復活の女神

 とある森




 人気の無い森の中で彼女は目覚めた。

 森の中にぽつりと置かれた綺麗な池の畔で蒼い粒子が人の形を模り、人の形を成し、生まれた時の姿の腹筋が割れた細身で筋肉質の蒼い髪のポニーテールの女ができた。




「どうやら、成功したみたいね」




 アリシアは取り合えず、無事だった事に安堵する。

 神の能力の中には1度死んでも復活する能力がある。

 ただ、それも完璧ではなく、レジストしないと殺害によって地獄に堕ちる事もある。

 アリシアは地獄に堕ちた程度では死なないが堕ちないに越した事はない。

 それに今の自分が堕ちた場合、それも邪神や悪魔の思う壺なので、意地でも復活しないとならなかった。

 ただ、女神だった時の記憶が戻り、色々と分かった事もある。




「前世ほどの力は流石にないか……」




 自分の両手に力を入れてみたが、今の自分にはかつてほどの力はない。

 元々、今の自分自身が本体であるオリジナルから零れた残滓が人間の姿をしているだけなので、力自体はオリジナルと比較しても見る影もないだろうが、それにしても低かった。




「オリジナルとのテレパシーは……無理か。オリジナルの現状把握は出来ないね」




 本来の能力にも一部制限がかかっていた。

 テレパシーや認識共有と言った固有能力は力の低下と共にその能力を失っていた。




「装備品は……取り出せるね」




 幸い、自分の魂に格納したアイテムは取り出せるようだ。

 確認した感じ、自分が知っている格納数よりも増えている事が分かる。

 そして、この”魂の空間収納”内のアイテムはシステム上、オリジナルと共有されている。

 つまり、アイテムが増えていると言う事は、少なくともオリジナルは生きている事だけはわかった。

 それだけでも安堵するに値する。

 オリジナルが死んだとすれば、世界の全てが無法地帯と化しているのと同義であり、それが自分はあの戦いにどんな形であれ、勝ったと自負できる証でもあったからだ。


 アリシアは丸裸なので取り合えず、鎧の下に着るアンダーウェアであるダイレクトスーツと言う体に密着するタイプの蒼いスーツ取り出し、爪先からスーツの首穴に足を入れて装着し、右腕のリストバンドにスーツを密着させる。

 それからその上に魂から取り出した鎧の転送するような形で着込んだ。

 鎧も蒼を基調とし蒼炎を思わせるような揺らめくデザインが特徴的な鎧だった。




「まさか、またこれを着る事になるとはね」




 今、アリシアが着ている鎧は“戦神の蒼輝具”と言う名前の鎧でありかつて、アリシアが殺したオーディンの鎧であり、自分が最初期に使っていた鎧だ。

 ただ、アリシアが知っている頃の鎧とは、まるで別物に変わっており、名前も“戦神の蒼輝具Ⅳ”となっており、かなり性能として向上しており、アリシアが悪魔との最終決戦で装着していた鎧に比肩するレベルになっていた。

 鎧の特性上、改造とかは実質、不可能に近かったはずだが、この鎧には大幅な改造が施されていた。

 恐らく、何らかの技術革新があったのだろうと容易に推察できた。

 どんな手を使ったのかは分からないが、結果的に高性能な鎧が入ったならそれで良かった。




「他に出来る事は……これかな?管理者権限!」




 そう宣言すると目の前に、ウィンドウが現れた。

 そこには様々な項目が存在し、周辺地図やこの世界の人口等が記されていた。




「この仕様は知らないな……オリジナルが造った新仕様かな?」




 軽くウィンドウをタップして流して見たが、どうやら、世界の管理者であるオリジナルやその眷属である神だけが使える文字通りの“管理者権限”のようだ。

 恐らく、”権能”を使っている。

 ”権能”は過去の大戦で失われたとされていたが、オリジナルは一部とは言え、回収に成功したようだ。

 これを使えば、相手のプロフィールなんかも1発で分かるらしい。

 尤も、絶対に閲覧できるとは限らないが……今のアリシアは人の心を読むほどの力もない。

 この力があれば、騙される心配とかはなさそうだ。

 それでも過信は禁物ではあるが……。




「さて、いつか復讐するにしてもまずは情報だね。ここから近い町はワオの町か……まずはそこを目指すとしますか」




 アリシアは魂から武器を取り出す。

 魔剣……を取り出そうとしたが魔剣は無かったので、ただの鋼でできた長刀を2本取り出し、両腰に付けた。




「さて、行くか……」




 アリシアは西に向かって森を歩き始めた。

 “管理者権限”のウィンドウには方角と地図が記載されていた。

 恐らく、アカシックレコードを応用して仕入れた情報を地図化したモノだと推測されるのでその辺の地図よりもかなり信頼できる。

 

 まず、ワオの町でやらねばならない事はこの世界について調べる事とタンムズが所属していた神殿に関する情報だ。

 神殿と言うからには何らかの宗派が関わっているのは自明だろう。

 差し詰め、ベビダ教と言ったところだろう。

 

 タンムズの言葉からしてアリシアを殺すように指示を出したのは恐らく、ベビダだ。

 そして、悪魔や邪神と言うのはアリシアのような神格を嫌悪し、運命的に敵対する定めにある。

 故にアリシアに毒牙をかけた時点でベビダは邪神にほぼ間違いない。

 ただ、一体何を目的としているのか、までは分からない。


 邪神の基本行動として世界の魔力を高め“混沌と闘争の世界”を造ろうとしているのは間違いない。

 だが、そこに至るまでのプロセスは邪神によって違う。

 相手がどんな手段を用いて、どの程度の結果を得ようとしているのかによって取るべき戦術が変わって来る。

 それを見極める上でも情報収集は必須だった。




 ◇◇◇




 歩く事1時間



 

 森が丁度、目的地まで半分の距離を走破したところで獣が森を駆ける音がした。




「縄張りに入っちゃったか……」




 その辺は気を付けていたつもりだったが見落としていたらしい。

 目の前から体調3mくらいの狼が3匹現れた。

 アリシアは小さい……と思った。

 アリシアは生身で10m前後の狼と戦った経験があるので、どうしても3mくらいは小さいと感じてしまう。

 感覚が麻痺しているのは自覚しているが、3mなら大した事ではない。

 狼は唸り声を上げながら吠えたと思うとアリシアに一斉に飛び掛かった。

 アリシアは無言のままに右腰の刀の抜刀、一閃奔らせた。


 刹那、残像すら残さない剣速が狼の頭部を正中線から両断した。

 狼は脳を失い、絶命した。

 アリシアは事切れた狼の死骸を見つめながら考えた。




「狼の皮って売れるかな?」




 この世界で活動するに当たってやはり、金がいる。

 勿論、アリシアはこの世界の通貨など持っていない。

 なら、課金できる何かが必要になるのだが、この狼なら課金できるのではないか?と思った。

 どの程度の価格になるのか全く分からないが、地球でも動物の皮は重宝されていた。

 売れない事はないだろう。




「取り合えず、回収しようかな?」




 アリシアは”神時空術”と言う神術を行使して”空間収納”と言う技で狼の死体を亜空間に格納した。

 ”魂の空間収納”とは違い、セキュリティ性や安定性が劣る“空間収納”だが、魂の格納とは違い、プライベートな格納なのでオリジナルが勝手に持っていく心配がない。

 それに”魂の空間収納”の中には本当に貴重な物だけを入れておきたいので、気軽なアイテムBOXとして利便性はこちらの方が上だ。




「周囲に敵は……もういないね」




 辺りの様子を確認、再び、ワオの町に向けて歩き始めた。

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