08 ENDmarker.
定められた道。横に逸れることもできず、ただ前にしか進めない。
それを疑問に思ったことは、あまりなかった。他の何かを、知らなかったから。あなたに出会うまでは。
「はい。分かりました。明日までに。はい」
電話を切って、ソファに倒れ込む。少し眠って。そして起きる。スケッチブックをひとつ持ってきて、ぼうっとしながら、何かを描いていく。おなかがすいてくる頃には、何かが、描き上がっている。彼の画だった。
電話をかけて。
「はい。これから取りかかります」
スケッチブックを机の中に突っ込んで、よくわからないものが書かれた画面と格闘する。彼の仕事を、引き継いだ。
文字は読めない。画面の内容は、推測でなんとかするしかなかった。彼の紅さだけが、思い出される。
仕事を全て終わらせて、外に出る。数日ぶりの外だけど。わたしにとって、あまり意味はなかった。彼がいない。それだけで、もう何も、色がなくなってしまったみたいになる。
ドラマや漫画なら。彼が死んだとき、わたしが文字を読めるようになって。わたしは、彼のことを想いながら、ひとりで生きていく。たぶん、そんな感じ。そんなかんじだけど。そんなことは起こらなくて。わたしはここでひとり、文字が読めなくて難渋してる。
扉を。
閉める前に、彼が初めてここに来たときのことを。その場所を。思い出す。
遠くで、なんかうるさい声とぱかぱかという音も聴こえていたっけ。
初めて会った彼を好きになって。そして。扉を閉めた。
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