料理には何一つ手を付けなかった。
「そう言えばお腹が空きましたわね。豪華なお料理はありましたけどほとんど誰も手を付けていないのだから」
とセシリアさんは言う。
しかしアグネスさんは
「毒味済みのサンドイッチ程度でしたらお土産としてお持ちしましたよ!」
と抜かりなく忍ばせていたバスケットを見せた。流石平民。
「馬車でいただきましょう!リネットの怪我は大丈夫かしら?」
と話していると後ろにいたニールとアグネスさんが突き飛ばされ、黒いフードを被った男がナイフを持ちセシリアさんの方へやって来た!!
咄嗟に僕はセシリアさんを庇うように前へ出たが、その前に従者のジョルジュが前に出てナイフを腕で止めた。
「うぐっ!!」
と呻くジョルジュはフード男にナイフを抜かれて血が吹き出した!
「きゃあ!!」
とセシリアさんが血を見て青ざめる。
ジョルジュも腕を押さえているが今にも倒れそう。僕は震えながらフード男に
「なっ!何者だ!!?こ、ここは王宮だぞ!?直ぐに兵士がやってくる…」
するとフード男は
「邪魔しやがって…死ねばいいのに…」
とその聞き覚えがある声で言う。まさか…この男は…
ニールが後ろで剣を構えている。
アグネスさんはニールの後ろから震えていた。
男はフードを取り去った。
「エルトン王子…やはり貴方が…」
とセシリアさんが言う。
「どけ禿げ!おい、セシリア!先程はよくも皆の前で俺に恥をかかせたな!人を悪者に仕立て上げよくもまぁ立っていられる!この人殺しめ!俺の子を殺した罪、必ず償ってもらうぞ!」
と尚もセシリアさんを責めた。
「待ってください!証拠もないのに!この件は陛下がお調べになると仰ったのに何故待てないのです?やましい事があるのですか?」
とセシリアさんが言うと王子は
「ふん!禿げた伯爵に嫁がせさぞ嫌な思いをしているかと思っていたのに幸せそうに笑いやがって!!これでは意味がない!俺はずっとお前が禿げに毎晩犯され悩んでいるとばかり思っていた!」
ひ、酷い!断罪し嫁がせたのはそっちなのに…。
「私は犯されてなど…。酷いことを仰るのね!旦那様は優しくて良い方ですわ!貴方とは何もかも違いますわ!」
とセシリアさんがキッと睨むと王子は
「嘘をつきやがって!こんな禿げ男が愛されるとでも本気で思っているのか!?こいつに向けられるのは同情と嘲笑しかない!それに俺に未練があるに決まっている!だからウォルトを誑かしエステルに毒を盛らさせ子を殺した!この悪女!」
と王子は再びナイフを構える。
ニールが動こうとしたが
「動くな!動くとこいつを殺す!」
とジョルジュの首にナイフを当てる。
「ひいっ、た、助けてぇ」
と情けない声を出すジョルジュ。
でも僕もガクガクだ。
「セシリア!こっちに来い!」
「王子殿下…私を殺すのでしょうか?殺してもお腹の子は返ってきませんしまだ調査も進んでないでしょう?本当にいたかも判らないのに」
「エステルが嘘をついているとでも言うのか!!?ぐっ!!?」
と王子は額を抑えて呻く。
何か様子が変だ。
「……!?王子?」
セシリアさんも何か異変に気付くが王子はジョルジュの血の付いたナイフを再び振り回してきた!
「危ないです!セシリアさん!」
と僕は彼女の前に立つ。
「うわああああ!!死ね死ね!クソが!全部セシリアが悪いんだ!!」
ビュッとナイフを投げ付けられ避けきれない僕は目を瞑る。
しかしセシリアさんが素早く動き持っていた扇子でバシンとナイフを弾き落とし床に落ちた。
「お前は死ななくてはならないんだセシリア。そうじゃないと俺はエステルと幸せになれない。死ね…セシリア…死ね」
と王子は虚な目でブツブツ言って懐からもう1本ナイフを取り出した!
その時後ろから王子の首にチクリと針のようなものが刺さり王子は気絶した!
「アグネスさん!?」
彼女が吹き矢を吹いたのだ。
「私…万が一の為にとリネットさんから渡されたのを思い出して…」
と言う。
「あ、ありがとうアグネスさん…」
とセシリアさんがガクリと膝をついた。
「わぁ!?セシリアさん!?」
と駆け寄ると僕に寄りかかる。気丈にしていたがやはり怖かったのか!?
彼女が少し震えているのが判った。
僕もガクガクだけども。
ニールが王子を縛り騒ぎに駆けつけた衛兵は何事かと騒いだ。
事情を説明していると
「何の騒ぎだね!?」
と国王陛下が護衛と共に現れたので皆ひざまづいた。
「ん?エルトン!?何故そんな格好を…。それに怪我をしている者が居るではないか!城の警備はどうなっている!?大丈夫かね?直ぐに医務室へ行きなさい」
ジョルジュは頭を下げて
「はい…陛下…」
と王子は担がれジョルジュも兵士に連れられて行く。
僕達は事情を説明した。
「なんと…エルトンがそんなことを…?」
「……陛下が疑うのならどうぞ私を拘束しご尋問ください!先程も申した通り私は無実潔白です!」
とセシリアさんは迷いの無い目で陛下を見つめる。
「ファーニヴァル夫人…此度のこと誠に申し訳なく思う。…だが…息子には不審な点がある。親の私が言うのもなんだが…元々君との婚約には乗り気では無かったにしろそこまでの嫌悪は当初は抱いていなかった」
「え?」
「エルトンの様子が少しずつおかしくなったのは君に隠れてエステル男爵令嬢と密会するようになってからだと影の者が報告してくれた。…私は息子が何らかの催眠状態にかかっているのではと少々疑っておるのだ…」
と国王陛下は息子の状態について話す。
「催眠状態…」
とセシリアさんは考え込んだ。
それが本当なら妊娠も周囲の者や主治医さえもそう思い込ませておいたってことなのだろうか?
「陛下は全てのことはエステル嬢が関わっているとお考えでしょうか?」
すると陛下はうなづく。
「何せエルトンがエステル嬢を守るように人を寄せ付けず今まで詳しい調査をできずにおった。今回君達が騒いでくれてようやく堂々と調査ができるよ。
エステル嬢との婚約に私はどうも乗り気では無かったのだ。下位貴族ということでよく思っていない貴族もおっただろう。
それに今回の襲撃や落石事故などファーニヴァル夫人に明らかな殺意がある。息子は曲がりなりにも王子だ。殺人など自ら起こす愚かな子では無かった。エルトンに尋問してもシラを切るだろう」
僕は聞いてみた。
「エステル嬢の出生や過去のことはお調べになられましたか?」
と。
「もちろんそれは調べたよ。だが何も不審な点は出てこず、皆こぞってエステル嬢を「いい子だ」「優しくて思いやりのある娘」「エルトンを心から慕っている」と良い評判ばかり聞く。ボロが出て来ないのだよ」
「陛下…妻を…セシリアを狙ったのはエステル嬢が黒幕だとお考えでしょうか?」
しばし僕と陛下は見つめ合うと陛下は
「ああ…。思っておる。あのウォルトとか言う平民もファーニヴァル夫人と浮気をしたとすっかり思い込んでおるが、何日に会っていたなどの質問をすると頭を押さえて呻いておったとの報告が上がっておる」
「そもそも会っていませんもの!」
とセシリアさんが言うと陛下は小さな紙切れを渡した。
「今後…私や妻に何か君達を疑い態度が急変したりした場合…この所在地に住む者を訪ねなさい。魔女と呼ばれておるが単なる人嫌いの引きこもりの老婆だ。薬をたくさん作っておる。特に精神に関わるものだ」
と言った。
「判りました!ありがとうございます陛下!」
「うむ…君達も気を付けて帰りなさい。それから伯爵…ちょっと…」
と陛下に手招きされる。
隅っこの方でヒソヒソ喋った。
「な、何でしょうか?陛下?」
陛下はボソボソと喋る。
「今度…王家に代々伝わる禿げに効く薬を送ろう。今回迷惑をかけた詫びだ。これは内密にな。王家に禿げが多いと知れ渡ると辛い。
実は私も最近前頭部からチリチリとヤバくてな…。
先程は笑ってすまんかった。不意打ち…ゲフン…ちょっと政務に疲れておったから久々に腹から笑ってしまった。
薬を飲み夫人とイチャ付けば直ぐに髪も生えよう。春には禿げた土地に新芽が生えて来る。その時はまた夫人と素晴らしいダンスを見せてほしい」
と言われた。陛下なりのジョークを利かせた心遣いだ。
「あっ…は、はい。あ、ありがとうございます陛下そんな大事な物…送っていただけるとは…」
「気にするでない…まだ君は若いのだから」
と陛下は背中をバシンと叩き笑う。
お礼を言い戻って来た包帯を巻かれたジョルジュと今度こそ馬車に乗り込みリネットさんの待つ宿へと再び出発した。
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