Trap.01-02 記憶喪失とリメンブランス
結論から言うと
解決しなかった。
「なんで記憶が戻らないんだ!?何か思い出しそうとかこれっぽっちも?!」
「なんでだろう!不思議!」
「お前の存在が不思議だわ!!!!!!」
どうしてもウェルーアについて来ると駄々を捏ねたソルに根負け
ウェルーアはギルドに連絡をし、治癒士をここまで派遣してもらった。
座標を指定すると、指定した場所に1度のみ使える貴重な使い捨ての魔道具がある。
今回ウェルーアが足を運んでいた場所は街と村の間にある大きな森の中
ウェルーアの住む街から目的の村は手練であれば一日で行き来できるが
まさにその中間に当たる場所だ。
直接派遣して貰うとなるとここに来るまで半日かかる。
依頼は急ぎでは無いとはいえ、依頼主に荷物を届ける仕事だ。できるのであればこんな所で道草を食いたくない。
その為、今回"は"ギルドに魔道具を使う様に申請した。
勿論、希少な魔道具を使用してもらうと言うことは
ウェルーアの手持ちの金が減ることを意味する。
「…助けるんじゃなかった…何故金を稼ぎに来てるのに金が減るのか!!まぁ
「さっきの治癒師?の人達凄いね!しゅーんって飛んで来て、私に何か光を当てて…なんか心なしか元気になった気がするよ!」
「お前の記憶が戻らなきゃ意味ないんだよソル…まぁいいや…ここまで迷惑かけたんだ。最後まで付き合ってもらうぞ」
「やったー!ありがとう!ウェルーア!」
盗賊を引渡し、ギルドの術師を見送り
2人は目的の村まで歩き出した。
とは言え、既にここで1時間近くは時間を無駄に過ごしてしまった。
1人であればこのまま走るのだが今は山道を歩くのに不慣れであろう女性もセットだ。
何度か休憩を挟むだろう。野宿になるのは覚悟しておいた方が良さそうだ。
予想通り、幾度か休憩を挟むことになった。
しかし予想と違うのは疲れたから休むのではなく、ソルによる好奇心で道草が増えたことが原因だが。
外れの村―ケセラ村
「……野宿にならなかっただけマシか……」
「うわぁ〜!凄い!!おおきな木!あ!あの木家が建ってる!村の外には神殿もある!凄いすごい!見に行ってもいい?」
「迷子になるから黙って着いてこい!!!明日案内してやるから!!!!!」
(神殿とかそういう建物の名前はわかるのか…こいつの知識の残り具合がわかんねえな……)
結局村に着いたのは短い針が22時を指す頃だった。
野宿を覚悟したが、ソルのパワフルさは想像を遥かに超え夜だろうと山だろうと元気に歩いていた。好奇心が異常だった。
村はよくある田舎の村という風貌
村の真ん中には大きな木があり、その木には家が1軒建っている。
今回の目的地だ。
ソルは相変わらず珍しいものを見るかのように目を輝かせている。
リードを手放せばあちこちフラフラしそうな好奇心旺盛な犬を引っ張って歩く飼い主、ウェルーアはそんな気分になった。
正直深夜にフラフラされたくない。1人であれば用が済んだらさっさと帰るところだったが彼女の反応からして宿を取った方が良さそうだ。
「ウェルーアさん、こんな辺境の村までありがとうございます。珍しく今日は遅いご到着でしたね。何かありましたか?」
「犬が増えた」
「犬?」
「こんばんは!私ソルって言います!」
「ウェルーアさん!…貴方ここ数年女性の影がないと噂が立っておりましたがとうとう…!わたくし感動で涙が」
「違ぁぁぁう!!!!!今日は護衛をつける羽目になったんだ!」
「はて…?」
「話せば長くなるんだよ爺さん…」
この人はこの村の村長、今回の依頼人だ。
外れの村ということもあり、人口は少なくギルドも建っていない。
その為、1番近場のギルドのある街「鉱山の街 初域の間-しょいきのま-」へ定期的にギルドへの依頼をしてくれる村長で
村の困り事などはまずこの村長を通す事により初めてギルドに認知される。
ギルドの無い村の村長はギルドと村を繋ぐ役職と言っても過言ではない。
今回俺が請け負った仕事は、この村の依頼品を届けに来るものだった。
「こちら、現段階での追加の依頼となってます。ギルドに申請よろしくお願いします。」
「了解。今日は泊まって行くから、なんか追加の依頼があったら明日頼む」
「ええ、ええ。当村自慢の布団でおやすみください。今日は来客も居ないはずですし2部屋分、宿の者へ手配しておきましょう。」
「え、2部屋分金取るの?!」
「え、ちょっと待って何その反応!まさか1部屋分にするつもりだったの?!」
「当たり前だろ、高くつく」
「服剥いでこようとした男と一緒の部屋は嫌!」
「村長なんとか言ってくれ!!!!!」
「ほほ、ご安心を。ウェルーアさんにはいつもお世話になってますし、今日の宿代はこちらで持ちますよ。面白い所も見られましたしね。」
「ほんと?!ありがとう村長さん!」
「面白い所って…まぁタダならいっか。ほら行くぞ」
「待ってよー!護衛ならちゃんと最後まで護衛してよね!」
「したくてしてる訳じゃないって」
「ほほほ。……ごゆっくり」
村長の家を出たウェルーアとソルは村の宿へと向かった。
この村では綿の製造が盛んで
小さな村ながらこの村の作る布団は絶品だ。
その為、離の村ではあれどわざわざ泊まりに来るお客も少なくはない。
なので実はこの村の宿代は高くつく。
その為ウェルーアは出来ることであればこの村に泊まりたくなかった。
金が惜しいから。
しかし今日は2部屋分タダな上、珍しく自分達以外に客も居ないらしく快適な夜を過ごした。
「ご飯美味しかったー!ウェルーアの持ってた非常食硬かったもん」
「悪かったな、硬いもん持ってて。こっちは一日一緒肉食わなきゃダメな体質なんでね」
「そんな体質聞いたことない」
「そもそも記憶喪失だろ何言ってんだ。ほら明日軽く案内したら村を出るからもう寝ろ。」
「えー!もう一泊してもいいんじゃない?」
「俺は早く家に帰りたい」
「あ!それじゃああの転送魔道具っての使えばいいんじゃないかな!」
「お前後で絶対金の価値教えてやるからな」
その夜、2人はふかふかのベッドで眠りについた。
心地の良い夢へと誘ってくれる程素晴らしい布団だった。
守銭奴のウェルーアですら高額なお金を払い宿で寝るのも悪くないと思える程良い睡眠の質だった。
翌朝
ソルが行方を暗ますまでは。
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