03

 身体の紅いのは、血ではなさそうだった。うるさい声が、遠ざかっていく。


「うう」


 起きた。男のひと。ひさしぶりに見る、他人。


「どこだここは」


 警戒されている。犬や猫みたいに、なんか、なんかこう、嗅覚みたいな、そういうのが。鋭いのかも。


「わたしのへや」


 こちらを見たそのひとが、目を逸らす。


「おはなし、しないの?」


「なぜ。服を着ていないんだ」


「引きずってきたときに、紅くなっちゃって。あれ、なに?」


「ロボットの動力インク」


「インク?」


「警備用ロボットを壊して逃げてきた。だから、俺はもう行く」


「あ。そなの。さよなら」


 立ち上がろうとしたそのひとが、派手に転んだ。


「あるけないの?」


「さっきのスタンが抜けなくてな」


「スタン」


「電気びりびりだよ。あの。ロボットが両手から出すびりびりって」


「どんなかたち?」


 気になった。近付く。そのひとが、這って離れていく。


「にげないでよ」


「服着ろよ」


「服着たら、逃げない?」


「すくなくとも、目は合わせる」


「わかった」


 寝るとき用のワンピース。先行着用。


「これでどう」


「かわいい服だな」


「ありがと」


「ほめてない。子供っぽいという意味だが」


「じゃあこどもでいいけど。その。電気びりびり。気になる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る