第2話 天使たちの集い

天使の国、エデターエルの姫として生まれたからには避けられないイベントがやってきた。


恵の集い、まあ、気取ってそんな言い方をしても要はお茶会だ。食べ物は木の実に限るってだけのね。

どうしてケーキやクッキーがダメなのかが意味不明だけど、強制的にエデターエルの特産品を消費するためだと私は思っている。



「ごきげんよう、ソフィア様」

「時の神クィリスィエルのお導きにより、邂逅がなされました」



神々の名前や比喩をふんだんに使った挨拶を笑顔で交わす。

私からしたら「やあ!今日も元気そうだね!会えて嬉しいよ!」で十分だと思うけど、天使という種族は色々と面倒だ。


神様に最も近い存在という地位と見栄えを保つために、こうして神様の名前を拝借したり、誰々の微笑みを垣間見たとか言って回りくどいことを言わないといけない。

どこから神様を垣間見てるんだよ、堂々と前から見れば良いじゃんとか無粋なことを言うのはご法度だ。


そして、天使はそれじゃない直截な表現を使われると品がないと眉をひそめるだけではなくて、あまりに直截過ぎると倒れるとかいう迷惑仕様だ。

ちなみに私は倒れたことは無い。姉様連中はよくあるらしいけど、姉様の名前を覚えていないレベルには関わりがないから見たことも無い。



「ソフィア様は軍神リッカエルの守護を得ているかのようですわね」

「国を支える姫としては光栄です」



だから天使にとって、戦いの神リッカエルは良い表現として使われない。まるで同胞ではないようだと突きつけているつもりなのだろう。

本当の意味で心根が綺麗でないのに表面だけ取り繕ってなにが天使なんだか。思わず鼻で笑いそうになり、堪える。


あと少しで、天使以外の人たちと過ごせる学院へ行ける。それだけが今の私が喚かない理由だった。



「ソフィア様、時の神の御加護をお祈りしてもよろしいでしょうか」



私にまた会いたいというなんて、変わった天使だ。


そう思って振り返ると、ラファエル兄様の婚約者とその妹がいた。確かレリエルとアリエルだ。

母方の親戚だったような気がする。記憶が曖昧なのは仕方ない。父も母も、天使らしくない私に興味無いのだから、私も父母の細かいことを知る術がない。


それに、渋々挨拶をしてきているのは、私に天使の能力がなくたってわかる。

特にアリエルは天使として致命的なほど侮蔑の表情がでている。この子も天使としての能力が低いんだろうなぁと余計なお世話を焼いてしまう。



「欲望の神ジラーニエルに惑わされることがなければ、時の神クィリスィエルも気まぐれを起こすこともありましょう」

「時の神クィリスィエルの御加護を賜らんことを」

「風と守護の神、シナッツエルが微笑まれることをお祈りいたします」



とても直截に言えば、「私はあなたたちが会いたいと思えば会うことができるよ」「では、会うことができますね」「次に会うときまでお元気で」と言ったところだろうか。


ほら、こんなにわかりやすくなった。折角言葉は進化しているのに、使う天使が進化してないからね。



「それでは」



立ち去る2人をにこやかに送り出す。レリエルは妹のアリエルが一緒に学院へ入学するから庇護をよろしくと言いたかったんだろう。

そのための挨拶と顔合わせだろうけど、アリエルがあれだけ私を嫌っていては庇護も難しい。


でも、今年入学する天使の名簿を見上げれば、エデターエルからの同輩は残念ながらアリエルだけだ。ラファエル兄様とレリエルは当の昔に卒業しているから学院へは来ない。

確か20歳ちょっと離れていたはずだから、仕方ない。



「我らが同胞の新たなる門出を祝福する」



もう何歳なのかすら知らない祖父が私とアリエルを祝福する。直答さえしたことのない私に愛する孫娘だとか、祖父から心のないお祝いだ。


表面だけはにこやかに祖父を眺める。


天使は神に近い証として長命と聞くが、感動したり、驚いたり、怒ったり、笑ったりしないで、ただ相手の気持ちを映すだけの私たちがそんなに長生きしたところで一体何になるんだろう。

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