第20話 堕ちた天使たち
「なん、だって?」
「国王陛下が崩御なさいました。エデターエルへご帰還ください」
エデターエル本国からの使者が転移陣で飛んできて何事かと思えば、お祖父様が?確かに高齢ではあったけど、病気なんて話は聞かなかった、けど、私だけが知らされてなかったなんてことはすごくありそう。
使者からのよよよ……という泣きに私以外の天使たちは感化されたらしくこの世の終わりかのように泣いている。
帰還する準備をするようエデターエル寮生に言い渡すと、簡単に内容を書き記した手紙鳥をマリアンに飛ばす。これからアルミエル先生に連絡と、事務で手続きをしないと。学院内でエデターエル最上位というのも色々めんどくさい。
「光の女神バルドゥエルよ、我が祈りに応え、未来ある翼に祝福を与えたまえ」
「ありがとうございます。アルミエル先生」
「ソフィアに光の女神のお導きがあることを……。この先なにがあっても覚えておいてください。あなたは祝福されています」
「不穏なこと言わないでくださいよ、先生」
「あのチビ小僧が先に逝くとは思わなくての、少し感傷的になってしまった」
アルミエル先生を迎えに行くと、今まで見たことないほど優しい表情をした先生から祝福を貰った。
普通は結婚式で親が子に贈る祝福だ。先生からの祝福は、温かくて柔らかい黄色の優しい光で、今後の幸せを願う祈りだった。
寂しそうに笑いながらアルミエル先生が言うチビ小僧はもしかしなくてもお祖父様のことだろうか。あの高齢の天使をチビ小僧と言えるアルミエル先生はやはり生きる歴史書だ。
「先生にはまだまだ長生きしてもらわないと。教えてもらいたいことがたくさんあります」
「聞きたいことはなんでも聞いてきなさい」
「ただ、今は本国に戻らないとですね」
「そうじゃな、ただ、その前にソフィア」
「なんでしょう?」
「その手をお離しになってはなりませんぞ」
その手と言われたのはちょうどマリアンから戻ってきた手紙鳥だった。もしかしたらアルミエル先生はラファエル兄様の考えを察していらっしゃるのかもしれない。
「追跡もされているので、バッチリですよ!」
「ふっ、あの小僧もすまし顔でやりおるな」
普段は制服で隠れているマリアンの魔法跡を見せたら大笑いしてくれた。吸血鬼の
「それでは先生、また!」
まだ楽しげに笑う先生の部屋を窓から飛び出すと、事務室まで飛んでショートカットした。
マリアンからの返事は手短で「学院にて待つ。非常時はイヤリングを壊せ、可能なら転移して戻れ」とだけ記されていた。急いだ様子が文字からも文面からも伝わってくる。その手紙をそっとポケットにしまい、手続きに文字通り飛び回った。
そのまま、よよよ……と泣き続ける気色悪い集団、もとい、エデターエル寮生を連れて帰国すると、使者と共に先に帰国していたイェルミエル様が喪を示す白い式服に身を包んで出迎えてくれた。
「うわ」
イェルミエル様に案内された宮の前の大広場には、こんなに天使居たのかというぐらいたくさんの天使が並んでいた。確かにお祖父様の在位期間は長かった。
お祖父様の人柄とかは全然知らないけど。まあ「戦を起こさず在位期間を務めた温厚な人柄」というのは国外からは聞こえはいい。だけどそもそも天使が戦をできるはずもないから当然過ぎる評価に苦笑いしそうだ。
そして、みな一様にわざとらしいぐらいによよよ……と泣いている。嘘泣きか、とツッコミを入れたいが、泣いていないのが私だけの現状で余計なことは言うまい。
「さすがは軍神リッカエルの御加護を得たソフィア様です。闇の眷属ピオスエラに魅入られないとは」
いつも通りに悪態がつける分、アリエルはやっぱり他の天使よりは能力が低いのだろう。それに本人も気がついているんだかどうだか。
お祖父様の棺がある花のアーチに傍にラファエル兄様が立つ。あの位置に立つのは次期国王、やはり、父上を飛ばしてラファエル兄様が戴冠するらしい。見える範囲にいる天使が一斉に膝をついて、次の国王陛下の話を待つ。
「闇の神より、祝福を」
静まり返った会場に響いたラファエル兄様から告げられた言葉を、私は理解できなかった。
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