女神の不安

 ワオの町についたのは、夕方くらいだった。

 太陽が傾き始め、もうじきに夜になる。

 町には木製で出来た壁があり、そこには門番もいた。

 アリシアは警戒されないようにゆっくりと町に近づく。




「何者だ」




 門番が声をかける。




「旅の者です。この町に宿泊しようと思って来ました」


「宿泊か……分かった。ただし、通行料は徴収するからな。銅貨3枚出してくれ」


「生憎、手持ちの財布は旅の途中で落としてしまいました。代わりに課金できる物ならあるのですが、それで構いませんか?」


「そうか……財布を落としたのなら仕方がない。だが、何を差し出すつもりだ?その立派な鎧でも差し出すのか?」


「それはできませんが……代わりに」




 アリシアはそう言っ”て空間収納”から3匹の狼の死骸を出した。




「これを課金できますが、銅貨3枚分になりますか?」


「これは……フォレストウルフか……」


「多分、フォレストウルフだと思います」




 ”管理者権限”の情報にもそう記載されていた。

 なんでも、この辺りの森を縄張りとする狼らしく。

 森を縄張りとする狼は全て一括りに”フォレストウルフ”と呼ぶらしい。

 群れで行動する事が多く、連携能力も高い事から単独での討伐の難易度は高いとされている。




「ふん……これなら銅貨300枚くらいの価値はあるか……分かった。今から商人を派遣して査定させる」


「ありがとうございます」




 それから門番が派遣した商人が狼の査定を開始した。

 そして、商人は銅貨310枚をアリシアに渡した。

 ついでに感嘆された。




「いや、見事な手際ですね。綺麗に殺されているのでこちらとしても助かりました」


「それほどでもありません」


「しかし、少し勿体なかったです」


「勿体ないとは?」


「仮に皮等を事前に解体してくれたなら手間賃としてもう少し値段に色をつける事もできたと言う事です」


「なるほど、確かに勿体なかったですね」




 アリシアも基本的な解体作業はできる。

 だが、そう言った事は業者がやるモノだと思っていたのでやらなかったが、この世界で活動するならそうした方が良いのかも知れないと思った。


 アリシアは門番に銅貨3枚を渡し、ワオの町に入った。

 そこで”管理者権限”で調べた宿に向かった。

 現状の所持金で30日食事付きで過せる宿であり、小さな個室にベッドがある宿だった。

 アリシアは鎧を”魂に空間収納”に格納、ダイレクトスーツ姿でベッドの上で横になった。

 アリシアは目を瞑りながら、今後の事を考える。

 当面の生活費は一応、稼ぐ事はできた。

 しかし、それも一時だ。

 今後の事を考えると旅をしながら、仕事ができる仕事を見つける必要がある。

 「そんな仕事ありますか?」と門番に相談すると「冒険者をやるのが手っとり早い」と言われた。


 ラノトノベル等に出て来る職業を想像してしまったので一応、どんなモノか詳しく聴いた。

 簡単に言うと騎士等が対応できない魔物の討伐や素材採取等を行う騎士の下請け業者のようなモノだ。

 世界各地に拠点があり、スタンスとしてはあくまで騎士団の下請けなので国同士の戦争に駆り出される事はない。

 尤も任意なので個人の裁量で参加も可能。

 冒険者カードを造れば、どの町でも冒険者として活動が可能となるようなので、しばらくはこの町で情報を収集しながら、お金を稼ぐ事に専念すべきだろう。




「それにしても……不安だな」




 何が不安かと言えば、冒険者となれば他の冒険者との人付き合いも発生するだろう。

 そうなると揉め事も増えるわけだ。

 それが憂鬱でならない。

 

 アリシアは基本的に人が嫌いだ。

 好き好んで積極的に関わりたいとは、思わない。

 人間とは色々、理由をつけて言い掛かりや争いを産み出す存在だとアリシアは認知している。

 そう言った人間がいないなら、自分はあの悪魔との大戦争に駆り出されていない。

 

 況して、アリシアは持つ”神力”は”魔力”と相反する性質を持っている。

 アリシアに紋章が刻印できなかったのは、”魔力”を使う紋章との相性が悪すぎるからだ。

 そして、”神力”を持つ存在は”魔力”を持つ人間から嫌悪され易い。

 個体差はあるが、基本的に嫌悪される。

 クラスメイト達がアリシアをイジメていたのはアリシアが神力を有していたからと言う理由も大きい。

 ただ、だからと言って神力の所為ではなく……そう言った環境に流されて迫害した人間の責任だ。

 だからこそ、アリシアは人間が嫌いだった。

 人間とは、どんな環境に置かれたとしても最終的に自分の意志で物事を決めるのだ。

 だからこそ、神力=イジメではなく、それは本人達の責任であり、彼らはアリシアに敵対した。


 そして、事もあろうに自分の意志でアリシアを火刑に処したのだ。

 到底、赦される事ではない。

 そして、今後も人間と関われば自分は無実の罪を着せられ、謂れの無い事を言われる可能性も大いにある。

 それ故に人間と関わる事に暗鬱さを感じざるを得なかった。




「考えても仕方ないか……もう寝よう」




 アリシアはマイナス思考を振り切って就寝した。

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