第8話 夢と悪夢
「アンさん、何か怒ってます?」とアイが聞いてきた。
「別にアイに怒っているわけじゃないよ。未来に怒ってるんだ。余りにも違い過ぎる未来にね。いや。そんなことに怒っても意味ない事は俺だって分かっている。分かっているんだけど、何かムカつくだよな」と本心を吐露するアン。
「そうですか。未来から見ると、アンさんの時代は手に取るように良く分かりますよ。昔あって今無くなっているモノの意味が分かるから。生まれることにも意味はあるのですが、消えることにだって当然意味はあります。ただ、その理由が分からないアンさんにとっては、納得いかないところがあるんじゃないでしょうか」
「それそれ・・・何か狐につままれたような納得のいかなさがあるんだよ」
「ところでアンさんのお仕事は何ですが?」と遅ればせながら聞いてきた。
「俺か、一応小説家を目指しているんだけど、全く出版社は相手にしてくれないから、小説家とは言えないな。やっている仕事は警備員だよ。都心のオフィスビルで警備の仕事をやっている」
「それ、どんな仕事ですか?」と聞いてくるので、
「やっぱ小学校レベルでは知らないよね」と言いながら業務を教えてやる。
「へ~昔はそういうことをやってたんですか。そういうのも今では当然ありませんよ。全てコンピュータ管理なので、人は全く居ません」と意味深なことを言う。
「オフィスに人いないんだ。凄いな未来は」と感心するアン。
「っていうか、一体みんな何しているんだよ?」と慌てて問いかける。
「色々ですよ。前にも言った通り、僕みたいに時間旅行したり、自由に世界飛び回ったり、好き勝手やってますよ」と、自由な未来を教えてくれた。
「そうだよな・・・俺だって仕事がなけりゃ好き勝手何でも出来るもんな。でも、お金がいるだろう?どうやって稼ぐんだい・・・」
「オカネ、オカネを稼ぐって、どういう意味ですか?」
「まさか・・・お金もないのか?」
「はい。そんなもの有りませんよ・・・」
「じゃあ、どうやってモノを買うんだ。食べ物や着るモノや車とかパソコンとか、色々生活するのに必要なモノがあるじゃないか。第一、世界旅行にお金無しでどうやって行くんだよ」と矢継ぎ早にまくし立てる。
「まあまあ、落ち着いて・・・」とアイがたしなめる。
「欲しいモノがあれば、マザーに言えばすぐ手に入りますし、世界旅行に行くときだって、IDカードをかざすだけで良いです」
「あ~それそれ、そのIDカードってクレジット機能付きとかなってんの・・・」
「また、おかしなことを言いますね。何ですかクレジット機能って。そんなものありませんよ。ただ、いつどこに行ったから記録されるだけです」
「おいおい。たったそれだけで・・・・何でも出来ちゃうの。ママが何でも買ってくれんのかい?」
「カウという意味がイマイチ分かりませんが、マザーにお願いすると必要なモノは必要な時期に手に入りますよ。アンさんの時代は違うんですか?」と逆に聞かれる。
「全く違うよ。とりあえず、必要なモノを手にするためにお金というモノがいるので、それを稼ぐために必死こいて働いているんだ。でも、俺みたいにお金の稼ぎが悪ければ、世界旅行は疎か、国内旅行すら覚束ないわけで、アパートの家賃や電気・ガスといった光熱費やら、日々の食費やらを払うと殆ど手に残らない始末だ。一体何の為に働いているんだろうって情けなくなるわい」と嘆く。
「話の意味がイマイチ分からないのですが、21世紀はとても大変なんですね」とアイに同情されてしまう。
「そうなんだよ。未来が羨ましいわ。出来ることなら、このパソコンを通してそっちへ行きたいわ!」
「お気持ちは分かりますが、今のところ、その技術はないのですみません」
と申し訳なさそうにアイが謝って来た。
「いやいや、アイが謝らなくてもいいよ。別に君が悪いんじゃないから・・・でも、そういう未来があるってのはちょっと嬉しい気がする。ってか、その世界に日本人はいないんだよね」
と、恐ろしい未来を思い出してしまった。
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