『今日のゆめ』

やましん(テンパー)

『研修』

 いったい、今時になって、なんの研修やら。


 朝が来て、どうしたわけか、亡き両親さまも来ているときました。


 たくさんの、ひとたちか、観衆やらがいるみたいだな。


 広いお香の香りで満たされた場所にいる。


 で、朝っぱらから(いや、朝だからか)、朝御飯だという。


 なんだか、ほんとに、人がいっぱいいる。


 職場の同僚や、学生時代の仲間や、わけのわからないひとたちも。


 なんだか、昔の軍人さんの名残のような。


 こりゃ、言動にきをつけなれば。

 

 と、思っている間に、さっそく目をつけられたらしい。


 酒の肴には、古代漁みたいな、ごうかいなのがいる。


 なんだか、軍人さんの気に障ることを言ったらしい。


 さっそく、日本刀を持って、ご来席だ。


 『きさま、なにもの。』


 『いや、何者でもないです。まあまあ、どぞ、1杯。』


 『おう。』


 『ぼくの、父は、満州帰りなんですよ。』


 『おお、そうか。それは、英雄だ。で、きみは?』


 日本刀をぼくの背中から、うでにかけて、なでまわす。


 たいへんに、気持ちよくない。


 『いやあ、ぼくは、弱虫ですよ。』


 『そうか。』


 ますます、刀に力が入るが、そこで、声がかかったのか、その旧日本軍人らしきは、席に戻る。


 『では、がけを降りて集合だ。』


 なんだかわけわからないが、手に山盛りご飯を抱えたままお外に出ると、そこは、まったくはでな崖の連続帯である。


 降りるなんて無理だろう。


 しかし、先の豪傑さんは、もっとでっかい茶碗に山盛りのご飯を抱えて、崖を『ぬあんのこれしきが』とか言いながら、ざくざく降りて行く。

 

 仕方ないから、そのあとを、恐る恐る降りる。


 なんだろう、この、川原のような豪快な崖は。


 それでも、下に降りきると、皆がまたまた集合。


 『では、楽器分けします。ヴァイオリン弾けるひと。』


 ちらほらいる。


 『笛吹けるひと。』


 と、見れば、その係員らしきが、持ってる笛がただものではないぞ。


 しのぶえらしきものもある。

 

 見たことない笛がある。


 まあ、笛に違いはなかろう。



 フルートが、良いなあ。

 

 てをあげる。



 これが、いつものように、無視されるのだ。


 なかなか、ぼくには、廻ってこない。


 たしかに、リコーダーなら、若者たちは学校でやっている。


 しかも、連中は、アルトリコーダーだよな。


 ぼくらは、ソプラノリコーダー専門だ。


 指使いがかなり違う。


 まあ、おとはだせるぜ。


 いや、音だけなら、大抵誰でも出せるな。


 で、やっと廻ってきたのは、見たこともないがっきである。

 

 四角い箱に、ちゅるちゅると、ストローよりも細いりーどか、あるいは、吹き口がついているが………


 なんとこれは、リード楽器ではない。


 つまり、尺八か、フルートのうた口みたいなものらしい。


 見たことないへんてこりんだ。


 しかも、四角い箱の裏側には、これまた、ついぞ、お目にかかったことがない、わけのわからないキーがやまと並んでいる。


 『なんだこりゃあ。』


 しかし、フルートの要領で吹いてみたら、音はなんと、出るではないか。


 けっこうですな。


 フンメルさんの、トランペット協奏曲の第3楽章のさわりさを、やってみる。


 だいぶ、音程がおかしいが、まあ、吹けなくはない。


 しかし、これは、いったい、なんのあつまりだ?


 両親がいるが、二人とも亡くなったはず。


 時代に合わないひとたちもたくさんいる。


 『では、魂が満たされない幽霊諸君の鎮魂を、始めます。自ら、苦しみを乗り越え、自らを、鎮魂しましょう。』


 なんだあ。


 楽器を持たない人たちからは、御詠歌やら、讃美歌やら、が歌われ出した。


 いやあ、ぼくは、まだ、生きてるつもりだったが。


 たしかに、夕べは、なんだか、やたら、疲れていた。


 どうやら、間違って、異世界に紛れ込んだのだろうか。


 いや、両親の策略であったのか。



 しかし、まだ、帰れるものだろうか。


 と、思えば、この河原のような場所の向こうに見える小さな窓から、ぼくの自室の淡いLED蛍光灯が見えている。  


やた、まだ、運は残っているらしい。


ぼくは、窓に向かってひたすら走った。  



 やっこらせ。


 と、窓から入ると、まごうことなき、ぼくの部屋。  


 すいへーりーべぼくのへやだ。


 両親の声が耳許でする。


 『なんで、連れてけなかった………』


 違うかもしれないが、なんとなあくそんな感じかい。


 はっと、起き上がると、両親はいなくなっている。


 やれやれ。


 そうだよな。

  

 夢なんだろう。


 ほんと、そうなのだろうか。


 あの、不可思議な楽器が、ぼくの手にある。


 あ。また、地震かな。


 思うに、最近になって、あちら側とこちら側の境目が、かなり、あやふやになってきているようなのだ。


 だから、天災も、たくさん発生する。


 またく、非科学的であるが。


 ここを踏み越えるのは、必ずしも難しいとは限らないと言う訳なのだ。










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『今日のゆめ』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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