第10話 閑話 雪峰明里

 


 私は、ずっと憧れていた。

 病床で見つけた、あの動画に。


 中学生の時、私は軽いイジメを受けていた。

 原因は、私の髪の色。

 アメリカ人の祖父の血が入った私の髪は、明るい栗色だった。

 地毛がこの色だから校則違反ではないけれど、周りから不良に見られた。

 そのせいで、私はクラスで孤立していた。


 そして、そんな私が入院。

 病気自体は大したことなくて、でも一ヶ月の入院が必要と言われた。

 入院している間、お見舞いに来てくれたのは担任の先生だけ。

 クラスの寄せ書きを持ってきてくれたけど、どれも上辺の言葉に見えた。


 私は、孤独だった。


 そんな時、動画サイトでとある動画を見つけた。


 内容は、夜のキャンプだ。

 動画の中では、短い棒とナイフだけで火をつけていた。

 火が大きくなって赤々と燃え始めると、そこだけが別世界に見えた。


 私は、毎晩その動画を見た。

 この中には、孤独を楽しんでいる人がいる。

 そう思っただけで、私の世界は少しだけ憂鬱ではなくなった。


 退院して、しばらくは動画のことは忘れていたけれど、入院前の自分よりも強くいられた。



 高校生になり、私は明るくなった。

 友達も出来て、カラオケやカフェ、いろんな場所に遊びに行った。

 男子に呼び出されて告白される、なんていう経験も何度かした。

 けれど、次第に私の噂が耳に入るようになった。


「あいつはビッチだ」

「髪を派手に染めて毎晩遊んでいる」

「男を取っ替え引っ替えしてる」


 噂を流したのは、一緒に遊んでいた友達だった。

 私は、もう誰も信じられなくなった。


 独りに戻った私は──

 あの動画を、二年ぶりに見た。


 優しい世界だった。

 山があり、星が光り、焚き火が燃え盛る。

 そこには私を傷つける存在は、なにひとつ無かった。


 親の目を盗んで、近所のホームセンターでテントを買った。

 一番安い、ポップアップテントという物だった。

 次に、安い寝袋を買った。

 そうして一つずつ道具を買っていき、とうとうチャンスがやってきた。


 両親が出張で不在の日。

 私は動画の中のキャンプ場に行き、初めてのソロキャンプに挑戦した。


 結果は、散々だった。

 私のテントは夏のビーチ用で、寝袋は夏用だった。

 おまけに、絶対やり遂げたかったファイアースターターでの焚き火も、まったく火がつかなかった。


 でも、嬉しいこともあった。

 離れた場所で一人でキャンプしていた少年。

 その少年に、助けてもらった。

 ぶっきらぼうでちょっと口が悪いけれど、優しい少年だった。

 そして翌朝、気がついた。


 少年が使っていた焚き火台は、動画に映っていたのと同じだ。


 別人かもしれない。

 こんなに都合良く会えるなんて、思ってはいない。


 けれど、運命的な何かを感じた。

 感じて、しまった。


 ねえ、鹿角かづのくん。

 今まで面識の無かった、一言も話した事のない私が、


 あなたの弟子になるのは


 迷惑、ですか?

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