邂逅
少し遡る
竹地・昇はワオの町に来ていた。
アリシアと言う女性について知る為だ。
彼女は何かを知っている。
それを確かめねばならなかった。
竹地はまず、アリシアと言う人物に対する調査を行った。
ただ、それは散々な結果だった。
「アリシア・アイ?あんなのは異端の魔族だ」
「あの女は悪魔に違いない。死ぬべき罪人だ」
この町でのアリシアの評判は悪い。
ほぼ全員が異端、悪魔と彼女を毛嫌いしていた。
昇はそれを聴いて、アリシアが悪い奴なのかもしれないと思ったが……実際、聴いてみるとそうとも言えない。
ある村からこの町に買い物に来た村人にも聴いた。
「あの方は我々にとっては聖女様です。あの方は文句一つ言わずに捨て値同然の金で凶悪な魔物を1人で撃退してくれるのです」
聴いていた話と全然、違った。
悪い噂が立つ中でアリシアの事を認めている者も確かにいた。
更には武器屋のローグと言う人にも話を聴いた。
「アイツは真面目に仕事をやって、受けた依頼料でちゃんと仕事を行うプロだぜ。どんなに安い依頼でも嫌がらずにやるあたり、まさに奉仕だな。あぁ、言うのを聖人って言うんだろうよ」
更に冒険者ギルドのフランにも話を聴いた。
「あの人の悪い噂が立つのはガルスと言う冒険者が彼女の悪い噂を広めて、皆がそのように思い込んでいるだけだと思いますよ。実際、彼女は領主様の命令に従って騎士を迎撃しただけで彼女自身が殺しを楽しんだ訳ではないと思います。彼女はこの町を守ってくれたのです。それなのに、皆さんアリシアさんに誹謗を浴びせるんです」
フランは悲しそうに答えてくれた。
昇もその話に少し困惑した。
アリシアの悪い噂は聴いた。
だが、同時に良い話も聴いた。
どちらが真実なのか分からなくなりそうだ。
少なくとも皆はアリシアが悪いと言っていたとしてもアリシアの性格の悪さや品格に関しては誰も否定していない。
まさに善良と言える。
そんな善良な人間が彼らの言うように悪い事をしているのだろうか?
彼らは噂に流されているだけではないか?相沢のクラスメイト達が周りの空気で相沢をイジメていたようにこの町でも同じなのではないか?そう思えてならないのだ。
特にそのような形でイジメを受けていた相沢の事を思うと他人事ではなかった。
「直接、聴くしかないか」
彼女が言ったウクライナと言う単語の真意……自分が抱く形容し難い違和感も彼女に会わない事には解決しない。
昇はアリシアの屋敷の前に来ていた。
そこで見慣れたモノを見た。
「インターフォン?」
それはどう見てもインターフォンだった。
昇が徐にボタンを押すと聴き慣れた音が鳴った。
やはり、インターフォンだ。
だが、中からは誰も出て来ない。
「留守か?」
念の為にもう一度、押した。
だが、誰も出て来ない。
「やっぱり、留守か」
昇は機会を改めてまた、来ようとその場を後にしようとした。
すると、振り返った向きとは逆向きから気配がした。
昇を咄嗟に腰に帯びた刀を手をかけて反対を振り向いた。
そこには無精髭を生やした30代後半くらいブロンド髪の男性がこちらにブローニング・ハイパワーハンドガンを向けていた。
クーガーだ。
男は無表情にブローニング・ハイパワーハンドガンを突きつける。
何故、この世界に拳銃を持った男がいるのか?と言う疑問があったが、その疑問を投げかけるよりも早く男が口を開いた。
「オレの家に何の用だ?」
「オレの……家?ここはあなたの家なんですか?」
「他にどんな意味があるんだよ」
昇の情報が食い違う。
ここがアリシアと言う女性に家だと聴いてやって来たのだ。
それなのに目の前の男はここを自分の家と言っている。
話が食い違うので思わず、聴いた。
「ここはアリシアと言う方の家だと聴きましたが……」
「あぁ、それでも間違ってない。同居してるからな」
「ど、同居!」
昇も健全な男子だ。
異性の2人が同じ屋根の下で過ごすと聴いてしまえば、良からぬ想像をしてしまう。
その発想が派生すると2人が恋仲なのではないか?と言う結論に至ってしまう。
「アリシアさんの恋人ですか?」
「違うわ!そう言う関係じゃない!全く、若い奴はこれだから……」
目の前の男は呆れながら空いた左手で頭を毟る。
だが、何かに気づいたように昇の顔を見た。
「お前、まさか、ノボル・タケチか?」
「そ、そうですけど……何故、オレの名を?」
昇はこの男に一度も名乗っていない。
況して、初対面だ。
彼が自分の名前を知っているはずがないと言う疑念が浮かんだ。
だが、男はこちらの意図は知らないとばかりに質問した。
「何しに来んだ?アリシアを殺しに来たのか?」
「ち、違いますよ!」
「じゃあ、何の為に来た?教会の勇者様がこんなところに来たんだ。ちゃんとした理由があるんだろうな?」
既にこの男には自分が教会の勇者である事は露見しているらしい。
正体を明かしたつもりはない。
隠すつもりも無かったが、この男の得体の知れなさには少しだけ恐怖した。
どこから漏れたかも分からない情報からして……この男は教会の内情を知っている可能性がある。
下手に隠し事をしても看破される可能性があり余計に訝しられると昇は判断した。
「オレは知りたいだけだ。アリシアさんが桔梗先生に「ウクライナと戦争している」と言った意味を……」
「何だよそれ……お前、阿保か?そのまま意味だろうが……」
「そのままって?」
「そのままはそのままだ。お前らノーティス王国は地球にあるウクライナと戦争状態にある。ノーティス王国はウクライナを魔族認定して戦争を仕掛けた。だから、「ウクライナと戦争をしている」だろうが……それ以上の意味がどこにある」
それを聴いた昇は息を飲んだ。
「そんなまさか……じゃあ、最近現れた隣国の魔族って……」
「ウクライナ人の事だ。地球人には紋章が無いからな。魔族と思われたんだろうよ」
「な、なんでそれを王国に教えないんですか!?」
「お前、本当に阿保か!とっくの昔に伝えてるだろうが!それでも無視したのは王国と
それを聴いた昇は愕然とした。
これでいくつかの点と点が繋がった。
ウクライナと戦争をしていると言う意味は本当にウクライナと戦争をしていると言う意味そのモノであり最近、王国内で現れた無翼の魔族の中にはウクライナ人がいた。
昇は直接会った訳ではないが、その捕まえた魔族は確かにウクライナ人であると語っていた事から自分達と同じように転移して来た何者かである可能性がある。
そして、王国も教会もそれを知りながら黙認、桔梗達を魔族の捕縛を手伝わせている。
王国や教会は相手がウクライナ人である事を知りながら魔族として捕縛を命じており、昇と同じ地球人である事を黙認している。
そこからして捕まった彼らの安否は不安に成らざるを得ない。
何せ、黙認しているのだ。
やましい事があるから黙認するのだ。
なら、その彼らはどうなったのか……それを想像するだけでそれに手を貸した自分に罪悪感を抱いてしまう。
「うっ!」
昇はあまりの嫌悪感に口を塞いだ。
認めたくはないが、目の前の男が嘘を言っているとは思えない。
嘘だとするなら説明の整合性が取れ過ぎている。
つまりはあまりに辻褄が合っている。
それも疑念を残さないくらいに……少なくとも、桔梗達にこの事を相談し慎重に物事を見極めねばならないと考えさせられるだけの情報だった。
「詳しく教えてくれませんか……何故、この世界にウクライナがあって、何故、王国内にウクライナ人が流れているのか」
「オレ達も全てを知っている訳じゃない。だから、オレ達の推測込みで聴け」
クーガーはアリシアとの認識共有で昇の事を知っていた。
アリシアの中でも竹地 昇と言う男はアリシアも気にかけておりクラスメイトがイジメる中で彼がアリシアの事を支えていた事を知っていた。
きつめな事を言いわしたが、クーガー自身、昇に関しては”見込みがある”と判断しており、だからこそ彼にはこちらが知る情報を伝えるに値すると判断した。
そもそも、”見込み”が無い者に何を伝えたとしても頑なに受け入れないに決まっている。
だからこそ、アリシアは桔梗に対しては最低限の事しか伝えなかった。
桔梗が悔いる事を望む一方で昇ほど”見込み”が無いからだ。
話すに値しないと思われた人間は重要な事を知る価値すら無いと判断される。
それが万物不変の常識なら昇は間違いなく伝えるに与う適格者と言える。
クーガーは昇に今回の事件の概要を考察を交えて説明した。
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