ワイバーン討伐依頼

 話を纏めると……ギルドに張り出されていたワイバーンの討伐依頼に関連するようだ。

 この辺りの村でワイバーンの被害が多発、ある村が討伐依頼を出した。

 これを聴いた領主もワイバーンは看過できないと私兵を派遣しワイバーンの住処を見つける事に成功した。


 だが、そこで問題が起きた。

 ワイバーンの巣は想像以上に肥大化しており、活動範囲が広くなっていたのだ。

 その結果、この町にまで活動範囲を広げており、家畜などにも被害が出た。

 そんな中、町の外で遊んでいた領主の娘アルテシアが家畜と共にワイバーンに連れ去られてしまった。


 ワイバーンは捕まえた獲物を一度巣に持ち帰ってから捕食する性質がある。

 幸いと言うべきか、アルテシアには”魔除けのロケット”と言うモノを持たせているのですぐには食い殺される心配はないが、それでも絶対ではない。

 領主にとって、事態は一刻を争う。

 すぐに騎士達を派遣しようとしたが、騎士達はワイバーンの住処からの救出は不可能だと断じた。

 準備をすればできると言ったが、そんな時間はない。

 その後、冒険者ギルドに赴き、腕の立つ冒険者に依頼した。

 だが、誰も仕事を受けたがらない。

 報酬は良かったが、全滅確定の仕事を受ける者はいなかった。

 そこで困り果てた領主はある受付嬢のフランからアリシアの存在を知った。


 単騎でジャイアント・トレイトやグリッタービートルを討伐した強者がいると教えられた。

 領主はすぐにその場所に向かった。

 尤も冒険者ギルド内では「あの女は魔族だ」などと言っている声がしたが、魔族だろうとなんだろうと娘が救えるならなんでも良いと思った領主はその足でここに来た。




「無事に娘を救えたなら成功報酬に金貨100枚を出す。どうか、引き受けてくれないか!」




 ここで仕事を断れば、ガルス達が襲って来るだろう。

 そうなれば、邪神の思惑通りになる。

 ならば、救出作戦の依頼を受けて領主の庇護下に入った方が良いだろう。

 ワイバーンがジャイアント・トレイトと引き合いに出される存在なら討伐はそう難しくはない。

 救出も大丈夫だろう。

 それに娘を想う彼の気持ちを裏切る事ができそうにない。




「分かりました。引き受けます」


「おぉ!」


「早速ですけど、ワイバーンの住処を教えて下さい」




 ハーリは騎士に指示を出し騎士は後ろから地図を取り出した。

 その場所は西も森の高台に位置する洞窟だった。




「なるほど、場所は分かりました。すぐに向かいます」


「ここからでは少し遠い。馬を用意しているからそれで向かうと良い」


「いいえ、大丈夫です。こちらには馬より速い乗り物があります」




 アリシアは魂の格納からバイクを取り出した。

 魔術駆動式バイク“エミールV”だ。

 各種武装を搭載した戦闘用バイクだ。

 スポーツバイクのような外観をしており、かなり速い。

 少なくともその辺の馬よりも速い。

 周りの者は「アレは魔導具か?」「いや、今どこから出したんだ?魔術か?」「なんで0翼の魔族が魔術使えるんだよ」等と呟いていたが無視した。




「それでは今から向かいます。少し離れて下さい」




 アリシアに促され、領主達は少し離れた。

 離れた事を確認するとアリシアはアクセルを全開にして発進した。

 バイクは一瞬の内に視界から消えた。




 ◇◇◇




 拙速の伴う任務なのでバイクはそのままの加速で森に突撃した。

 バイクに搭載された”神火炎術”式砲弾が目の前の森を破壊、更地に変える。

 そして、バイクのタイヤに仕込んだ神術で凸凹の道を整地、そのままワイバーンの住処まで直進する。

 道中、魔物がいたが、それも構わず爆散させていく。


 そして、あっと言う間にワイバーンの住処である高台に到着した。

 アリシアはバイクを持ち上げバイクは高く跳躍した。

 そのまま”魂の空間収納”にバイクを格納、空中で1回転して高台に着地した。

 すると、洞窟の中からワイバーンがこちらを睨む。

 数が多い。

 しかし、火炎系の神術を使うと人質にも被害が出るかも知れないので両腰の刀を抜刀した。

 ワイバーンは縄張りに入られたと思い、洞窟の中から一斉に飛び出した。

 ワイバーンは”火炎魔術”で出来た火球を口から連射した。

 

 ワイバーンの鱗は非常に硬く強靭であり、空中での機動力もあり、火力も高い。

 いわば、空飛ぶ戦車のような存在だ。

 それ故に並みの冒険者からは避けられる存在でもある。


 だが、アリシアにとってはそう難しい敵ではない。

 ただ、単に真っすぐに飛んでくる自分を狙った攻撃なら射線を逸らせば、避けられる。

 アリシアはステップを踏みながら、前へ前へと進んで行く。

 ワイバーンとの交差距離に入ると一閃。

 ワイバーンの頭部を的確に両断する。

 更に迫って来るワイバーンを右手、左手の順で切り裂きながら前に進んで行く。

 

 アリシアが洞窟の中を進むに連れ、ワイバーン達も後退るような仕草を見せる。

 明らかに自分達よりも格上の敵として警戒心を抱き始めた。

 だが、それでも譲れないモノがあるのかワイバーン達は肉迫して来た。

 しかし、戦術は変えてきた。

 アリシアに近づくのが危険と感じたのか、距離を取りながら火球を吐いた。

 ただ、ただの火球ではない威力は先ほどの比ではないほどの大きさになっており、飛行するだけの広さのある洞窟を埋め尽くすほどの火球がアリシアに向けて放たれた。


 避ける場所がなければ流石に避けられない。

 だが、避ける必要はなかった。

 アリシアは右手の刀を腰に戻し、左手を刀を両手に持ち、上段から構え、一気に振った。


 すると、空気が爆ぜた。

 剣先から発せられた衝撃波が巨大な火球を両断した。

 その空気の斬撃に数匹のワイバーンが胴体諸共、切断された。

 それと共に洞窟が先ほど両断して左右に分かれた火球の爆風により亀裂が奔る。

 洞窟に亀裂が入った様な音を立て始めた。




「時間がなさそうだね」




 アリシアは一気に勝負をつける為に再び右手に刀を装備、両手に広げて一気に肉迫した。




「ぎゃあ!?」




 ワイバーン達は視界から消えたアリシアに驚いたような素振りを見せたが、刹那だった。

 何かが通り過ぎたと思い、振り返った瞬間に彼らの体は正中線から両断され、臓腑を噴き上げながら落ちた。

 そのまま洞窟を進みながら人質を探す。

 幸い、洞窟は直進的であり、見つけるのはそう時間がかからなかった。

 ワイバーンを斬り裂きながら前に進むと最深部にはワイバーンの群れと巨大なワイバーン……この世界で言うところドラゴンがいた。


 ワイバーンは亜竜と呼ばれ、全体的に細身な印象がある一方でドラゴンは大型で強靭で屈強な躯体を持つとされる。

 そして、ドラゴンはワイバーンを従えている事が多い。

 そして、ドラゴンの前には血だらけで倒れている女の子の姿があった。

 外見的な特徴から保護対象だとすぐに分かった。

 だが、腕の肉が抉れ、既に目が虚ろになりながら、こちらを見せている。

 生きてはいるだろうが、既に半生半死と言ったところだ。

 アリシアは保護対象の位置と敵の位置を的確に把握した上で”神光術”を放った。




「ソーラ・レイ!」




 アリシアは刀を持ったまま、右人差し指から光の光線を放ち、ワイバーンの首を焼き落とした。

 その一撃は後方にいるドラゴンの胴体にも直撃するがドラゴンは翼を羽ばたかせるとその光線を弾いた。




「この程度ではダメージすらないか……」




 流石に強大なドラゴンだけありアリシアの神光術を以てしても鱗を貫通する事ができなかった。

 やはり、弱体化が著しいようで威力が低下していた。





「ぐうぁぁぁ!!」




 ドラゴンは吠えた。

 今の攻撃で敵意を煽ったらしい。

 ドラゴンは今にも崩落しそうな洞窟である事をお構いもせず、口からブレスを吐いた。

 それはブレスと言うより、”火炎魔術”で出来た熱線だった。

 アリシアは咄嗟に“障壁”と言う神力で出来たバリアを展開した。

 だが、指向性を持ったブレスの直撃に“障壁”は耐えられず、貫通し、アリシアの胸に直撃、そのまま吹き飛ばし、アリシアは地面に転がった。

 幸い、頭は腕で咄嗟に守り、強化された鎧の防御のお陰で致命傷は負わなかったが頭からは血が流れていた。

 だが、今の衝撃波で洞窟の崩落が加速している。

 このままでは保護対象が生き埋めになる。

 しかし、ドラゴンがいる限り近づく事すらできない。

 こうなれば、切り札を切るしかない。




「極大魔術しかないか……」




 今の自分ではすぐには展開できない。

 チャージに時間がかかってしまう。

 その間、避ける事もできないがやるしかない。

 アリシアは左右の刀の納刀、左指先をドラゴンに向けた。

 そして、神力を体内と外部から搔き集める。

 ドラゴンもそれに感づき、「不味い」と思ったのだろう。

 再度、ブレスを発射した。

 だが、アリシアも“障壁”を胸部に集中させそれを防いだ。

 ドラゴンは先ほど的確に胸部を狙ったので恐らく、そこを狙うだろうと当たりを付けたが的中したらしい。


 ドラゴンはやけになり、更にブレスを強めた。

 その度にアリシアの脚がずるずると後ろに下がりアリシアは歯茎を軋ませる。

 “障壁”も所処が裂け、ブレスが亀裂から迸りアリシアの頬を焼いた。

 鎧の能力で頭部も守られているがそれでも鎧で覆われているところほどではない。

 アリシアの頬には飛び散った火の粉が火傷として残る。

 だが、それでもアリシアは極大魔術発射を止めない。

 既に死ぬ覚悟は出来ている。

 死ぬのが怖くないわけではないがそれでも恐れを抱けば死に繋がるとアリシアは骨身の髄まで知っている。

 だからこそ、躊躇わない。

 恐れを乗り越えて自分は勝つと……自分は死なないと強く思っているからだ。

 そして、障壁が完全に割れたと同時にアリシアの術式が完成した。




「ドラメント!バスタァァァァァァァ!!!!」




 指先から放たれた火炎、雷鳴、光の3色の光線が螺旋を描き、ドラゴンのブレスを押し退け飛翔した。

 極大魔術の中でも“複合魔術”と呼ばれるこの技は術同士を共振させる事で高効率、高威力の技を放つ事ができる。

 ただし、その制御は至難の技であり、魔力を持つ生物は基本的に習得できない。

 所謂、神とその眷属にだけ赦された必殺の一撃である。

 その一撃を受け、ドラゴンの頭部は消し飛び、ドラゴンの巨体が力無く地に堕ちた。


 だが、今の衝撃で崩落が加速し今にも崩れそうになっていた。

 アリシアは気力を振り絞り、保護対象を肩に担ぎ、走って外に出た。

 そのまま高台から飛び降り、地面に着地した。

 洞窟は崩落して行き、高台の壁も瓦解していった。

 間一髪だった。




「呼吸は……まだあるね」




 アリシアは保護対象の生存を確認すると”神回復術”と言う神術をかけた。

 それにより傷は癒え、一部肉が抉れていたが……その欠損も神力で補完し元通りになった。

 彼女は気絶したまま目を覚まさない。

 だが、一命は取り止めた。

 それを確認したアリシアは自分の火傷等の傷を神回復術で治した。




「なんとか、終わったかな……」




 正直、辛うじての勝利だった。

 やはりと言うべきか自分自身の戦闘力が大幅に弱体化していた。

 このままでは不味いと思った。

 今の状態では邪神にすら勝てない可能性もある。

 いや、もしかすると邪神の使徒にすら勝てないかも知れない。




(早く強くならないと……)




 アリシアの中に一抹の焦りが込みあげた。。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る