開戦
この町でも有数の冒険者ガルスとそのパーティの死は良くも悪くも各方面に影響を与えた。
悪い意味では、ギルドの最大戦力とも言えるガルスとそのパーティメンバーの欠落はギルドにとっては大きな損失だった。
これによりギルド全体の依頼達成率が低下した。
一方で良い意味もあり、ガルス一派と言う邪魔者が消えた事でハーリが戦争に対する備えがやり易くなった事だ。
ガルスは冒険者の中で発言力が強く、その所為で冒険者の協力が仰ぎ難く、結果、労働力が不足していたのだが、ガルス一派が壊滅した事でその発言力は消え、領主の発言力が自然と発揮されていた。
要するにようやく、本来の機能を取り戻せたと言う事だ。
寧ろ、今までが異常だったのだ。
領主の命令を平然と無視していたあの状況こそ可笑しかったのだ。
人間に対する差別とは時として社会秩序すら無視してしまう程に強く、また人間の業の深さを現すに十分であった。
ただ、やはり初動が遅過ぎた。
ウクライナの開戦までもう僅かしか残されておらず、ハーリの意向は既にノーティス王国にも知られている。
その結果、ガルス死亡から僅か数日後に国と教会から派遣された部隊がワオの町の前に集まっていた。
◇◇◇
領主の館に敵からの文が届いた。
そこにはこう記されていた。
直ちに、戦争参加に協力せよ。これは思し召しである。逆らった場合、貴殿らを逆賊と見做し処断する。期日は今日の昼までとする。
その様に書かれていた。
そして、手紙が届いた頃には既に昼が近付いていた。
圧力をかけつつ、こちらの冷静さを欠かせて優位に運ぼうとしているのが目に取れる。
だが、それに対する答えはアリシア達の中で決まっている。
「徹底抗戦しかないですね」
「やはり、それしかないか……」
このままノーティス王国側に参加すれば、ウクライナからの核の脅威に晒される事になる。
既にウクライナとの国交も開いた。
既に後戻りはできない。
「ハーリ様。在中する兵士達は全て防衛に回して下さい」
「攻撃側に割かなくて良いのか?」
「逆に攻撃してくれる兵士がいると思いますか?」
ここにいる騎士達は良くも悪くも消極的で士気がない。
元々、ベビダ教徒が多く、教会の意向に逆らう事を不敬だと感じており寧ろ、前線に立たせても逃げるもしくはアリシアの背中を撃たれるだけになる。
だから、敢えて、防衛に回して戦いから遠ざけるのだ。
寧ろ、邪魔でしかないからだ。
「承知した。だが、それで大丈夫なのか?1人であの数を相手にするのは骨が折れると思うが……」
敵の数は恐らく、2000。
普通に考えれば、少数で勝てる相手ではない。
況して、教会の騎士までいるとなれば、装備の品質もかなり良い。
劣勢なのは否めない。
「1人ではありません。こちらには2人います。ねぇ、クーガー」
アリシアは後ろにいた男に視線を向ける。
ハーリもこの男については軽く聴いていた。
アリシア個人の部下であり、アリシアの戦友的な男だと聴いている。
だが、それ以外の事は分からず、どの程度の力を有しているのかさっぱり分からなかった。
「まぁ、2000くらいならどうにでもなるだろう」
この男もまた、2000対2でも全く、問題ないと豪語した。
少なくとも気負っている様子は全くなく「余裕」すら感じさせる態度だった。
「2000が余裕か……随分な自信だな」
「領主様は信じられないだろうが、オレ達は常に数の劣勢に立たされて戦って来たんだよ。それこそ、そこの女は1人で2000万人近い兵士を皆殺しにしたんだ。それなら少しは安心だろう?」
アリシアはそれに苦い笑みを浮かべながら苦笑した。
それを聴いたハーリは少しだけ戸惑った。
(たった1人で2000万だと……それが本当なら確かに心強いが……)
心強いと思う反面、嘘なのではないかと思ってしまう自分がいた。
しかし、アリシアが虚言を語った事はない。
彼女が否定しないなら的外れな話でもないのだろうと思えた。
それは同時にアリシアがもし、敵に回った場合、このワオの町は一瞬で壊滅してしまうのではないかと言う不安と暗示が過った。
実際、どれだけの実力があるのかは分からないがジャイアント・トレイトをソロで討ち取れるのだから、強ち嘘でもないように思えた。
「わたしの事は良いです。とにかく、徹底抗戦をする以上、先手必勝です。今すぐ、出撃して敵を殲滅します。ハーリ様。それでよろしいですか?」
一応、ハーリに同意を求める。
「それで構わん。任せるようで申し訳ないが頼りにしている」
「承知しました」
それからアリシアは外に出た。
その脚で町の門の前に赴き、前に出た。
敵もこちらに気付いている。
差し詰め、返礼の使者か何かと勘違いしているようだ。
だが、アリシアの返礼は決まっている。
アリシアは改造したH&K HK416アサルトライフルアリシアカスタムを構えた。
隣にいたクーガーもM16A13アサルトライフルの銃口を向ける。
銃身下部についたグリップをしっかりと保持しアサルトライフル用の狙撃スコープで敵を見つめる。
この世界の軍隊の陣形に関しては頭に入れている。
前面に騎士を押し出し、後方から魔術師による援護を重視した陣形だ。
アリシアが狙うのは後方の魔術師。
騎士達の間を擦り抜けた先にいる魔術師だ。
それも魔力反応が一番大きい相手もしくは紋章が5翼以上の相手を優先して狙う。
狙いは定まった。
アリシアは事前につけたインカムでクーガーに連絡する。
「こっちは狙いをつけた」
「こっちもつけたぜ」
インカムの感度良好で通じている事が分かった。
アリシアは既に鎧に換装、クーガーは特製の防弾ベストを着ている。
互いに準備万全だ。
「わたしの合図で戦闘を開始します」
「了解」
アリシアとクーガーは引き金に指をかけた。
「3、2、1。
放たれた弾丸が魔術師の頭部を撃ち抜いたと同時に開戦した。
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