見込みがあっても騙される
桔梗は教会に帰還した。
一応、タンムズに今回の件を報告した。
アリシア・アイは見つけ、監視した事や教会の騎士が介入、アリシア・アイを討伐しようとしたが全滅した事。
ただ、アリシア・アイが「教会やベビダを信じるな」と言った事に関しては伏せた。
一応、お世話になっている身の上で養って貰っている相手を疑うのが失礼だと思ったのもあるが正直、どちらを信じれば良いか分からないからだ。
アリシアを信じるべきかタンムズを信じるべきか悩んでいた。
どちらも正しいように見える。
だが、どちらも騙しているようにも見える。
分からないのだ。
その答えが分からない。
ただ、それでもある事だけは聴かなければならなかった。
「タンムズさん。アリシアと言う人物から教会がウクライナを攻撃していると聴きましたが、本当ですか?」
「ウクライナ?ウクライナとはなんですか?国の名前か何かですか?」
タンムズは本当に知らないような顔をしていた。
正直、桔梗自身もアリシアが何故、ウクライナの名前を出したのか分からなかった。
ただ、彼女は言ったのだ。
それともウクライナとの戦争の幇助?
確かにウクライナと言ったのだ。
少なくともタンムズの反応を見る限り、この世界にウクライナを示す地名はないようだ。
最初はウクライナと聴いた元の世界にあった国の事を想像したが、改めて考えるとそれはあり得ない。
ウクライナと言う馴染み深い単語を聴いて一瞬戸惑ったがタンムズの反応を見る限り、この世界にはウクライナと言う地名はない。
地名が無いと言う事はこの世界では架空の名前であり偶然の一致に過ぎない。
アリシア・アイがブラフか何かを言って脅かしただけ……そのように桔梗の結論は至ってしまった。
「あぁいえ、なんでもないです。多分、相手のブラフだと思いますので」
「そうですか……ですが、くれぐれも注意して下さい。アリシア・アイは異端です。そのようなモノの言葉に惑わされてはなりません」
「あ、はい」
桔梗はそこで話を区切った。
その所為か、桔梗の中では無意識に「アリシア・アイは敵だ」と言う固定観念が生まれていた。
結果的に彼女は教会を擁護したのだ。
もし、彼女がちゃんと物事と向き合い、自分の罪から藻掻いてでも抜け出そうとする者だったなら、ちゃんとよく調べていただろう。
魔族とは本質的に何なのか?巷で騒がれる無翼の魔族の真実がなんだったのか?それを彼女は調べようとしなかった。
対岸の火事と同じで自分には関係ないと距離を取ったのだ。
調べないと言うのは「知ろうとしない」=「感心がない」=「愛がない」と言う事と同じでありまさに彼女の罪のテーマ“無関心”と言う本質が見事に発露していた。
桔梗は善人のように見え、実は「愛」と呼べる者が希薄な人間なのだ。
だから、相手に感心がなく、それ故にアリシアのイジメもなんとなく止めなかった。
感心がないから環境や状況に流されるままに物事を判断してしまう。
だからこそ、タンムズの何気ない会話で教会に対して疑っていたのに既に篭絡されてしまった。
結局のところ「ベビダや教会の言う事に従ってもいけません」と言うアリシアの願いは早くも破られる事になった。
「桔梗様。申し訳ないが次の仕事を頼まれてくれませんか?」
「次の仕事?どのような仕事でしょうか?」
「なに、簡単な事です。最近、国内に無翼の魔族が現れた事は知っていますか?」
「えぇ、話だけは……」
「最近、その者達が内乱を起こし死傷者が発生しています。このままでは国の治安が悪くなる一方です。相手は魔術が使えない魔族ではありますが、それでも戦闘経験がない一般人などが被害を受けています。そこであなた方には治安維持の為にその魔族を捕縛して欲しいのです」
「捕縛ですか?」
「無論、捕縛となれば多少のリスクはありましょう。しかし、この世界では5翼以上の者はそう多くありません。それにあなた達は戦闘訓練も受けています。況して、魔術が使えない魔族に遅れは取らないでしょう。無論、殺せとは申しません。ただ、治安維持の為にどうか、その力を貸していただけないでしょうか?」
桔梗は一応、考えた。
ほぼ、直感的にだが、一応考えた。
タンムズの言う通り、治安が悪化するのは良くない。
況して、その魔族によって死傷者が発生しており、一般市民にも被害が出ている。
確かに戦いたくはないが、この世界での自分達の力は破格であり、それを持て余すのはどこか憚るところがあった。
「分かりました。生徒達にも相談してみます」
「よろしくお願いします」
桔梗はその話に同意した。
桔梗は更に失敗を重ねた。
「殺さなくて良い」と言えば、聴こえこそ良いが、結果的に教会の騎士団に捕縛されるだから、「桔梗達に捕縛される」=「死罪」だ。
少し考えれば分かる。
だが、桔梗はその少し労力もしなかった。
殆ど、考えず無条件にタンムズに同意した。
彼女にとって所詮、対岸の火事で他人の命は所詮、他人の命だった。
最終的に貴族の義務のようなモノに駆られて同意したが結局のところ、自分達が帰還する上でローリスクハイリターンを求めた結果に過ぎない。
要は楽の道を選んだのだ。
それも他人の命に「関心」がない桔梗と言う人間の人間性を現す結果だった。
そして、「先生が決めた事だから」と言う周りの空気に流され、クラスメイト達は同意した。
尤も、昇だけは不承不承だったが何もしない訳にはいかないと言うのもあり、結果的に同意した。
こうして、混沌は更に加速する事になる。
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