神殺しアカリ
旧魔族領の北部山脈に近い巨大な湖には多くの魔族が集まっていた。
湖は月光を煌びやかに反射し、透き通るような透明度を持っていた。
皆が湖の畔で1人の女性に目を注いだ。
「それでは皆さん。楽な姿勢でいて下さい」
アリシアの指示で休めの姿勢やその場に座り込む者達が現れ、大いに騒めいた。
ここにいる魔族も聖女であるアリシアが神を討滅する兵器を呼び出す為に自分達の力を欲していると知っている。
なので、誰も協力を惜しんだりはしていない。
既に周辺にはクーガーと昇を護衛につけているので万が一、奇襲をされても問題ないようにしている。
アリシアは周囲の安全を確認すると”管理者権限”を開いた。
そこから”全知全能召喚”のリストを開く。
「さてと……術式構築開始……」
”管理者権限”の機能を使い、”権能”と言うこの世の絶対法則理論に干渉、アリシアが理想とする召喚マニュアルを組み上げる。
魔族の神力と自分の神力を死なない程度に抽出し、星の巡り等でこの湖に注がれている神力と同期され、亜空間に穴を空け、そこから神素を取り出し、神力に変換し、召喚に転用する。
こうして、”権能”を介して術を展開した方が敵に妨害されるリスクがないので、こう言った確実に成功させたい作戦等には”権能”に属する”管理者権限”のシステムは有効だ。
このシステムがあるからこそ、邪神や悪魔に対して絶対的なアドバンテージを得る事ができる。
”権能”とは、この世界における絶対法則を司る機関部だ。
如何なる干渉も受け付けない、まさに絶対の力と言える。
世界には”権能”のカケラと呼ぶべきモノが散乱しており、現在、オリジナルのアリシアの含めた眷属神達がその欠片を集め、70%の復元に成功した。
その70%で作り上げた高い強制力を行使するシステムが”管理者権限”だ。
「術式構築。起動!来なさい!アカリ!」
アリシアはボタンをタップした。
すると、アリシアの神力と周囲の魔族の神力がごっそりと抜け、アリシアの脚が揺れ、魔族達は気絶した。
幸い、息は残っており死んではいない。
湖の上に注がれた神力が爆散し、亜空間への門を開け、無限とも言える神素を神力に変換していく。
アリシアも意識が途絶えそうな中で、その制御を行い、神力を生成する。
すると、目の前に光の柱が現れ、それが人の形を成して来た。
そこには長い赤い髪を携えた、怜悧な眼差しを持つ、勇ましい女性が現れた。
「うん?汝がわたしを召喚したのか?」
アリシアは一目でわかった。
(強い)
確かにオリジナルのアリシアに匹敵すると言われるだけはある。
自然体でありながら、醸し出される雰囲気と空気感が尋常ではない。
自然と立っていながら、重心を悟らせない技巧からしてもかなり卓越した武を収めている事が伺える。
多分、今の自分が挑んでも勝てないと分かってしまう。
「えぇ……初めまして……って、あなたにとっては初めましてでもないんだよね」
「あぁ……本気で戦って、2度は苦渋を舐めさせられたからな」
「わたしにその記憶はありませんけどね……」
「だろうな……差し詰め、アリシアの分体、力の残滓と言ったところか?」
アリシア自身は、アカリを初めて見たがそれでもかなり好感が持てる人物だった。
どこか気質が似ていると言うか、あまり他人と言う気がしないのだ。
それはそうかも知れない。オリジナルのアリシアと互角と言う事は同等か、それ以上の地獄を潜っているはずなのだ。
それほどの茨の道をどんな形であれ、歩んだならどこか似通っていても不思議ではない。
「残滓とも言える汝がわたしを呼び出したと言う事はそれほどの相手か?」
アカリは察しも良いらしく、僅かの情報からアリシアが置かれている状況を推移した。
「えぇ……多分、敵の行動パターンからしてわたしが衰弱し切ったタイミングを狙ってくると……」
ベビダが関与した人類史と言う痕跡を分析すれば、ベビダが何を考えているか、予想は付く。
ベビダは人の命を遊戯程度に考えている屑神だ。
それ故に、遊戯の邪魔をされるのを非常に嫌う。
その邪魔者と判断した人間は脅威になる前に確実に排除するタイプだ。
現に転移直後のアリシアを殺そうとしたところから、その思想が伺える。
故にベビダは見ているはずだ。
アカリと言う不確定要素があるにしても、アカリの能力をアリシアと同等程度と見下し、神力が枯渇したこのタイミングを狙って来る。
そして、遊戯趣味の神は相手を平然と裏切り、絶望させて、貶めて楽しむような性悪な性格をしている。
そんな屑神が真っ先に行う行動と言えば……。
「テレポート」
アリシアは事前に設置した術式を起動させ、気絶した魔族達を転移させた。
”テレポート”と同時に魔族達がいた地点に爆発が起き、地面を抉った。
”火炎魔術”を使ったようだ。
そのチョイスからして、性格が悪い。
無防備な相手を人間が最も痛みを感じる方法で殺そうとしている辺り、人の悲鳴を聴いて嘲笑う魂胆が見え透いている。
「あーあぁ。せっかく、上手くいくと思ったのにさ」
湖の上空に目をやると、そこには全裸の真っ白い男が立っていた。
顔はモザイクでもかかっているようで判別できないが、まるで悪戯に失敗した子供が拗ねているような雰囲気があった。
「ようやく、姿を見せたね……ベビダ」
「へぇー見ただけで分かるんだ。流石、悪魔と言っておくよ」
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