第9話 該当なし
「そうなんだよな~どんなに夢みたいな未来が待っていようとも、そこに日本人はいないという悲しい現実があるんだね」と、しみじみつぶやく。
「でも、いいじゃないですか、未来がどうであれ今アンさんは生きているわけで、そのこと自体が亡き者にされるわけではないですよ」と、大人口調で慰めるアイ。
「そうだな~明日なくなるわけではないし、俺が死んだ後に日本人がどうなろうと関係ないよな、第一、俺は総理大臣でも官僚でもないわけだから、そんな心配は要らないな」とあっさりと悲しい未来を受け入れる。
「ところで、他の国の人たちはどんな感じなの?」と、当たり前だが今更ながらに、いるはずの外国人の状況が気になって聞いてみる。
「他の国の人たち?・・・・それって、どういう意味ですか?」と全く意味が通じてない返事をして来る。
「いやいや、日本人はいなくなったということだから、例えば、アメリカ人やイギリス人や中国人や世界には色んな人がいるだろう?」と少し怒ったように聞く。
「アメリカジン、イギリスジン、チュウゴクジンなどというモノは、地球に存在した痕跡はありませんよ。何言っているんですか。地球に住んでいたのは日本人だけですよ」と驚きの言葉が返って来た。
「おいおい、しっかりしてくれよ~アイは22世紀にいるんだよな。一体何を見てそんなこと言ってるんだよ。学校でちゃんと習ってないのか?」とまたもや最後に怒り出す。
「アンさんこそ、何を言っているんですか?何か間違った情報を見ているんじゃないんですか?しっかりしてくださいよ」と、逆にたしなめられる。
「いやいや、そんなことないって・・・あっそうだ。ちょっと待ってて、今テレビつけるから」と言って徐にテレビをつける。ちょうどニュースをやっていた。
「アメリカのバイデン大統領は、新型コロナウイルスによる景気低迷の対応策として、国民一人当たり15万円の現金給付を決定しました」という言葉が流れた。
「ほらね、今、アメリカはバイデン大統領に変わって大胆な経済対策を実施しようとしているんだ」と自分の言っていることが間違ってないことを確信したのか勢いづいたように話した。
「そう言われてもね、無いモノはないわけで、アンさんのいう事を信じることは出来ないですね」とあっさり交される。
「あっそうだ!」とアンは凄い事に気づいた。
「アイ君よ、最初にタイムネットの相互通信に完成したって言ってたじゃん」と意気揚々と聞く。
「はい。これまではこっちから見るだけで、アンさんとの会話が出来ませんでした。それを私が、新しいアルゴリズムを開発し相互通信と出来たことで、こうやってアンさんとの会話が実現したんです」
「だよな・・・ならば、アイ君は、今俺が見ているネットの情報を見れるってことだよね」
「はい、そうですよ」と答える
「じゃあ、今すぐ見てよ」と、これで行けると思ってニヤッと笑う。
「はい、それを見て言ってるんですよ」と予想外の返事が返って来る。
「嘘言うなよ、アイ。俺が見ているネット情報にはバイデン大統領って検索すれば山のように情報が出て来るよ」
「でも、私がそのバイデンダイトウリョウと検索しても該当なしとしか出ないので、そう言うしかないじゃないですか」と答えて来た。アンは、この状況を受け入れることが出来ないでいた。
繋がっている未来が、全く繋がっていない感覚に襲われた。
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