第13話 夏のはじまり
夏がやってきた。
梅雨の
陽炎が立ち、逃げ水が逃げ、期末テストも終わった。
何が言いたいかというと、もうすぐ夏休みってことだ。
クラスの奴らはすでに浮かれて、夏休みに遊ぶ相談を始めている。
その前に林間学校があるんだが、それを忘れているのだろうか。
話を戻そう。
俺は……どうしようか。
実は、真夏のキャンプはあまり好きではない。
焚き火をすれば暑いし、熱帯夜なんて寝苦しい。
それに、夏の山には虫が多い。野生動物に出遭う確率も高くなる。
ということで夏休みはクーラーの効いた部屋で読書をしたいのだが──
「夏だよ、キャンプの季節だよ!」
──どうやら今年の夏は、思い通りにいかないらしい。
放課後、呼び出された喫茶店には
このところ毎週のようにデイキャンプをする四人が、膝を突き合わせている。
「でだ、どうするよ」
「どうするって、何が」
話の口火を切ったのは、召集をかけた
言い出しっぺのくせに何も考えナシなのは、この際突っ込まないことにする。
なぜなら。
「──いてっ! 何すんだよ、すず
「まず自分の案を出しなさい。それが礼儀」
こうなることを知っているから。
しかし、これで付き合ってないなんて、誰も信じないよな。
しかし既に
二人の話を聞けば聞くほどお似合いだと思うのだが、小さい頃から一緒だから別に今さら……と
「わぁったよ。ったく、殴るこたぁねぇだろうに」
「リョウジが抜けているのが悪い」
叩かれた頭をさすりながら痛がる
「でだ、何度かデイキャンプもやったし……海に行かねぇか?」
「海?」
「そうだ。泊まりで海キャンプだ」
ほほう。
それは面白そうだ。
山でしかキャンプしたことのない俺にとってはかなり、いやものすごく魅力的な提案だ。
「ま、まあアレだ。たまには海の幸ってのもいいだろ?」
「海の幸、かぁ」
ほわんと宙を見つめる
こいつの頭の中では、エビカニサザエが浜焼きにでもされているのだろう。
しかし、海といえば。
「よかったな
「も、もうっ、その話はナイショで……」
初めて会った時のこいつ、まだ寒い山の中でサンシェードで一夜を明かすつもりだったんだよな。
「おお、準備万端じゃんかよ」
「ぐ、偶然の産物といいますか、若気の至りと申しますか……」
能天気な
「
何かを悟った大門先輩のフォローが優しい。
「ガク」
「あん?」
余談だが、
うん、本当に余談だった。
「夏の伊豆はいいぞ、なんたって水着姿の可愛い女の子たちがわんさか……いでっ!」
あーうん。
今のは
とまあ、そんなこんなで夏休みの海キャンプが決定したのだが。
一人浮かない顔をしている奴がいる。
「でも、海かぁ……」
「なにか不安な要素があるなら、事前に潰せばいい。だろ?」
「そうだけど……」
いつもと違って、言い澱んだり口籠ったり。
そんなに雪峰には不安なことがあるのか。
「海って……泳いだりするの、かな」
「おう、当然だ。泳いだり潜ったりするぞー」
またしても
「なんだ雪峰、泳げないのか? 浮き輪使ってもいいんだぞー」
「そういうことじゃ、ないんだけどな……」
やはり、海キャンプの話が出てから明らかに雪峰の様子がおかしい。
その様子を察した大門先輩が、
そして、男子二人が取り残された訳だが。
「おい、ガク」
「あん?」
氷の溶けたアイスコーヒーのストローを咥えながら生返事をする。
「お前、まだ
思わず噴き出しそうになった。いや、ストローの先から泡がぶくぶく出てしまった。
「うわ、汚ねぇな」
「お前が突拍子もないこと言うからだろ。つかそれはこっちのセリフだ」
「オレは汚くねぇ」
「そこじゃない」
もう溜息しか出てこない。
「つか夏休みの話はいいけど、ちょっと気が早くないか?」
「あん?」
「その前に林間学校があるだろ」
「……林間学校かぁ、あんま興味ねぇな」
アウトドア好きで、焚き火台や鉄板まで作り出す
そんな奴が林間学校に興味が無い、のか。
多少の違和感を覚えつつも、そのすぐ後に
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