GLD

 後世において、カディアが現れた戦いを第1次ノーティス戦争と呼び、エルゴラが現れた戦いを『第2次ノーティス戦争』と呼称する事になった。

 この戦いで神の子と目されたカディアの死とベビダの眷属神であったエルゴラの死はノーティスに大きな衝撃を与えた。

 神とは「力」であり「絶対」であると言う固定観念の元に生きて来たベビダ教徒にとってその不敗伝説の崩壊はベビダ教の信仰を失墜させる楔となった。


 各地でベビダ教の圧政に苦しんだ者達が反旗を翻す。

 今までは神の「絶対的な力」に恐れ従っていた彼らだったがそれが「絶対」ではなくなった事で神に従う理由もなくなった。

 良くも悪くも彼らには信仰が無かった。

 神を「力」と考える彼らには初めから信仰の類はない。

 考えて欲しい。

 仮に子供が親に金や権力と言った莫大な「力」が無ければ両親との縁を切る事ができるだろうか?

 それが成り立つなら世界各地で「家族」など成り立つはずがない。


 しかし、ベビダ教はその論理的に可笑しいな事を平然と行っているのだ。

 真の神とは、自分に「力」がなくても自分を愛するのか?そうでないのか?試しそれでもなお、愛する者を”使徒”や”教徒”と言う称号を与え、”信仰者”と見做す。

 だが、ベビダ教にそんなモノはない。

 故にこの崩壊は自明だった。

 そして、この頃になるとウクライナ圏で「蒼髪の聖女」と呼ばれる女性が本格的に活動し始める事になった。


 


 ◇◇◇


 


 ウクライナ軍事開発研究所


 

 

 ウクライナ軍に併設された兵器開発機関。

 そこでは連日ある人体実験が行われていた。

 



「あぁ……うぁぁぁ……」


 


 虚ろな呻きを挙げながら桔梗はベッドの上に拘束され、薬物を投与される。

 この実験はアリシアの講演とレポートを基に紋章を解析する実験だった。

「人の精神の励起作用によるWN粒子の変動と紋章の因果関係の調査」と言う課題だ。

 要は紋章保持者に薬物を投与して精神的に興奮させてWN粒子が変動するはずなので、その変動を観測しWN粒子の存在証明兼紋章との因果関係を調べる実験だ。

 貴重なサンプルと言う事もあり、廃人にならない程度の薬物を投与しているがそれでも長時間、無理矢理精神的に興奮させられているので桔梗も声が出ないほどに疲労が溜まり始めていた。



「そろそろ、も限界か……」


「一旦、休ませるとしよう」



 ウクライナの研究チームはの実験を一時中断した。

 誰も桔梗を人間として扱わない。

 そもそも、桔梗の悪行の数々を知って同じ人間であると認めたくないのだ。

 桔梗の行いはあまりに愚かで野蛮であり、度がし難いほどに妄信的で無関心だった。

 だから、彼らは桔梗を人間として一切尊重しない。

 と言うより尊重できない。


 桔梗と言う女は人間の姿をして人間の言葉を話すだけのモルモットに過ぎない。

 所詮は人の善悪の判断を説いても理解できない期待するだけ無駄な下等存在なのだ。

 現に彼女は牢屋に入れられた後も「わたし達は無実です!」と叫ぶばかりで今までの行いに対して全く反省している色がない。

 寧ろ、「あのアリシアと言う女に騙されたのです!」と責任転換する有様だ。

 最早、話し合いでどうにかなる問題ではない。

 決して相いれないでしかないのだ。


 ただ、非人道的な実験の甲斐もあり紋章についてある程度仕組みが判明した。

 紋章とは、魔力と呼ばれるSWN粒子を媒介に紋章内に刻まれた一定のアルゴリズムに基づき、限定的な術式を展開、術者の認識を強化する事で”魔術”を発動させていると言う事だ。

 紋章には”火炎魔術”や”雷鳴魔術”、”光魔術”等の決まったパターンの術式と共有化できる独自のアルゴリズムで構成されている。

 また、そのパターンを法則に乗っ取り組み替える事でこれまでの紋章保持者では不可能だった”時空魔術”の行使や”因果魔術”の行使等も可能となる。


 達から得られたデータを基にウクライナ軍はこの紋章のアルゴリズムをある程度解析する事に成功しており、既に”火炎魔術”、”雷鳴魔術”、”光魔術”のパターンは解析が終わった。

 そこから抽出されたアルゴリズムをSWN式からZWN式のアルゴリズムに仕様変更した通称”マジカライズアルゴリズム”を基に既存のスマホを改造、”魔術”の出力装置をスマホの上部に2本のアンテナを装着する事で完成させていた。

 スマホを使った理由としては長距離通信に特化した機器であるスマホは電磁場を介してWN粒子を送信する事に長けていると言う利点と専用の量子通信式のデバイスを開発するには技術的にも費用的にも現実的ではないと言うアリシアのアドバイスによるモノだ。

 ZWNはSWNより出力が高いが扱いが難しい。

 なので、電子機器の補助があった方が通常の兵士でも汎用的に扱えると言うアリシアの極めて軍人視点な意見から現在、ウクライナ軍では軍人のスマホを一斉改造を施している。

 こうして、世界初の神術式戦闘用デバイス”GLD・TYPE0”が僅か2週間と言う短期間の間にウクライナ兵士全員に支給される事になった。




 ◇◇◇




 GLDの登場は世界に新たな革新を齎した。

 神術理論や神術学と呼ばれる事になるこの技術体系は瞬く間に世界に波及、世界各地で”神術士”と呼ばれる者達が現れた。

 GLDを使った魔法的な超技術は”マジカライズアルゴリズム”を基礎として様々な発展を遂げた。


 GLDの登場により、ブラックホールエンジンや空間転移技術等が画一化された。

 これにより、世界の戦争の在り方も大きく変わり、戦略級の神術攻撃が可能な神術士の数により、その国家戦力を計ると言う基準ができ、従来の価値観は一新された。

 後に”戦略級神術士”と呼ばれる彼らは多大な戦果を世に残し、その名を轟かせた。

 特にウクライナは世界に先駆けて、神術士を教育した事で世界有数の大国へと成長していった。

 逆に核保有国だったアメリカや中国等は核と国力による今までの発言力を大きく失う事になった。

 その要因としてはウクライナが核兵器を無力化する技術をGLDにより構築した事が大きいとされ、数奇な運命だったかもしれないが、世界は核兵器に存在価値を見出さなくなり、意図せず非核化の道を歩んだのは、ある意味、平和的だったのかも知れない。


 


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