第3話 堕天使は悪魔に興味を持つ

ようやく!ようやく!先輩天使たちに連れられて、各国から学生が集まる七斗学院へやってきた!


くぅ!と感慨を噛み締めながら周りを見渡して、前知識と違いないことを確認する。


今、この学院に通うのは4カ国の学生だ。

純人間の国レイド王国、魔族の国フェーゲ王国、人間と魔族の混血児たちが興したノイトラール共和国、そしてわが祖国である天使の国エデターエル王国だ。


国交があるのはフェーゲだけだから新しいことが楽しみで仕方ない。

特に新興国家ノイトラールはエデターエルとは交流がないから全然情報がない。


唯一国交のあるフェーゲは悪魔の国とも言われている。天使の国エデターエルと反対で仲悪そうと思われがちだけど、フェーゲとエデターエルは交流が多い。というのも、天使の魅力が最も効く相手だから。

人間と比べ物にならないほど魔族は個体が強い。例外はあるけど基本は相手が強いほど天使の魅了にかかりやすくなるから、フェーゲの魔族は天使の魅了によくかかる。



「時の神クィリスィエルの気まぐれに感謝いたします」



そう挨拶をくれた魔族を見て、天使と悪魔が仲良しな理由に納得する。


天使としてはポンコツでも、魔力量だけは多かった私でも上限を知るのがギリギリなほど魔力が多い。これはラファエル兄様のような天使からしたら格好の庇護者だ。

それに、魔族は天使同様に長命なのもあって、所作が優美で、一緒にいて天使が倒れたりはしないだろう。


ま、向こうは気を使ってそうだけど。


私の位が一番高いからか、さっと他の天使たちが私を前に出してくれる。



「ふふふ、時の神クィリスィエルの気まぐれで邂逅できるのは、幸運の女神バルドゥエルの御加護のようです」



私が手を差し出せば当然のように柔らかく受け取って甲にキスをくれる。卒の無さすぎる彼が上目遣いが、天使顔負けの魅了を含んでいる。


恐ろしいおひとだ。


こんな人が近くにいたら天使の唯一の武器が使えなくて困るだろうなぁ。対抗できるのはラファエル兄様ぐらいしか思いつかない。

レリエルも優秀な天使と聞くけど多分無理。私がどっちに膝をつきたいかと聞かれたらこっちを選びたいぐらいだもの。



「幸運の女神バルドゥエルの微笑みをいただけますでしょうか。私はフェーゲ王国第一王子ペトロネアと申します」

「幸運の女神は祝福を与えるでしょう。エデターエル王国の第七王女ソフィアと申します」

「今後も、時の神クィリスィエルのお導きがありますようお祈りいたします」



私の名前が天使を示す名前ではないことに微塵も反応を示さなかった。

エデターエルにとってはフェーゲは大事な友好国でも、向こうにとってはそうではないということか。それとも、既に情報を手に入れていたか。


あぁ、この人なら上っ面貼り付けるぐらいなんてことなさそう。他の天使と違って私はわからないからやり取りは無理だなあ。


他の天使からしたらフェーゲへの移動はかなりアリだろう。特に今の待遇に不満があるほど、とはいえこのペトロネア殿下を天使特性で誑かすのは無理、となると、後ろの側近が狙われてるかなぁ。

ペトロネア殿下の恐らく一番の側近が、こちらを流し目で確認している。正面から見ないように気をつけているみたいだ。


なんでそんなに警戒しているかなぁ。仮に天使に魅了されたところで、君たちの殿下ならそれを上塗りする魅了を放てると思うけど。


まあ、期待されたらみんなやるよね。


ラファエル兄様を意識した柔らかくて儚そうな微笑みを浮かべて、国を表す緑のマントをゆるく靡かせて歩き始める。

結果が見えなくて残念だけど、さっきからもっと気になってる子が居るんだよね。



「我が同胞!と思ったら人違いかなぁ?」



黒いフェーゲのマントをまといながら、軍神リッカエルの守護が全くないと傍から見てわかるほど戦う力のない少年を捕獲した。

天使と同じ色合いと、薄らと見える白い羽が同胞かと思ったけど、彼は精霊の方かなぁ。混血の天使かと思ったらちょっと違いそう。



「え、えーと、精霊系シタン一族のペリです」

「なるほど!同胞ではないけど、かなり近しいね!会えて嬉しいよ!私はエデターエルのソフィア・ヘルビム!」



私に対してまで怯えるような雰囲気に、私より弱い相手だと理解した。それなら、直截な表現の方が会話しやすいだろう。



「ソフィア様とお近付きになれて光栄です」

「私も光栄だよ!ペリ君、ただ精霊にしては性質が私たちに近いね、フェーゲで苦しくない?なんなら……」



是非とも私が王宮から追い出されるときに封じられる森に一緒に来てくれないだろうか?と思って話していたらペリ・シタン以外の別の黒いマントの裾が翻った。



「ごきげんよう、ソフィア様。時の神クィリスエルのお導きにより邂逅がなされました。変わらず光の神バルドゥエルの御加護がお厚いようですね」



先ほどまでペトロネア殿下の側に侍っていたはずの魔族が彼を守るようにやってきた。

天使から守られるなんて、ペリ・シタンは中々マニアックな経験をしている。そう思うと、私が天使らしくないのも面白くて良い。


楽しい気分そのままにクスクスと笑いながら、魔族の彼を見やる。



「ごきげんよう。時の神クィリスィエルのお導きに感謝いたします」

「フェーゲ王国ベリアル家、一家一男のマリアンと申します」



おおっと、やっぱり大物だ。


フェーゲ王国での悪魔系の最大派閥ベリアル家の嫡男か。それであの第一王子の側近なら、なるほど、是非とも仲良くなっておきたい。



「風と守護の神シナッツエルの思し召しでしょう。ソフィア・ヘルビムと申します」



さて、さっきと違って私の正面に立って、1対1で会話するのに目は逸らせまい。


マリアン・ベリアルの天使とは違う深い碧色の瞳が私を写して瞬くが、感情は伺えない。本当に、あの殿下といい、この側近といいフェーゲは噂に違わず優秀だなぁ。

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