第11話 おもてなしデイキャン
週末、俺──
今日の設営は、日除け代わりにじいちゃんに借りたタープを一枚張っただけ。
そのタープの下で、俺は焚き火を、
調理するだけならば、ガスバーナーの方が圧倒的に火力調整が楽だ。
「師匠ばっかりズルいよ〜」
文句タラタラな
本当、単純な弟子で助かる。
あとヨダレは拭く方が良いと思うな、絵面的に。
「よぉー、来たぜ」
軽く手を振って挨拶してくる
こいつ、どんだけ声が通るんだ。
「よぉ、お待たせ」
相変わらず距離感の無いデカい声だ。
その
「……こんにちは」
こちらは
身長はたぶん一五〇センチあるかないか。
おかっぱ黒髪ストレートで、前髪ぱっつん。
大きなリュックを背負い、その幼い顔立ちは美少女というよりも美幼女と呼びたくなる。
「悪いな、どうしても着いて来るって聞かなくてよ」
「いや、構わないさ。妹さんか?」
言った途端、小さな身体がジャンプして、俺の頭を
「先輩に向かって、失礼」
膨れっ面の美幼女は、平らな胸の前で腕組みをして俺を睨んでいる。
「えっ、特進クラスの……
ただでさえ大きな目を丸くして、
「え、誰?」
「知らないの師匠!?」
「あいにく世間に疎くてな」
「
才色兼備、質実剛健、猛攻号令。
四文字熟語を並べ立てる
「ね、とにかくすごい人なの!」
ほえー、そうなのか。
「二年の
噂……か。
どこまで本当なんだろうな。
「大丈夫、私は答え合わせまでしっかりやるから」
つまり、噂のみで判断はしない、ということか。
かく言う俺も、最初は噂と実物のギャップに悩んだっけ。
眉目秀麗で良くも悪くも目立つ存在で、社長令嬢。
やっかみもあるだろうが……まあ、そんな事はどうでもいい。
「とりあえず今日は、鉄板のお礼に来てもらったんだが」
「ああ、肉を焼くんだってな」
仁王立ちで快活に喋る
その手際は、決して初心者では無い。
「……どうした?」
「いや、椅子の展開がスムーズだな、と」
「……ふふふ」
「ほぇー、
「……んふふふふ」
上機嫌で笑う
「おいおい、すず
「焚き火にしか興味の無いリョウジには、一生気づかないことね」
「残念だな。焚き火で焼いた肉にも興味津々だ」
すず
なるほど。
「焚き火はな、男のロマンなんだよ」
「そのロマン以外、ぜんぶわたしがやってる事実を知るといい」
「分かってるって、すず
「なら、たまには態度で示したら良いと思う」
なんだか、お似合いの二人だな。
「そ、そんなことよりも、いい焚き火だな、おい」
火勢の上がる焚き火を、中腰になって
「当然だ、じいちゃんにみっちり仕込まれたからな」
「いいねぇ。完全に火を支配してる焚き火だ」
滅多に聞けない褒め言葉に、
ソロキャンプは、公序良俗や法律に反しなければ誰にも怒られることはない。
その代わり、誰かに褒められることも滅多にない。
「まったく、この焚き火バカは……」
しかし、この二人のように互いを補いながらのキャンプも楽しいのかもしれない。
「さて
「ラジャー、ではこちらも用意始めまーす」
それに頷いて、俺は肉を取り出した。
「美味え!」
ステーキにかぶりついて叫ぶのは、
「やはりお肉は美味しい」
大門先輩も、うんうんと頷きながら小さな口いっぱいに肉を頬張っている。
それを叩いて筋切りをして、牛脂を引いた鉄板でミディアムに焼いていく。
味付けは、塩胡椒のみ。
鉄板の性能と、火加減だけが頼りのステーキだ。
「さあ、ポトフができましたよー」
今回、
ステーキだけでは寂しいし、まだ
「お、いいねぇ。ちょうど
ポトフを取り分けたシェラカップを受け取った
「リョウジ、もっとよく噛んで、味わって食べなさい」
こちらは上品にスプーンでポトフを食す
「ん、美味しい。いい嫁になれる」
「そ、そうですかね〜えへへ」
さて、ポトフでしっかり結果を出した
「ほれ、お前も食べろ」
「ほえ?」
切り分けたステーキをてんこ盛りにしたステンレス皿を
「あとは俺がやるから、
「で、でも」
「俺はつまみ食いしながら焼いてるから、大丈夫」
少し俯いて、申し訳無さそうに皿を受け取った
さてさて。
この隙に、俺はデザートの準備に取り掛かろう。
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