ウクライナ攻防戦2

 アリシアは側面からH&K HK416アサルトライフルで攻撃を仕掛ける。

 BBA弾で出来た弾丸が敵の鎧を貫通した。

 こうして、ウクライナ軍に分かり易く自分が味方である事をアピールする。

 そのままウクライナの国境に入り、そこにいる軍に加わった。




「助勢します!」


「何者だ!」




 指揮官らしき、男が声をかけた。

 赤毛の貫禄のある顔つきの指揮官だった。

 歴戦の貫禄がある中々の覇気の持ち主だった。

 こう言った人間が初見でもかなり好感が持てる。




「そちらと協力関係にあるワオの町のアリシア・アイです」


「ワオ……アリシア。なるほど、面白い商談を持ちかけた女か」




 指揮官は得心したように見つめる。




「ならば、こちらの指揮下に入って貰うぞ」


「了解。ところであなたの事はなんと呼べば?」


「大佐で構わん」


「はぁ!大佐!そちらの指揮下に入ります」




 アリシアはインカムで通信の傍受する形でウクライナ軍の通信回線に入った。




「大佐。失礼ながらそちらの通信に割り込ませて貰います。まずは状況を説明します。こちらの攻撃用ドローンが9分後に戦域に到着します。わたしの操作で彼らを空爆する事ができます」


「なるほど……だが、確か敵には気象を変える魔術師がいるらしいな。それはどうやって対処する?」


「許可を頂けるなら今の内に狙撃します」


「狙撃か……良いだろう。その件は貴様に任せる。我々は出来る限り正面の敵をドローン到着まで引き留める。死なんでくれ」


「了解。這ってでも生還します」




 アリシアはそう言い終えると近くにあった土嚢の裏に回り込んでそこから顔を覗かせて狙いをつける。

 目標は後方にいる魔術師だ。

 魔力反応で大体、分かる。

 どす黒い、腐敗臭が漂うような魔力反応に狙いをつける。

 恐らく、5翼以上の魔術師はいない。

 

 気象を操作する可能性は低いが用心に越した事はない。

 距離は1530m……本来ならアサルトライフルの距離ではないが、BBA弾を搭載したこのライフルなら十分に届く距離だ。

 アリシアは狙撃が得意な方ではないが、2000m前後の狙撃なら外す事はない。


 アリシアはセミオートで狙いをつけ引き金を引く。

 弾丸が前衛にいた騎士の甲冑を貫通、その後方にいた魔術師の頭部を粉砕した。

 その調子で前衛にいた騎士の肉壁を破壊しながら後方にいる魔術師達を狙撃する。


 彼らからすれば身にも止まらぬ速さで何かが近付き、頭部が破壊されているのだから、驚きだろう。

 だが、その隙は逃さない。

 アリシアは次々と狙撃を成功させる。

 そうして、敵の後方支援火力を低下させる事に成功し、戦車部隊が十全の能力を得る事ができるようになった。


 だが、しかし、既に騎士達もすぐそこまで迫っており、剣の間合いに入りつつあった。

 騎士達はある程度、間合いを詰めると“縮地”と言う技を使い、ウクライナ軍の陣地に侵攻した。

 突然、現れた彼らの前に多くの兵士が慌てて至近で銃を乱射するが鎧は一切貫通しない。

 そのまま騎士の剣の斬撃で兵士は両断される。

 陣営内に入り込んだ騎士達と兵士達の混戦が始まった。

 兵士達は距離を取ろうと後ろに下がりながら、Veprブルパップアサルトライフルを乱射する。

 しかし、そこに背後から回り込んだ騎士が背中から兵士を斬り殺す。


 他にも設置された機銃を至近で騎士達に向けるが鎧はまるで貫通せず、近くにいた騎士が火球を発生させ、機銃諸共、兵士を焼却した。


 アリシアはそんな中、駆け抜けていた。

 魔術師は粗方、掃討したので敵陣に入り込んだ敵を左手に装備した刀で斬った。

 通りすがる度に敵の鎧諸共切断、血飛沫が舞う。

 それの度にアリシアの髪が赤く血塗られる。


 アリシアは左手に刀を持ちながら器用にH&K HK416アサルトライフルを操作して弾倉を外し、通常のNATO弾5.56mm弾を装填した。

 そして、迫って来る敵に対して乱射した。


 弾丸が的確に敵の甲冑の視覚を確保する為に空いた穴に向かって弾丸が入った。

 甲冑に入り込んだ弾丸が頭部に直撃、それが甲冑の中で跳弾、頭部や脳をミンチの様に破壊する。

 5.56mm弾はこの世界では貧弱だが、このように跳弾を使えば、かなり過激な攻撃にもなる。

 それに5.56mm弾ならBBA弾とは違い、生成が容易な為、発射した傍から弾倉には新たな弾丸が装填される。

 アリシアはそのまま敵の騎士に向かって接近戦を仕掛け、敵を両断する。

 それと共に接近する騎士にはNATO弾を甲冑の隙間に発射して頭部を破壊する。




「な、なんだあの女は……」


「あの女、まさか……ワオにいる死神か!」


「化け物め!」




 騎士達は果敢にアリシアに挑む。

 逃げても良いのだが、ある意味彼らは狂人者であり、神が自分達に勝利を齎すと考えており、これを聖戦と捉え、命を失うのを惜しいとは思わなかった。

 況して、アリシアが現れるまで神が味方するような快進撃だったので油断があり「物量で押せば勝てる」と驕った。

 騎士達は”ライトニング”や”ファイア・ボール”等の魔術を駆使、更に剣でアリシアに肉迫する者までいた。

 だが、アリシアは魔術の弾幕を軽々と避けながら迫る騎士達を刀で両断、魔術を行使する騎士をH&K HK416アサルトライフルで仕留める。

 そうして、死体の山がウクライナ陣地に築かれていく。




「なんて、女だ……本物の化け物かよ……」




 その様子を見ていた大佐はアリゲーターA1アンチマテリアルライフルを構えながら、土豪の傍で迫る騎士達の頭部を吹き飛ばした。

 如何に騎士達の鎧が戦車並みの装甲値であろうと頭部は胴体部ほど重装甲ではないので辛うじてアリゲーターA1アンチマテリアルライフルが通じていた。

 それでも1000mくらい離れた相手では甲冑であっても貫通しないと言う問題があった。




「見た感じ、狂った女だと思ったが……これほどとはな」




 大佐は感嘆しながら弾倉を外し、次の弾倉を装填した。

 そして、続けざまに1発、2発と騎士の頭部を吹き飛ばす。




「味方なら心強いがアレは敵には回せない奴だな」




 大佐もただの一兵から実力だけでここまでのし上がったベテラン兵士だ。

 なので、過酷な戦いに身を置いた者の“目”と言う物をよく知っているつもりだ。

 その中でもアリシアは秀逸的とも言えた。




「あの年で一体、どんだけの地獄を見てきたのやら」




 大佐は黙々と騎士を射撃する。

 すると、アリシアから通信が入った。




「大佐。攻撃用のドローンが来ます。これより敵の大軍に対して攻撃します」


「了解した。兵士達には近づかないように指示を出す」




 大佐は兵士達に空爆の可能性があるので陣地から離れている者はすぐに退避するように指示を出した。

 それからすぐの事だった。

 上空から轟音を立てながら接近する機影があった。

 それはドローンと言うにはあまりに速い。

 左右の翼にはロケットエンジンのような推進器が搭載された背部からもロケットが噴出していた。




「これより空爆を開始します」




 アリシアは大佐にそのように伝えると”空間収納”にH&K HK416アサルトライフルを格納、新たに右手に取り出したグリップ型ドローンコントローラを使って3機のドローンを操作し始めた。

 アリシアは左手の刀で敵に肉迫しながら、ゲーム機のコントロールステックを押し込んでドローン1番機、2番機、3番機の操作を切り替え、移動を入力、人差し指でボタンを入力した。


 すると、1、2、3番機の下部から”神火炎術”で出来た熱線が放射された。

 爆撃にも等しい攻撃の前に進軍していた騎士達が爆発で吹き飛び、体が肉片になっていく。

 更に今度は中指のボタンを入力するとドローンの前面の機銃らしきところから光の弾丸が発射された。

 レーザーバルカンのように発射された光の弾丸が地上にいた騎士達を蜂の巣にしていく。

 マシンガンのように連射される光の弾はまるで雨のように騎士達に降り注ぎ、そこに更に爆炎による空爆が合わさり、辺り一面は業火と光の雨で満たされた。


 その圧巻とも言える光景にウクライナ軍は唖然としていた。

 数多の戦場を駆け抜けた彼らであったがこの爆撃はかなり容赦がない。

 空爆など本来、敵基地等に対して粗削りでも良いから戦力を削り、その最後の仕上げに歩兵を送り込む者だ。

 それが地球における現代戦だ。

 

 だと言うのにそのドローンは……強いてはそれをコントロールする女はたった1人で一人残らず、皆殺しにでもする勢いで容赦なく効率的に空爆を行う。

 まるで敵の逃げるルートまで全て計算した上で退路を断ちつつ、効率的に人を殺しているのだ。

 まるで戦場で起きている事を全て演算しているとしか思えないやり方に大佐すら悪寒が奔った。


 その内に気付けば、敵の大軍は全滅していた。

 アレほど、ウクライナ軍を苦しめた騎士達がまるでゴミのように消え、死体だけが残ったのだ。

 だが、異変だけは残っていた。




「……まさか、あの爆撃の中で生き残っている奴がいるなんて」




 アリシアは驚いたようにそう方角を見た。

 そこには全身を“障壁”で身を包み立ち尽くしている男がいた。

 その男の魔力反応は高く、恐らく5翼~6翼並みだと推定された。




「アレほど、悍ましい存在に気付かなかったなんて……かなり隠蔽系の能力も優秀って事かな?」




 だとすると、この世界に来て一番の強敵かも知れない。

 これは直に倒すしかないと考えたアリシアはすぐにドローンを撤退させた。

 相手が6翼ならドローンを無駄死にさせる可能性があった。

 尚且つ、ドローンでは決め手に欠けるのでここで失う訳にはいかなかった。

 アリシアは男の前まで寄って、ドローンコントローラーを”空間収納”に格納、左手の刀を構えた。




「おや?あなたが悪魔ですか?」




 男はにやけた。

 細い狐目で澄ましたような雰囲気のある純白の鎧を着た男だ。

 背中には大きな大剣を2本背負っている。




「初めまして、死神。いや、蒼い悪魔でしたか?まぁ、どちらでも構いません。わたしはカディア!またの名を守護神ベビダ!そう!わたしこそ神だ!」


「ふぇ?」




 アリシアはあまりに唐突な物言いに呆気と取られた。

 少なくともこの男が神ではない事だけは分かった。

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