第5話 装備を見にいこう
「一万円……くらいかなぁ」
この答えに、当然俺は違和感を覚えた。
そして、答えることを少し
つまりそれは──
「──分かった、一万円だな」
「う、うん。足りない、よね……」
「確かに足りない。だが、それは全てをまともに揃えた場合だ」
顔を上げた
つかなんだよ、いちいち可愛いな。
まあ俺には効果は無いけど。
俺は、白紙のルーズリーフを一枚取り出して、シャーペンを走らせる。
何も言わずにそれを見つめる
「よし、こんなもんだろう」
ルーズリーフに書いたのは、これからの季節で必要になる最低限の装備のリストだ。
「えっと、テント、グラウンドシート、寝袋、ランタンって……えっ、これだけ?」
「そう、これだけ。これだけあれば、野外で宿泊できる」
「え、でも焚き火とか」
まあ待て。これから説明するから。
「まずこれが、お前のキャンプ装備の核だ。そこに、自分のスタイルに応じて装備を増やしていく」
焚き火をしたいなら、焚き火台や火消し壺、ナイフ。
調理をしたいなら、野外用の鍋やフライパンなどのクッカー。
夜に読書をしたいならより明るいランタンが必要になるだろう。
「つまり、
その瞬間、
「やりたいことは、いっぱいあるよー。ちゃんと焚き火したいし、焚き火を使った料理もしたい。あとね〜」
指を折りながら、
やりたいことをやってみて、それを積み重ねて、俺は今のキャンプスタイルにたどり着いた。
そんな
「師匠もそんな顔するんだね〜」
「え」
「なんかね、夢見る少年って感じ」
そう微笑む
「お、俺のことはいい。今は
「なぁに、師匠」
ニヤニヤしながら
ああ、もう。
「その師匠っての、やめてくれ」
「どうして? 師匠は師匠だよ」
「俺だって、キャンプ歴五年くらいしか無いんだよ」
その前はカブスカウトに一年だけいたが……まあそれはいい。
「だから、師匠なんて呼ばれるほどの達人じゃないんだよ」
「じゃあ、学校では苗字にして、キャンプの時だけ師匠って呼ぶよ」
まあ、それなら妥協案としては納得できる、かな。
「じゃあ師匠、話の続きを」
「ちょっと待て、今はキャンプじゃないだろ」
「キャンプの話だもん」
それ世間では屁理屈っていうやつだぞ。
だが、あまりにも満面の笑みで俺を見る
「ね、師匠。キャンプに一番大事なことって、なぁに?」
「そんなん決まってる。つか、大前提だな」
「え?」
キャンプに一番大事なこと。
それは。
「無理をしないで安全に楽しむこと」
「えー、そんなの当たり前のことじゃん」
だが、その当たり前がなかなか難しいのだ。
「
「……あ」
初キャンプの夜、
そして下調べや装備の不足で、寒さに凍えそうになった。
「ま、そういうことだ」
「肝に銘じます……師匠」
キャンプとは、不便や手間を楽しむレジャーだと思っている。
そして、どのくらいの不便や手間を楽しめるかは、人それぞれ違うのだ。
自分のスタイルを作るっていうのは、楽しめる限度を知ること。
その限度も、その時々によって変わる。
昔、ファイヤースターターで火を起こしていた俺は、今ではターボライターで着火している。
しかしまたファイヤースターターを使う時もあるだろう。
──少し、語り過ぎたかな。
もしかしたら、俺は嬉しいのかもしれない。
同年代の人とキャンプの話をするなんて、何年ぶりだろう。
けれど、うちの高校の制服を着た女子の集団が店内に入ってくるのを見て、我に返る。
やはりこの店は、俺には場違い過ぎる。
早々に退去すべく、俺は立ち上がりながら
「とりあえず、見に行くか」
「えっ、えっ?」
そのまま店を出た俺は、しばし黙考する。
やっぱりまずは、基本装備だな。
「ホームセンター行くぞ」
「うん、よろしくね」
なぜか楽しげにクルリと回った
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