死神
敵陣は慌ただしく動いた。
突然の未知の攻撃に何が起きたのか分からず困惑していたが、こちらに接近する2人の人間と黒い杖らしき物からマズルフラッシュが発せられている事から「攻撃されている」と察する事ができた。
「全軍、進め!反徒を根絶やしにしろ!」
指揮官の指示の下で前衛にいた騎士達が前進した。
騎士達は全力で走りながら突撃し魔術師達は後方から魔術を放つ。
しかし、初手で5翼以上の魔術師を殆ど制圧したので後方火力は本来の規定値には到達していなかった。
上級魔術は殆ど発射されず、”ファイア・ボール”等の低級魔術が発射されている。
ただ、低級だけにその数は馬鹿にはできず、多くの火球がアリシアとクーガー目掛けて放たれる。
だが、アリシアは避けた。
鎧に身を包んでいるとは思えない軽々とした動きで戦域の”ファイア・ボール”を全て見切り、着弾や弾道などを計算する。
それを直感的に判断、ステップを踏みながら寸前のところで回避しながら、騎士との距離を詰めていく。
時に”ファイア・ジャベリン”が撃たれるとその爆風を避ける為に空中に跳躍、1回転しながら宙ずりのような状態からH&K HK416アサルトライフルを発射した。
頭上を取る事で騎士と言う遮蔽物がない事を良い事にセミオートで素早く、銃を乱射した。
後方にいる魔術師達は肉片に変わっていき、後方からの火力支援が薄れていく。
これはアリシアだけの活躍ではなく、アリシアの後からついてくる形でアリシアを背後から守るクーガーの支援にもよるモノだ。
クーガーもステップを踏みながら火球を避けていた。
尤も、アリシアほどの機動性、運動性はないので偶に”鉱物操作術”と言う神術で大地の鉱物に干渉、金属の壁を造り、火球を防ぎ、遮蔽物を展開する。
それもアリシアがいつ、後退しても良いようにアリシアから見て最短距離で遮蔽物に入れるように計算されていた。
ただ、クーガー自身、あまり必要ないと思っている節もある。
アリシアは体を徹底的にイジメにイジメにイジメ抜いているので馬鹿みたいに身体能力が高く、直感も鋭い。
高い身体能力と達人的な直感の前に避けられない攻撃はほぼない。
回避できないほどの広範囲攻撃でもされない限りは大丈夫だ。
その可能性を懸念して最初に5翼以上の魔術師を殺したのはそう言ったわけだ。
5翼以上なら広範囲魔術を使う可能性があるからだ。
アリシアは空中から着地したアリシアはH&K HK416アサルトライフルを構え、突撃する。
魔術師達の弾幕は殆ど消え、後方からの支援は大半が消えた。
「ブルー2。後方は任せた」
「ブルー2。了解」
コールサインでクーガーにそのように指示を出し、残りの後方の魔術師をクーガーに任せてアリシアは前衛の騎士を相手にする事にした。
H&K HK416アサルトライフルで牽制と間引きを行う。
魔術で補強された騎士達の鎧をまるで芋刺しにするように弾丸が貫通する。
どれも急所であり、頭もしくは心臓を的確に抉っていた。
アリシアは空になった弾倉を”空間収納”に格納、新たな弾倉を”空間収納”から取り出し装填した。
BBA弾は確かに優秀な弾頭だが、少しばかり弱点がある。
それは製造までに時間がかかる事だ。
アリシアが使う弾倉には“生成”と言う神術が施され、弾倉の中で弾丸を造る事ができる。
これがただの5.56mm弾なら射撃しながらすぐに弾丸が補充され、実質無限連射できるだろう。
だが、BBA弾は通常の弾頭とは違い製造に手間がかかる関係上、発射した直後には弾は生成されない。
だから、空になった弾倉は一度、”空間収納”に戻し、その内部世界で弾を再度、生成、再充填してからもう一度使う。
その間は用意した別の弾倉を使うと言うローテーションだ。
使い勝手は少し悪いが、敵の魔術補強した鎧を貫通するにはBBA弾を使うしかないのでそこは代えられない。
とは言え、アリシアほどになると弾倉の換装はほぼ一瞬であり、敵からすれば、絶え間なく前方の騎士が死んでいるように見えた。
中には頭部を撃ち抜いた弾丸が後方の騎士の甲冑にも直撃、5人ほど纏めて頭部を吹き飛ばした場面もあった。
騎士達はまるでゴミのように死んでいく有様を見て恐怖した。
逃げようとする者もいたが指揮官が「我々には神がついている。これは神の聖戦だ!」と叫んで鼓舞してそれでも果敢にアリシアに挑んだ。
そして、アリシアと騎士達の距離が詰められ、剣が届く距離に入った。
「そらぁ!」
鎧を着た騎士が上段からアリシアに斬りかかる。
アリシアは右手にH&K HK416アサルトライフルを持ち、左手に”空間収納”から取り出した刀を装備した。
そして、そのまま振り翳された剣に向かって刀を振った。
刀は剣を両断、全身フルプレートの騎士の首を斬り裂いた。
激しい血飛沫が舞い、それがアリシアを濡らした。
アリシアの目はどこか冷たく涼し気だった。
そんなアリシアに1人、2人、3人と立て続けに騎士達が斬りかかる。
だが、アリシアは目にも止まらぬ斬撃で騎士達を鎧諸共、切断した。
正中線から斬られた者。
胴体を輪切りにされた者。
袈裟懸けで肩から両断された者。
様々だった。
その度にアリシアの全身が赤く血塗られていく。
アリシアの心はただただ、冷め切ったように人を淡々と殺す。
その様はまさに殺人マシンのように感情はなかった。
騎士達はアリシアの周囲を包囲して一斉に斬りかかった。
だが、アリシアは刀の間合いに入ったと共にぐるりと踊るようにその場に1回転した。
すると、騎士達の胴体が落ち、体の中にあった臓腑を撒き散らす。
それでも第2波、第3波と周囲から敵が迫って来る。
アリシアは刀を宙に放り投げた。
それと同時にまた、踊るように1回転しながら、H&K HK416アサルトライフルを乱射した。
フルオートで乱射された弾丸が波のように押し寄せる騎士達の体を貫通、第3波の騎士達の胴体すら撃ち抜いた。
回転しながら弾倉がなくなると空かさず、次の弾倉を装填、息もつかぬ間にフルオートでH&K HK416アサルトライフルを乱射した。
敵の死体が地面に落ち、鎧の中から血が流れる。
そこに勝機でも見出したのか2人の兵士が接近、左右からアリシアを斬りかかろうとする。
だが、剣の間合いに入ったと同時にアリシアは空中に放り投げた刀をキャッチ、横薙ぎで振った。
左右にいた兵士は首を刎ねられ、血を噴き出した。
こうして、アリシアの周りには血と屍の山が気づかれていく。
アリシアは何も言わず、生き残っている騎士達の方に振り向いた。
「ひぃ!」
騎士は怯え、一歩後退った。
目の前の女が人間には思えなかった。
少女の皮を被った化け物。
その形容が一番し的を得ていた。
少女は心までの凍り付かせるような冷たい眼差しでこちらを見つめ、一歩一歩こちらに歩み寄って来た。
その顔はまるで汚物でも見るかのような目をしており、殺意はないが見つめられると生きた心地がしなかった。
全身が彼女と言う恐怖に畏怖した。
それはまるで死を体現したかのような存在……そうその名を生き残った指揮官は徐に呟いた。
「死神……」
死神。
その名はある意味、正しい。
アリシアと敵対した者は例外なく死ぬ。
死神が気紛れでも起こさない限りは必ず”死”を齎し、それ故に前世でも“死神”と言う異名で呼ばれる事もあった。
そして、周りを見渡せば、既に指揮官の周りの兵士しか生き残っておらず、殆ど全滅していた。
数字の上ではこちらはまだ、勝っている。
だが、勝てない。
数では勝てない。
あの死神は物量が通じる相手ではないと指揮官の本能が警らした。
「撤退!撤退だ!」
指揮官はそれを宣言すると共に乗っていた馬を走らせて我先に逃げた。
騎士達もその後を追うように必死で逃げた。
まるで死神の恐怖から逃れようとする子供のように泣き喚きながら、必死に逃げた。
「どうする?追撃するか?」
クーガーから通信が入った。
だが、アリシアはこう答えた。
「無理に追う必要はありません。彼らには生き証人になって貰う必要がある。ワオには中立を謳うだけの戦力があるとね」
そう言った理由でアリシアは敢えて追撃しなかった。
追撃しようと思えば、馬よりも速く走って指揮官を殺す事もできた。
だが、意味はないのでやめておいた。
それに個人的な心情も理由に入る。
「やっぱり、人殺しは慣れないな」
アリシアは人殺しが好きではない。
職務として行っているだけで人を殺して喜んだり楽しんだ事は一度もない。
だからこそ、殺す度に自分の心は冷めてしまうのだ。
やりたくない事をやって不機嫌になっているとも言える。
「帰ったら、ちゃんとお風呂入らないと……」
血塗れでいたいとは思わない。
早く帰って洗い流したいと心から思った。
アリシアはそのように言いながら血がついた刀を血払い、ワオの町に戻った。
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