第8話 ヒロインを助けたのは
「疲れた。73年生きてきて、一番疲れた」
とぼとぼと王都を歩きながら、サラはつぶやいた。
リーンとの邂逅が衝撃過ぎて、疲れがドッと押し寄せてきた。
武器商人と魔王を封じてきた一族の魔術師が旧知の仲なのは想像できたが、まさかこのタイミングでリーンと会うことになるとは思っていなかったのだ。
ゲームでは、主要キャラクターと出会うのはまだ3年は先のはずだった。
しかも最初に出会ったのが、一番苦手なエロフとは……。まさか、フラグたったりしてないよね? と、サラは本気でおびえている。リーンとの邂逅は、自分がゲームの中と異なる行動をとったせい、というのは予想がつく。
(まさか、ゲームの知識が使えないほどストーリーに影響が出てしまっているとか? どこまで許容されるだろう。魔女狩りルートとエロエロフルートを避けるにはこれから先、どうしたらいいの?)
そんなことを考えながら歩いていたせいか、サラはいつのまにか見知らぬ路地に入り込んでいた。
そのことに気づき、パタッ、と足を止めた。
「しまった……馬鹿なの? 私」
中身は老婆とはいえ、サラの外見は幼い美少女だ。
しかもバイト先から飛び出したせいで、桃色のフレアスカートに白いハイソックス、フリルが付いた白いブラウスという、可愛さ3割増しの制服を着たままだった。リュークはそれに加えて首元に飾るコサージュを準備してくれたのだが『それだと甘すぎる』と、サラはスカートと同じ色の生地で作ったネクタイを着用していた。本人曰く「甘辛ミックス」らしいが、何のことだかリュークには分からなかった。
それはさておき、今のサラは外見だけは完全無敵の良家のお嬢様に見える。
ましてや乙女ゲームのヒロインが一人で路地裏に迷い込むなど、なんたる失態か。
サラは自嘲した。
(これでは定番のフラグを立ててくれと言わんばかりじゃない。ほら、さっそく前方から柄の悪いチンピラが……よし。あいつのことはゲスオと呼ぼう)
二メートルはありそうな大男が、下衆な笑いを浮かべながら近づいてくる。
テンプレではこの後、攻略キャラと運命の出会いをするのがお決まりのはずだが、流石に期待だけに身を任せられるほど、サラの頭はお花畑ではなかった。
サラは顔の位置は変えないまま、さっと周囲を見渡した。
狭い路地だ。
いくら小柄とはいえ、ゲスオの横を通り抜けることは難しいだろう。だとすればUターンして走って逃げるのが最善であろうが、背後からゆっくりと何者かが近づく気配をサラは魔力で感じ取っていた。ゲスオの仲間であれば、挟み撃ちだ。
つくづく、自分の失態に嫌気がする。
サラはグッと拳を握りしめた。
「へへへ。お嬢ちゃん、迷子かい? お兄ちゃんが案内してやるぜ?」
「お兄ちゃんって年じゃないでしょ!」
そこか? と自分で突っ込みたくなるセリフを吐きながら、サラは右手に作った拳大の炎を、ゲスオの股間に叩き込んだ。
場所についてはわざとではない。
サラとゲスオの身長上、ちょうど拳を突き出した位置にソレがあっただけだ。
「ぐあああ!」
「いやああああああ!」
「何でお前がダメージ受けてるんだよ! このクソガキがっ……!」
涙目になりながらゲスオがサラを捕まえようと手を伸ばしたその時、予想外のことが起こった。
サラの後ろから、ゲスオが殴り飛ばされたのだ。
嫌な音がしたので、鼻の骨が折れたのかもしれない。
テンプレであれば、助けに入るのは攻略対象。
しかし。
「うちの娘に何をする」
現れたのは、パパ(お父様)だった。
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