時の神”エルゴラ”

 少し遡る


 

 

 修行から帰って来た達也達はそこでタンムズからある報告を聴いた。

 彼が言うには神から神託があり、桔梗達がアリシア・アイの下に向かいそこでアリシア・アイと結託した隣国の謎の魔族集団に捕まり、謎の魔族領で裁判を受け、有罪となり死刑宣告を受けたと知らされた。

 そして、神はその勇者達を助けるように達也達に告げたと言う。

 その為にこちらからも眷属神を1人派遣するとの事だ。

 それを聴いた達也達は乗り気だった。




「勿論です。先生達はなんとしても救い出して見せます!」




 彼らは死刑と聴いて一刻の猶予もないと思い、すぐに出発しようとした。




「待って、いくらなんでも早過ぎる。もう少し待つべきよ」




 彼らを制したのは豊香だった。

 だが、達也が反論する。




「何を言うんだ豊香!こうしている間にも先生達が殺されるかもしれないんだぞ!」


「そうかも知れないけど、わたし達はこうして、帰って来たばかりよ。体力は万全とは言えない。救出するにしても返り討ちに合うだけよ」


「そんな事は問題にならない!オレ達の紋章の格は高い。魔族くらい一蹴してやるさ!」


「だとしても、相手は5翼以上の先生達を生きたまま裁判にかけた相手よ。生け捕りなんてよほどの格上でないと出来ないはずよ。焦る気持ちは分かるけど、慎重にならないとダメ。でないとこっちが全滅するかもしれないわ」




 それには達也も反論の余地が出ない。

 勢いだけで判断する彼ではあったが豊香の意見は理解できた。

 自分が負けるとは思えないが、相手は先制と10人以上のクラスメイトを一度に捕まえた相手だ。

 迂闊な事をして全滅する事だけは避けたかった。




「それについてはわたしも同意する」




 豊香の意見を後押ししたのは、加藤・結華だった。

 本来なら、桔梗と共に首都アルスの治安維持に健闘している彼女だったが、ワオに向かう桔梗達の代わりにアルスの治安維持の為に残った居残り組に選ばれていたのだ。




「わたしは近くで先生達見てたけど、先生達は決して弱くはない。寧ろ、この世界ではかなり強い。そんな先生達が負けるのは結構、イレギュラーな事だと思うよ。アリシアと言う魔族がどのくらい強いか分からないけど、油断はできない。少なくとも万全の状態で戦わないと先生の奪還は無理だと思う」




 桔梗達の実力を誰よりも近くで見て知っている結華の言葉もあり達也は大人しくなり考えを改めた。




「なら、せめて1日だけ休んでから魔族領に向かう。それで良いな?」




 達也のその言葉に豊香を含めたみんなが首肯した。

 だが、それを遮る声がした。




「いや、3日は休め」




 その声の方角を見るとそこには漆黒の仮面をつけた男がいた。




「誰だ?お前」




 達也は焦りからか多少、不機嫌そうな口調で尋ねた。




「わたしは時の神エルゴラだ。ベビダ神の眷属だ」




 時の神を名乗るその男は右手の手袋を外し手の甲を見せた。

 そこには見た事がない紋章が刻んであった。

 翼ではなく五光のエンブレムにウロボロスのような形をした蛇の赤い紋様が刻まれている。

 タンムズから聴いた事がある。

 7翼の人間はある特殊な条件に至ると神となり、その紋章も独自の物に変わると言われており、ベビダ教の書物庫には時の神の事も記され、その紋章はまさに五光と尻尾を咥えた蛇だと言われている。

 つまり、ここにいるのはまさに本物の神だ。




「何故だ!ただでさえ、時間がないんだぞ!3日も待つなんてどうかしているんじゃないか!」




 エルゴラの言葉に達也は強く反発した。

 だが、エルゴラはその意を介さず、淡々とした口調で喋った。




「このまま出かけたとしてもお前達は死ぬぞ?」


「そんな事、やって見なければ分からないだろう!」


「いや、分かる。わたしには未来が見えるからな」


「未来だと」


「あぁ、時の神の能力だ。このまま、お前達が出撃しても疲労が回復し切っていないお前達はやられる。敵は前回の反省を活かし、先手で空からの攻撃を行い、更に敵はお前達以上の高度な連携ができる。それも相まってお前達は全滅する」


「……それが本当だとしても先生達がすぐに死ぬかもしれないじゃないか……」


「安心しろ。何もしなければ1ヶ月は死ぬ事はない。寧ろ、お前達が仕留め損なったら死刑が早まるだけだ」


「!」




 その言葉が達也に刺さった。

 達也自身は桔梗を助けるつもりで行動しているつもりだ。

 だが、そんな自分の行動が彼女達の首を絞めると面と言われるとその勢いも削がれた。

 自分はすぐに結果を出そうと藻掻こうとしたが、そのせいで不十分な状態になり、全滅すると言われると勢いもそうだが、少々自信を無くす。


 目の前の男がどこまで信用できるのかは分からない。

 だが、味方ではあるはずなのだ。

 そんな味方を疑うなんて自分はどうかしているのではないか?

 やはり、自分は熱くなりすぎて冷静さを欠いているのではないか?豊香や結華の言う通り、ここは待つべきかも知れないと達也を想い当たった。




「それに安心しろ。わたしの能力を使えば、国境まで一瞬で転移できる。徒歩で3日以上かかる距離も一瞬だ。徒歩で移動して体力が減るよりも現実的だろう」




 エルゴラは淡々と粛々とした口調で達也にとって有益な情報を与えた。

 普通に考えれば、1日休んで3日以上かかる距離を移動した状態と3日休んで一瞬で移動できる状態なら後者を選ぶ。

 労力的にもパフォーマンス的にもそちらを選ぶに決まっている。

 こうしたさり気ない後押しが達也の中でエルゴラに対する信用度を上げる。




「分かった。なら、3日は休む。4日後によろしくお願いします」


「あぁ、分かった」




 そう言ってエルゴラは部屋の廊下へと立ち去った。

 達也の口調も最初は敵意があったモノのエルゴラとの対話で次第にその敵意が解けていた。

 こうして、4日後

 エルゴラの導きで彼らはアルスから国境に一気に転移してウクライナ軍と対峙する事になる。

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