ウクライナ攻防戦1
教会にはワオにおける戦闘の結果が報告された。
部隊は壊滅した。
そのような報せが舞い込み、タンムズは頭を抱える。
「忌々しい背信者共め……蒼い悪魔の言葉に踊らされおって全く嘆かわしい」
今回のロンフォード領の離反がアリシア・アイの助言である事は既に掴んでいた。
アリシアがただの悪人ならこれほどの事態にはなっていなかった。
ワオの町では、ガルスの宣伝効果もあり、アリシアに対する悪い噂からアリシアを異端視する者も多い。
だが、その一方でワオの町の外に住む村人達からの人望は厚いのだ。
格安で危険な魔物の討伐を請け負うアリシアは彼らからすれば、まさに聖人であり、まさに聖女だった。
ワオの町は外壁に囲まれ、魔物の脅威から守られているが村はそうではない。
魔物と常に隣り合わせであり、対応1つで村が全滅する事もある。
そんな村人にとってはアリシアは天女のように見えており、そう言った民衆の声もありロンフォード領の離反に繋がり、更にはアリシアと教会の聖職者を対比するとアリシアの方が聖人でありその影響もあり、ロンフォード領周辺の村は教会に対する信用が失墜、献金の額が減っていた。
村人からすれば、教会がする事は神の名を使って金を巻き上げるだけで何もしない連中であり、聖人としての行いが伴わないのだ。
ワオの町中ではともかくとして、そう言った聖女アリシアの噂はハーリと同じ反ベビダ教の間にも拡散しておりそれが余計に教会の首を絞めていた。
タンムズからすれば、教会の権威を失墜させるアリシアはまさに蒼い悪魔のように見えただろう。
「やはり、悪魔を殺すには勇者をぶつけるしかないか……」
現在、手元にある勇者は桔梗達だ。
他の勇者は魔族討伐に備え、修行の最中だ。
だが、タンムズは実行可能と踏んでいた。
桔梗達は街の治安維持に貢献しており、魔族を攻撃する事に躊躇いがなくなってきている。
最初こそ、戦いに嫌悪していた彼らも既に人を殺せるだけの”慣れ”がその身に宿りつつあった。
「上手くやれば、ぶつけられるかも知れない」
タンムズは桔梗を呼び出し、ある事を伝えた。
それを聴いた桔梗は何の疑いもなくそれを快諾し再び、ワオの町に向かった。
◇◇◇
クーガーに町の防衛機能の強化を任せ、アリシアは冒険者として依頼を熟す。
町の人の民意は集まっていないが町の外の民意を集める事も必要だ。
ロンフォード領がワオの町だけではない。
他の村々との連携も必要となる。
なので、いつも通り、低報酬で高難易度の依頼を受ける。
これにより訪れた村では「本当に聖女はいたんだ」と感嘆の声を上げられ、拝まれる。
「わたしは聖女ではない」と言いたかったが、それを憚る気にはなれなかった。
そんなある日の事だ。
アリシアはいつも通り、村での魔物討伐の仕事を終えた。
そこは偶々、ウクライナとノーティス王国の国境付近であり、国境の向こうではウクライナ軍が緊迫した面持ちでこちらを見つめている。
まさに一触即発と言った雰囲気だった。
いつでも攻められる用意ができているのだろう。
ウクライナの侵攻までもう5日になっていた。
あの兵士達がいつ、こちらに攻めて来るかも分からない。
それほど緊迫していた。
だが、その沈黙を破ったのはノーティス王国側から聴こえる騎士達の声だった。
「なっ!まさか!」
これにはアリシアも驚いた。
そのまさかなのだ。
ウクライナが侵攻する前にノーティス王国がウクライナに逆侵攻しようとしているのだ。
その数は10万人だ。
ウクライナ軍も各種警告を行うが相手は無視する。
ノーティス軍は先制攻撃で火球をウクライナ軍に発射した。
それにより装甲車が爆散した。
ウクライナ軍は戸惑いながらもこれに応戦、Veprと言うブルパップ式のアサルトライフルで応戦する。
しかし、全身フルプレートの騎士達の鎧は魔術で強化されており、戦車並みの装甲値を有している。
小口径のアサルトライフルではまるで歯が立たない。
前衛にいる騎士達の肉壁の前に弾丸が弾かれ、後方から魔術を放たれ、装甲車や戦車が爆散していく。
それでもウクライナ軍のT86戦車が騎士達に向けて砲撃を開始した。
流石の騎士の鎧でも戦車の砲撃には耐えられず、鎧が破砕され、騎士が肉片に変わる。
しかし、それでも騎士達は迫る。
魔術師達も戦車の危険性を感じると今度は戦車に攻撃を開始した。
魔術も何も施していない戦車の装甲は火球の前に溶け、蒸発、熱で爆散する。
それでも戦車は騎士を攻撃するが正直、割に合わない。
戦車は戦車を相手にする為に大砲を撃つのだ。
それを1発で人間5~6人を殺す為に使うのでコストに見合わない。
戦車に搭載された副砲すら殆ど役に立たない始末だ。
流石のアリシアも不味いと思った。
ウクライナ軍でも対応できるなら放置しようと思った。
部外者である自分が守っては遺恨が残る。
何より、ウクライナ軍は自国の兵力で外的から身を守れると言う事実が必要だろう。
国内に対する不安の払拭の為に……。
しかし、このままでは全滅してそれどころではない。
その不安から核兵器を本当に使われかねない。
何せ、戦車の主砲しか効かないような相手に恐怖を抱かずにはいられない。
況して、それがこちらに害意を向ける存在なら猶更だ。
そのように考えたアリシアは走った。
既に屋敷に近くにあったドローン部隊を発進させた。
到着まで10分。
それまでアリシアが20万の軍勢を抑えないとならなかった。
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