思わぬ再会

 アリシアはミラからドローン3機を受け取った。

 所々、傷があり使われた痕跡はあるが動作上は何の問題もない事を確認した。

 アリシアはそれを”空間収納”に格納、“ゲート”と言う“神時空術”と言う時空間制御の神術でワームホールを開き、ワオの町に戻った。

 ワオの町にある自宅に戻った直後、自宅の周りが騒がしく外を見ているとそこには無数の騎士が配備され、攻城兵器と思われる丸太型の破槌器を用いて城門を破壊しようとしていた。

 他にも魔術等を駆使して屋敷に攻撃を仕掛けていた。

 しかし、核攻撃を想定したこの家はそんな事では傷一つ付かない。

 その辺の邪神が攻撃しても壊れない設計になっているのだ。





「また、揉め事か……」




 いい加減呆れてしまう。

 何が理由か知らないが明らかに敵意を持っている事は分かる。

 自分に対する迫害と敵意にはもううんざりしてしまう。

 しかも、耳を澄ませれば、相手が何を思っているのかすぐに分かった。




「教会の威信にかけて異端を排除しろ!」


「蒼い悪魔に裁きの鉄槌を!」


「蒼い悪魔に裁きの鉄槌を!」


「蒼い悪魔に裁きの鉄槌を!」




 どうやら、彼らはベビダ教らしい。

 アリシアの事を「蒼い悪魔」と言っている。

 アリシアからすると……心当たりしかない。

 確かに教会に反抗するような教えを広めた。

 パソコンを手に入れたので教会がやりそうな汚職や腐敗行為をアンチする為の対策マニュアルのような本を商人等を使って他の町にも流し10000部ほど売った。


 どのくらい売れたか知らないが無料で売った上にハーリと協力的な町に優先に流れるように細工した。

 その効果が出たのなら今頃、反ベビダ人達が教会の圧政に反抗、聖典的な論理で教会を逆に異端視して教会の権威は失墜しただろう。

 その結果、疎ましく思ったアリシアを教会が潰しに来たなら納得がいく。




「全く……自分達の行いが招いた結果だと言うのに人に責任を擦りつけるなんて……本当に甚だしい」




 最早、呆れてしまう。

 人間は昔からそんな感じだ。

 もし、これがアリシアが人間にとっての両親的な神だったなら両親は子供の行いを許したかも知れない。

 親とはそう言う生き物だからだ。


 だが、違う。

 その両親に相当する神は死んだ。

 人間が殺したのだ。

 アリシアにとって人間とは“兄弟”もしくは“姉妹”でしかない。

 そう言う意味では人間の事を兄弟姉妹のように愛しているかも知れないが親ほどの愛がある訳ではない。

 故に親ほどの度量で許せる訳ではないのだ。

 正直、この光景を見て、呆れていた反面、憤りも覚えていた。


 彼らは何も学んでいないのだ。

 アレだけの戦いを引き起こしておきながら厚顔無恥に振る舞い、己を顧みず、一切悔い改めない。

 アリシアの心は酷く冷めていた。




「このままってわけにもいかないか」




 アリシアは外に出た。

 アリシアが扉から出ると教会の騎士や魔術師が弓矢や魔術でアリシアめがけて攻撃した。




「蒼い悪魔だ!殺せ!」


「異端を排除しろ!」




 一切の慈悲などなく容赦なく攻撃を喰ら得られる。

 アリシアは瞬間移動でもするようにステップを踏みながら回避、取り出した刀で矢を叩き落とす。




「飛影斬」




 アリシアは神力を刀に籠めて振った。

 神力で形成された刃が飛翔、門の向こう側にいた敵に直撃した。

 彼らの胴体は両断され、絶命した。


 門は傷一つついていない。

 アリシアほどになれば神力に認識の仕方で斬るべき相手と斬らざる相手を認識し識別できるので門は傷付いていない。

 敵の全滅を確認すると門の外に出た。

 辺りには臓腑が散り血が多く流れていた。

 このままでは衛生上良くないと思ったのでアリシアは”神火炎術”で死体を燃やした。

 辺りには煙が立ち込め、人が薪のように燃えた。




「相沢さん?」




 声がした方向を振り返った。

 そこには見慣れた人物がいた。




「相沢さんよね」




 桔梗先生だった。

 何故か彼女がこの街にいた。

 それを語るにはアリシアがウクライナに行っていた間の事に遡る。




 ◇◇◇




 アリシアがウクライナに行っている間、桔梗達が色んな街を回っていた。

 そこでは主に本屋に立ち寄ってタンムズに頼まれた調査を行っていた。

 その過程でいくつか分かった事がある。

 桔梗は少し高級な料理店で皆を集め、話あった。





「まずはわたしから報告します」




 一番に桔梗が口を開いた。




「調べて見て分かりましたが確かにアリシア・アイと言う女性が神語の翻訳本を書いているようです。主にワオと言う町を拠点に活動していると本屋を出入りしていた商人から確認できました」




 分かった事はアリシア・アイと言う女性が無料で神語を現代語に訳した現代語訳と言う本を売り出している事だ。

 この世界に来る際に”言語理解”と言う能力を賜った桔梗達であったが、それを以てしてもその神語がなんと書かれているのか分からず、情報の精度に関しては分からなかった。

 次に加藤・結華と言う茶髪のボブヘアの女子が答えた。




「わたしもきーちゃんと同じ話は聴きました。でも、その本少し変だったような気がします」


「変、とは?」


「書店にあった本は殆どが手書きでした。なのに、現代語訳の本は全く同じ文字で書かれていました。それもかなり質の良い紙が使われていた。まるでコピー用紙にWORDを印刷したような本だったように思えます」




 それに対して他のクラスメイトも「そう言えば、そうだな」「手書きとは思えないほどに綺麗だったよね」「たしかにアレは、WORDかもね」とみんな、結華の言葉に同意した。




「つまり、加藤さんは何が言いたいんですか?」


「もしかしたら、この本、わたし達と同じ世界の人間が書いた本なんじゃないかと思います」


「同じ世界……ですか?クラスメイトの誰かがこの本を書いていると?」


「いえ、少なくともわたし達が転移した時にはパソコンやプリントは転移していませんから……恐らく、わたし達とは別口でこの世界に来た人なんじゃないかと思います」




 その人物もベビダに召喚された可能性もあるかもしれない。

 だが、タンムズからはそのような話は聴いていない。

 仮にベビダにより召喚されたなら対魔族戦に参加を促されている筈だ。

 だと言うのにこのアリシア・アイがやっている事は教会の内部分裂を引き起こす行為だった。

 言わば、足の引っ張り合いだ。





「その方が我々と同じ世界から来た人間だとしても……その行動は止めるべきだと思います。魔族が侵攻してくる中で人間同士が争っている場合ではありません」




 それに結華も答える。




「そうですね。このままでは、人間同士の内乱になったら魔族と戦うどころじゃない。わたし達の帰還も遠退くかも知れません」




 桔梗と結華のその意見に他のクラスメイトも首肯した。

 最初こそ、この任務に不承不承で受けた生徒達であったが、整理するとこの状態は不味いと思い始めた。

 このまま、教会が内部分裂を起こすと魔族と戦争をする所ではなくなり、自分達の帰還が遠退く気がした。

 ベビダ教のやり方に反対する意見が出るのはごく自然な事だと桔梗達も理解はしているが……だからと言って魔族の侵攻を受けている状態で内乱を起こすような真似は良くないと思った。

 よく話し合って皆で一致団結すべきだと思ってしまうのだ。

 良くも悪くも彼らは日本人であり、リベラルに染まった人間だった。




「それにはまず、そのアリシアさんを見つける必要があります。彼女が何を思っているか知りませんが……話し合えば、分かって貰えるはずです!」




 桔梗は立ち上がり意気込みを露にする。

 それに結華が補足する。




「そうですね。それにもし、わたし達と同じ転移者なら、同じように帰還を目指しているかもしれません。話す余地はあると思います」




 こうして、話が纏まり彼らは食事をしてからワオの町に向けて、旅立った。

 道中で魔物と遭遇する事になったが5翼以上の彼らにとっては特に苦戦する事もなくワオの町に着いた。

 そこからは簡単だった。

 アリシアはこの町では良くも悪くも有名だった。

 多くの者は“魔族”として忌み嫌う無翼の冒険者として知られており、悪い噂等が多く流れていた。


 冒険者としての受けた仕事を偽装して完遂した事にしたとかジャイアント・トレイト討伐でも死体で落ちていたジャイアント・トレイトを討伐したと偽ったとか先日、ワイバーンに攫われた領主の娘を救出した事で領主から特例冒険者として認知されたが、実はそれがアリシアによる自作自演であり、ワイバーンも彼女が嗾けたとか聴けば聴くほどアリシア・アイと言う存在は悪人のように聴こえた。

 無論、アリシアを“聖女”として讃える者もいたが、それを掻き消すくらいには悪い噂が多い。

 その所為か、クラスメイトはアリシアに関して悪いイメージと先入観を抱く。




「聴いた限り、かなり悪い人のようですね」




 桔梗は町の人間から聴いたアリシアの住所のメモを見ながら家を目指していた。

 それにはクラスメイトも同意した。




「普通に危ない人でしょう。神語の解釈も絶対に怪しいカルトですよ」


「そうですよ。きっと、適当な翻訳で事実無根でしょう」


「きっと、教会の原理主義のルイターとか言う奴を金とかで買収したに違いない」


「こんな危ない人の本なんて絶対に信用できない」




 そのように思い込んでいた。

 それに関しては桔梗も同意だった。

 火のないところに煙は立たないと言うことわざもある。

 少なくともアリシアと言う人間に関してはあまり良い噂を聴かない。

 無翼である事から迫害されているかも知れないと言う事を差し引いても悪い噂しかない。

 街の人に本当に嫌われている。

 そう言った集団心理もあり、桔梗達もいつしかそう思い込むようになった。




「どうやら、ここみたいですね」




 辿り着いた場所を見るとそこには立派な屋敷があった。

 周りと比べても立派な屋敷でありこの世界を基準にしてもグレードの高い家だった。




「随分と立派な家ですね」




 感嘆の声を出す桔梗の横でクラスメイトは……。




「へぇ!どうせ、不正で得た金で建てたんだろう!」


「きっと、とんでもないアバズレが建てたに違いない」


「成金豚のような女が住んでるんだろうさ」




 そのような誹謗中傷を言っていた。

 ただ、その家には他の家にはない不可解な点があった。

 家の入口にある鉄格子のような門の横にはインターホンがついていたのだ。




「これは……インターホンですよね……」



 

 そう呟く桔梗に対して




「だと思いますよ」


「一応、押して中に人がいるか確認した方が良いんじゃね」




 クラスメイトにそう促された。

 確かにその通りだと思った。

 だが、同時に身の危険も感じていた。

 仮に相手が暴力的な人間だとすれば、いきなり襲われるかも知れない。

 相手が魔族の可能性もある。

 5翼以上の自分達が早々、負ける事はないだろうがリスクはある。

 ここでよく考える事にした。

 少なくとも自分達は“アリシアの家を見つける”事とは成功した。

 

 ならば、後は“アリシアがいる事を確認”すれば良い。

 インターホンを押して確認するのも手だが、リスクはある。

 そんなリスクを犯すくらいなら相手が家から出て来るタイミングを監視した方が安全なような気がした。

 少なくともリスクはかなり軽減されるはずだ。

 その事をクラスメイトに相談した。




「確かにその意見はあると思います」


「魔族には外術と言う魔術を使う奴もいますから危険はあるかもしれませんね」


「なら、監視しつつ、教会の増援を頼んだらどうでしょうか?教会側に成果を報せる意味でもそうした方が良いと思います」




 そう言った意見が纏まり、桔梗達は屋敷を見渡せる宿に下宿しながら教会の増援を待った。

 そして、数日後に教会からの増援が来た。

 教会の増援は到着するなりアリシアの屋敷の前で破槌を組み立て始めた。

 何事かと思い、桔梗が尋ねると教会騎士団の団長は「アリシアなる魔族の存在はあなた方の手紙を受け取ったと同時期に他の者から密告があった。これを受け、我々をアリシア・アイを“異端”と認定、討伐する事を決定し並びに神の使徒である“勇者様”方の万が一の事があってはならないのでその護衛を仰せつかりました」と返答した。


 なんでも、教会も当初はアリシア・アイを教会に反論する教本を書く悩みの種に思っていたが、ルイターの影響で「異端」と断じされなかったらしい。

 しかし、相手が魔族である事が判明した。

 桔梗達の報告と密告者の報告が合わさり教会はアリシア・アイを魔族として公式に認定、公然的に処断を開始しようとした。

 無論、アリシアが本当に魔族かどうかは確認していない。

 もっと言うならそんな事実はどうでも良いのだ。

 ただ、そのように疑われたから罰せられるのだ。

 桔梗達もその短絡的とも言えるやり方には少し抵抗はあったが、相手は悪徳な女だから一般人が殺されるよりはマシと心のどこかで思い、特に反論はしなかった。


 教会の騎士団はアリシアが家に立て籠もっていると思い、破槌で門を破壊、突入しようとした。

 しかし、それから数日間、攻撃したがビクともしなかった。

 破槌と並行して魔術による攻撃で家諸共、焼き払い殺そうともしたが、家は燃える事すらなく火炎で爆破しても傷すらつかなかった。

 そんな中でも桔梗達は律儀に下宿先から屋敷を監視していた。

 そんなある日、桔梗が監視していた時、屋敷のドアが開いたのが見えた。

 そして、そこに映る人物に見えを見開いた。




「相沢……さん」




 そう、そこには彼女がいたのだ。

 死んだはずの彼女が鎧を纏い、刀を持っていたのだ。

 桔梗は駆け出さずにはいられなかった。

 桔梗が宿の階段を降りている間に既に教会の騎士団は全滅、蒼い髪の少女は炎を着火、死体を焼いていた。




「相沢さん?」




 その声に蒼い髪の少女はこちらを振り向いた。

 その時の少女の顔は桔梗が知っている時よりも鋭く怜悧な眼差しに変わっていた。

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