出来損ないの末姫は冷徹と知られる王子側近に溺愛される
藤原遊人
第1話 天使は名前を剥奪される
天使は神に仕える最も神に近い存在。
だから、神に仕える者〇〇エルという名を与えられる。理由は知らないが神様的に呼びやすいらしい。
ヨチヨチして、まだ飛べもしない天使だって言い聞かせられる天使関連では一番有名なお話だ。
だから、まさか天使の国の王女、つまり物語とかで言えば、
「お前は今日からソフィアだ」
「……かしこまりました、父上」
内心荒れ狂う感情を押し殺して、困ったわと言うようにおっとりと微笑む。微笑む前に皮肉げに笑っちゃっていたのはご愛嬌だ。
そう、それが天使としてあるべき姿。
悲しげにしながら、他の天使たちの視線を受けて……同情と労りに満ちた眼差しがウザイ。
与えられた部屋に戻るなり、壁に拳を叩きつけた。とはいえ、私の種族は天使。戦いに全く向いていないと言われるだけあって、指だけでなく、腕の骨まで折れた。
「さいあく、嘘でしょう?」
この身体は一体どれだけ不便にできているのか。溜息をつきながら、左手で癒しの魔法を使って一瞬で治す。
まあ、こんなことをしているから、天使名を剥奪されたんだけど。
「はあ、やってられるか!」
そう言ってベッドに飛び込む。
大きな声をこうやって出すのも、目の前にいる相手の気持ちを読み取れないのも、気分が荒れやすいのも、私が天使として才能がないから。
イライラしながらため息をつくが、どうにもならない。既に私の天使名は剥奪されたあとなのだから。
「ソフィア」
「ラファエル兄様!」
「血の臭いが……」
「あ、兄様、ごめんなさい」
数いる兄妹の中で唯一私と会話をしてくれるラファエル兄様はこうして私の部屋に遊びに来る。
そして、私が気分が荒れて怪我をすると、血の臭いで貧血を起こしたりする。
ラファエル兄様は天使らしい天使で、とても繊細で儚い存在、そして、とても優秀な王子でもある。
「私の大切な妹」
「ご迷惑をおかけし、申し訳ございません」
「どうして、そんな他人行儀に謝るのかな?私は新しい名前も嫌いではないよ。ソフィア、あなたの名前だから」
こうして「ふふふ」とラファエル兄様が笑うなら、ソフィアという名前も悪くない気がしてくる。
「私はソフィアに幸せになって欲しい」
「ラファエル兄様……」
幼い頃から私をこうやって抱きしめてくれるのはラファエル兄様だけだった。
私と意思疎通が難しいと母が赤子だった私を遠ざけたためにラファエル兄様が私の面倒を見てくれた。
神の身の回りの世話をしていた天使という種族は言葉を交わさなくてもお互いの感情を読み合うし、相手の望むことを叶えようとする。
それが種族特性で、そしてその中でも王族という最も血が濃い天使として生まれたくせに私はその能力がない。
「この国では、ソフィアには小さ過ぎるのかもしれないね」
「ラファエル兄様?」
「七斗学院に行ったら、広い世界が見えるようになるよ。それにソフィアの好きな本もたくさんあるから」
その言葉の続きは言われなくてもわかった。
ラファエル兄様は私と違って優秀だ、だから私がこれからやろうとしていたことはみんなお見通しだ。
王女の身分を剥奪されたら、どこかへ飛び立っていこうと思ってまとめていた荷物を大人しくそれぞれの場所へ戻す。
まあ、公務に穴が空くのと対外的に見栄えが良くないという理由から、天使の名前を剥奪したくせに王女の身分は剥奪されなかった。針のむしろかよ。
「ソフィアにとって良い出会いがあることを、私は心から祈っているよ」
「ありがとうございます。ラファエル兄様」
私の治したばかりの手を握ってラファエル兄様は優しく微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます