女神の創作活動

 屋敷 工房




 アリシアは訓練を終えて、仮眠を取った後、屋敷にある工房に入った。

 そこには各種機材が揃っている。

 研磨機やプレス加工機その他、神術的な付与や加工が可能な様々な機材だ。

 アリシアはそこでH&K HK416アサルトライフルを分解していた。


 ドローン購入の際に代金に差額が発生した為にその差額の埋め合わせとして何丁か銃を購入した。

 その中の1つがこの銃だ。

 元々、アリシアはG3SG―1バトルライフルと言う銃を愛銃として各種カスタムをして使っていた。

 しかし、その銃は現状オリジナルのアリシアが優先的に使用している為に使用できない。

 そこで代替え策としてアーセナルにあった銃の中からH&K HK416アサルトライフルを選んだ。

 魔物を相手にした場合、小口径では少し力不足な気がするので個人的には大口径のアサルトライフルの方が好ましいが、そこは改造すればなんとでもなる範囲だった。


 実際、この銃は優秀だ。

 近代的なアタッチメントに対応しており各種機能を盛り込める。

 アリシアがいた前世ではHPMと言う電子妨害機器が異常発達し戦場を支配していた事で各種電子機器が使えず、照準補正器等も使用できなくなった。


 そう言った背景からアタッチメント機器は弱体化し代わりにそう言った物を使わないM16やAKシリーズの近代化改修型が歩兵として配備されていた。

 だが、この世界はHPMが存在しない。

 ウクライナに関してもそこまで発達している印象はない。

 それを考えると大変優秀な銃である事は間違いない。




「さて……まずは薬室の強化かな」




 アリシアは分解したパーツの形状を全て記憶した上でそれを如何に”神術”を踏まえた改修するか検討、実行に移した。

 まず、強化すべきは薬室だ。

 アリシアが使う弾丸は特製の通常弾だ。

 使うのは薬莢式の弾丸だ。

 ケースレスの方が総弾数が増えるが、魔物との戦闘を考慮するとケースレスではダメなのだ。


 威力が足りないのは勿論だが、そもそも今から造る銃は火薬を使わないからだ。

 アリシアが使う弾丸は別名“BBA弾”と言う弾頭だ。

 正式名称はビッグバンアストロニウム弾。


 その名の通り、ビッグバンの爆発を応用して発射する弾丸なのだ。

 言うまでもないが、その爆発力は大きくケースレスでそれを再現した場合、爆発が薬室を破損させる恐れがある。

 なので、薬莢によって爆発を保護、指向性を持たせる事で薬室の保護をするのだ。


 ビッグバンは神力を特殊な力場や重力で縮退させる事で神力を爆発的に生成する理論だ。

 これを爆弾や動力炉として利用するなら特殊な力場を使用するのが一番だが、今回は銃火器への転用なのでそこまで威力は求めない。

 よって、重力縮退方式を採用する。


 アリシアはパソコンを使ってVR世界に入り込み薬室の設計を開始した。

 素材が“生成”で作り出したアストロニウムを使う。

 非常に硬く、強靭であり、神術的にも相性の良い地獄のような低次元のみ生成される特殊金属だ。


 欠点があるとすれば加工が難しく、重めの金属なので軽量化主体の銃火器にとっては不向きかも知れない事くらいだ。

 後はビッグバンを利用する関係上、反動はかなり大きなものとなるのでバネもアストロニウムを使った合金にする。

 バネの伸縮により反動を大きく軽減させるのだ。

 その分、バネの力が強いので薬室への次弾装填速度が上がる。

 ただし、そうなると連射性が上がり過ぎてジャムを起こす可能性も否めないのでアリシアが制御できる範囲での連射性にしてジャムが決して起きない最適な合金を作らないとならない。

 仮想空間で実際に何度も銃を組み立て、試射を繰り返す。




「これはダメ」




 ダメと分かれば何がダメだったのか整理して改良を加えて試した。




「これは……なんか違う」




 何が違うのか精査して金属の配合を調整する。

 自作したAIによって算出された合金の配合を1つ1つ試し、その上で薬室の強度や弾の威力や弾倉の調整等を行っていく。

 時に薬莢の威力が高すぎて銃が爆散してVR上で酷い目にあったりもしたが、銃はある程度完成した。




「うん。これで良い」




 アリシアは銃の完成度に満足した。

 色々、試作したがアストロニウムの銃身とアストロニウム70%鉄20%ニッケル10%クロム10%くらいの合金が最適解だった。

 他の銃床やグリップはジャイアント・トレイトの皮であるセルロースナノファイバーで形成、耐久性と軽量化を図った。




「でも、本番はここからだね」




 アリシアはVR世界から出て銃の開発を行った。

 薬室などの基本パーツは工業用3Dプリンターで製造できる。

 問題はパーツの調整だ。


 特にバレルとトリガー等の接触部品だ。

 アリシアはまず、トリガー等の接触部品を製造した。

 それも失敗を込みして大量に造った。

 アリシアはそれを回転式の砥石の上に当てて跳ねるように当てながら削っていった。

 何回か跳ねながら研いでアリシアは研磨具合を目で確かめる。

 蒼い怜悧な瞳が真剣にトリガーの接触部を見つめる。




「ダメだね。削り過ぎた」




 アリシアはそう言ってトリガーを後ろに投げて近くにあったゴミ箱に入れた。

 そして、また削り直した。




「今度はなめらか過ぎる」




 また、捨てた。

 また、削った。




「今度は荒い」




 また、捨てた。

 これを何度も繰り返す。

 アリシアが求めているのは職人的な感覚になるが「滑らかな引き具合を残しつつ、銃を落としても暴発しない程度の摩擦を残した部品」だった。

 なら、油を使ってトリガーを引き易くすれば良いだろうが!と考えるかも知れないが、それではダメなのだ。


 万が一、戦闘中に砂ぼこり等が銃に入った場合、砂が油に混ざって、銃の動作を鈍らせる。

 それが動作不良に繋がる。

 アリシア程の高度な達人となれば、その隙が死に繋がる事もあるのだ。

 それに万が一、銃を落とした時に油の所為で引き金が作動して暴発する事もあり得る。


 なので、アリシアは銃に油を使わない。

 あくまで研磨したトリガーをいつも使っている。

 本当なら研磨専門とも言える叔父貴と言うアリシアの仲間が研いでくれたトリガーが最高なのだが、いない者に期待しても仕方ないので自分でやっている。

 アリシアも叔父貴が来る前はこうして、自分で研いでいたのでこの作業は苦ではなく寧ろ、懐かしんですらいた。




「そう言えば、昔はこうして研いでいたんだよね」




 歩兵として戦っていた時は毎日のように日課として研いでいた。

 周りの兵士は「そんな面倒な事をよくするような」と半分、呆れて笑っていたが、アリシアにとっては全然、笑い事でもなかった。

 あの頃から自分と周囲に人間との認識の差に乖離を覚え始めていた気がした。




「うん。久しぶりに研いだけど、いい具合」




 アリシアは研ぐ度に感覚を取り戻しようやく、満足いく物ができた。

 トリガーができれば他の部品も流れるように研ぐ事ができた。

 これらの内部パーツに摩耗を防ぐ”神術”を施した事で破壊されない限り、半永久的に使えるパーツに仕上げた。




「でも、ここからが本勝負だね」




 アリシアは作成されたバレルを見た。

 まだ、組み立て前にただの1本の筒だ。

 これに今からライフリングを加えていく。

 だが、問題がある。

 通常の銃とは違い、この銃はBBA弾を使用する。

 その為に通常の加工ではあまりに高速で射出される弾丸の速度にライフリングが摩耗する。

 摩耗を防ぐ”神術”でも限度があるほどにはここの接触は激しい。


 よって、バレルに関して全体的な神術による強化を施しつつ、特にライフリング部には徹底的に補強する必要がある。

 それを行うにはドリルで削りながらドリルを介してライフルリングを補強するのが一番効率的だった。

 ここからが本番だ。


 ここからは機械が通用する領域ではない。

 長年の研鑽と技術が物を言う。

 少しでも加減を誤るとバレルが歪み、それが銃の射撃精度に大きく影響する。

 なので、アリシアは心をすり減らすようにドリルを入れながら、そこから”神術”を施し、バレルを加工した。




「う……うぅ……」




 目が覚めると机の上で眠っていた。




「思わず、寝ちゃったか……」




 確か、バレルが完成した事で気が抜け、そのまま寝落ちした事までは覚えている。

 アリシアの前にはバレルがあった。

 見た限り完成しているように見える。

 アリシアは念の為にバレルを手持ち細部まで確認する。

 筒の中のライフリングの形状からバレルが歪みまで精確に見た。




「うん。問題ないね」




 アリシアが確認を終えた頃には3Dプリンターにより造られた他の部品も完成した。

 アリシアはそれを取り、慣れた手つきで銃を組み立てた。




「うん、上出来」




 手に持った感じ、普通の銃より重いが悪くない。

 銃を構え引き金も引いてみた。




 カチッ




 滑らかで微かな抵抗感があった。

 我ながら良い出来だった。

 後はアーセナルから購入したアタッチメント部品を取りつけて完成した。




「これで歩兵火器は揃ったかな……後はあっちの仕上がりも確認しておかないとね」




 アリシアはそう言って隣の部屋に入った。

 そこには3機のドローンが作業用アームにより何かしらの改造を受けている姿だった。

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