神の刃

 それから2ヶ月


 

 

 ウクライナ軍では、GLDの配備と完熟訓練が行われ、装備等も更新された。

 ワオの町から供給される魔物の材料を使った神術増幅装置を開発した事で耐魔術や耐衝撃能力が向上した。

 ウクライナ軍は既に大国並みの兵力を得たと言っても過言ではない。


 また、ウクライナとノーティス王国の国境付近では緊迫した状態になりつつあった。

 ノーティス王国軍とベビダ教の総本山であるバルツ神国が『第2次ノーティス戦争』におけるウクライナによるエルゴラの殺害に端を発し、ウクライナを人類の敵と認定しノーティス、バルツ、その他小国等が徒党を組み、国境に集結、一触即発の状態だった。

 また、それらの国では『第2次ノーティス戦争』にて、勇者は全滅した事になっているらしくその報復を兼ねているようだ。


 だが、アリシアにとっては好都合だった。

 邪神崇拝者達は古来より、徒党を組み一カ所に集まるような習性がある。

 つまり、徒党を組んだところで焼き払えば、一網打尽にできると言う事だ。




「ほんと、蛆虫のように集まってるね……」


 


 アリシアは大佐の横で望遠鏡を眺めながら敵を俯瞰する。

 その数、100万。

 ウクライナ軍は装備を更新できたからと言って人員規模では圧倒的に劣っており、1万しかいない。

 戦力差100対1だ。

 更に向こうはこちらの攻撃ドローンを警戒して既に6翼以上の者達により上空に突風地帯を作り上げ、ドローンを無力化。

 魔術師も狙撃されないように魔術師1人に大盾使いが四方から4人でガードしているので隙がない。




「これだけの数を相手に蛆虫か……勝つ自信があるのか?」


「何を弱気な事を……別に生身で2000億光年越えのドラゴンと戦う訳でもあるまいし……100万対1万なんて、戦いの上では誤差ですよ。誤差」


「……それを誤差と言える君の感覚は相当ズレているとだけ言っておこう」




 流石の大佐もアリシアの胆力には脱帽した。

 アリシアは一切、臆しておらず、この戦いを絶望的な戦いとすら捉えていない。

 寧ろ、これ以上の地獄を知っていると言わんばかりの歴戦の貫禄すらあった。



 

(一体、どれだけの修羅場を潜ったんだろうな……)


 


 大佐は純粋に戦士としてのアリシアに興味があった。

 軍人にしてはどこか不釣り合いな上品さを兼ね備えていながら、徹底的に合理的で徹底的に貫徹するだけの意志力があり、獰猛とも言える圧倒的な力まで備えている。

 自分がこれから生涯の間に一切、休む事なく己を鍛えても届かないと思えるほどの最果ての存在と言う印象を彼女の戦いを通して大佐を知ったつもりだ。

 すると、大佐の元に部下が駆け寄る。




「大佐!大変です!」


「どうした?」


「コードゴッドの反応を検知しました。数は2体です」




 前回の戦いでエルゴラのデータを取得した事でベビダに連なる神の特有の固有波を解析した事で戦場に現れた場合、即座に知らされるようになっていた。

 すると、戦場にその2体からの宣誓があった。




「我はベビダ神の眷属神”雷鳴の神”ケラミトス!」


「わたしはベビダ神の眷属神”水の女神”アクアマリン!あなた達を勝たせてあげる!」




 それを聴いた敵軍は歓喜に震え、士気が上がった。

 大佐は望遠鏡越しに敵の能力を見た。




「うむ。前回のエルゴラと同格の神が2体か……厄介な……」



 

 前回のエルゴラ戦をしているのでその理不尽とも思える力を知っている。

 だからこそ、怖い。

 あの圧倒的な力の暴威を自分達に降り注ぐと考えると身の毛が立つ思いだった。

 だが、アリシアはそんな大佐の肩を叩いた。




「大丈夫です。なんとでもなります」


「なんとかなるのか?」


「前回と違ってわたしの力をかなり上がりました。前回のような苦戦をする事はないでしょう。それに……あの程度の神でこのわたしは止められません」




 雷鳴と水が槍と杖を天高く上げ、振り下ろし「突撃!」と合図を出した瞬間に兵士達は突撃した。

 兵士達の波が押し寄せて、まるで大地が蠢いているようだった。




「予定通りで良いか?」



 

 大佐はアリシアに確認する。


 


「えぇ、全て、想定の範囲内ですから、予定通り、先制攻撃はわたしが仕掛けます」


 


 アリシアは空中に浮き上がると天高く左腕を挙げ、アスカロンを手に握り、腰だめで構えた。




「その魂……一欠けらも残さず、滅ぼす!ソウル・スカイ!」




 アスカロンを一気に振り抜いた。

 剣先から放たれた不可視の刃が剣先から真っすぐに戦場を覆い尽くし、全ての魂に干渉した。

 中にはそれに気づいた者もおり、魔術防御を展開したり、神2匹に至っては回避行動を取った。

 だが、防御すると言う理すら貫通し、回避したと言う理すらまるで無かったかのように世界から消され、全ての人間と全ての神が例外なく、神の刃を喰らった。

 世界は静寂に包まれた。

 戦場にいた人間や神は糸が切れたように死に絶え、その魂は死んだ。




「ふう……一撃でってところかな……」


「はぁ?18億?」




 大佐は一瞬、意味が分からず、聞き返した。




「今の一撃で死にました。つまりは異世界国家に住むほぼ全ての人間は今の一撃で死にました」




 大佐は理解が追いつかなかった。

 おおよそ、戦争で一撃で18億人を殺す兵器など聴いた事すらないからだ。

 そんなモノが実在するとすれば、その殺傷性は核の比ではない。




「まぁ、尤も……健全な異世界人はまだ、生かしておくつもりですけどね」




 そう言う事を聴いている訳ではない……と言いたかったが言葉が出なかった。

 実際、目の前の敵兵の殆どが死滅しており、望遠鏡越しにも何らかの理由で1000人ほどしか生き残っておらず、ウクライナ軍の神火炎術の集中砲火で今にも全滅しそうだった。

 この戦いで驚愕なのは、アリシアはどの程度か知らないが敵味方の識別をしながら戦略級の攻撃を放ったと言う事実だ。

 その一撃はまさに”神の刃”だった。

 これは攻撃ではなく”裁き”だったのだ。

 神すらも狩る裁きの刃……狩るべき者だけを狩り、それ以外をえり分ける神の所業。

 その一撃の前に戦争と呼べるモノすら起きる事はなく、終わりを迎えつつあった。




(これは……普通にヤバいな。この女には絶対に逆らわない方が良いな)




 大佐は硬くそのように思った。




 ◇◇◇




 この日を以て、異世界の人類史はアリシアと言う神によって、滅ぼされた。

 敵対した者で逃れた者は初子や一般人、老若男女問わず、死んだ。

 魔族以外の人類の歴史は僅か一太刀で全て終わった。


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