Trap Magic -白黒魔法の世界-
狼崎 野良
プロローグ
Trap.01-01 記憶喪失とリメンブランス
この世界 ValHexa(ヴァルヘキサ)では
魔法、魔物。そんなものは当たり前に存在する。
魔物は人々の生活を脅かし、動くものに襲いかかる。
勿論、魔物以外にも悪しきものは居るわけで
「きゃああああああ!!!」
当然、悪しき者に襲われる女性なんてこの世界では割と普通に居て
「金の成る木ぃぃぃ!!!!」
そんな悪しき者を退治するのが俺達ギルドの仕事だ。
【Trap.01 記憶喪失とリメンブランス】
水色の髪に青い瞳、左目には縦に一本爪痕のような傷がある青年は、魔法だろうか手に持っていた紫色の大鎌を瞬時に消し、足元に転がる盗賊へと目を向けていた。
彼はどこからともなく聞こえきた女性の悲鳴を聞きつけ、この森まで駆けつけてきた。
地図でもハズレの方にある小さい村、ケセラ村に依頼に行く際中聞こえた女性の悲鳴。
悲鳴が聞こえたとあらば誰かが何かに襲われているという証拠。
彼が駆けつけた時には案の定、一人の女性が二人の盗賊に襲われそうになっていた。
が、今やその盗賊は地面で伸びていた。
勿論言うまでもなく、鎌を持つ青年による一発KOだった。
彼は盗賊の武器を押収し、拘束する。
「よし、後はギルドに連絡して、後で褒美を強請ろう。久々の野生の金の成る木だったな!」
戦えない者が魔物に襲われているのであればよくある話だが、襲う者が賊となれば思わず声を出さずにはいられない。
盗賊を ”金の成る木”──と。
倒しても倒しても魔物の様に、日々増え続ける盗賊は魔物と違い武具を装備する者も多く、低級魔物と比べると危険度が高い。
その為ギルドでも中々の報奨金が得られる。クエストを受けるギルド員として、盗賊は格好の餌食だ。
しかもそれがクエストになっていないモノとなると、更に特別報酬が出る。
盗賊を倒し、尚且つ特別報酬で更に金が得られる。
盗賊を金の成る木と言わずして何というだろうか。
青年はふと、思い出したように女性の方へと目線を向ける。
「さて…大丈夫か?お前。怪我はないか?」
「えっと…ありがとうございます!」
手を差し伸べた先に居たのは桜を思い出させる桃色の髪のショートヘアーの女の子
青い瞳が青年とよく似た色をしていた。
「俺はウェルーア・ブレイス。お前は?」
「私は…ソル!」
「ソル、な。……いくつか聞きたいことはあるんだけど……お前、1人か?どこかのお嬢様か?護衛は?なんでココに1人で居るんだ?」
ソルの服装はウェルーアから見て赤い派手目の服に白いブーツ。
ぱっと見た感じ金目の物を持っているように見えなくもないが、魔石などと言った宝石の類は一切持ち合わせていなかった。
服装だけがやたら派手で、武器も何もない丸腰。とにかく目立つ、森ではさらに目立つ。オマケに綺麗な髪質、恐らく顔立ちも美人というものだろう。まるで襲ってくださいと言わんばかりの容姿だった。
練習すれば誰でも魔法が使えるこの世界では武器が無くても魔石さえあれば魔法で戦うことは可能だが、その魔石すら無い。ウェルーアの様に武器を収納している様子もない。ウェルーアの様に1人でクエストを受けている冒険者という訳では無いだろう。
ならば、何処かお金持ちの令嬢を乗せた馬車が盗賊に襲われて攫われた
なんて可能性もあるが
生憎ココ一帯はとてもではないが馬車が通れるような場所ではない。地面が安定しない森だ。その線も薄いだろう。
となれば近隣の村や街から薬草を取りに来たところを襲われた──辺りがが濃厚だろう。
現在地は、俺の住む街とハズレの村のど真ん中でつい迷っちゃったというにはかなりの距離がある場所ではあるが。
「えっと…名前だけは覚えてる」
「…だけは、覚えてる?」
「うん!」
「…えっと……もしかしてお前……記憶喪失とか言う…」
「そう!記憶喪失みたい!」
照れくさそうに笑う彼女。
“みたい”って
満面の笑みで此方に微笑む。
記憶喪失など、微笑む話題ではない。
ウェルーアは頭を抱えた。当然である。
「……ソル、ちょっといいか?」
「え?うん」
記憶喪失と言えばこの世では二通りある。
一つは誰もが知る通り、頭を打った衝撃などで一時的に記憶が失われるもの。
大体治癒術などをかければ数日で治るパターンが多い。
しかし、ソルには傷と言うものは1つも無かった。
むしろピンピンしている。
因みにもう1つは──
ウェルーアはにソルの服を脱がそうと、彼女の上着に手をかけた。
「キャ―!!!何するのよ!!!変態!!!!」
案の定顔を叩かれたが。
「痛い痛い!悪かったって!いや…リメンブランスあるかなって」
──リメンブランスだ。
「り…りめ……何それ!??それとコレどう関係あるのよ!!馬鹿!!」
「見せた方が早いな。ホラ」
そう言って自分の上着を脱ぎ、ソルへ見せる。
ウェルーアの胸には時計の様な機械が埋まっており、針等があるわけではなく、どういう仕組みか時計には歯車がいくつも複雑に重なり合い、ゆっくりと動いている。
これが彼の言う”リメンブランス”だ。
「これは一体…時計…?ウェルーア…さん…貴方機械?なの?」
「いや、立派な人間だ。後ウェルーアで良い。これはリメンブランス。これを埋め込まれている奴は記憶喪失の割合が多いんだ。だから俺はお前にも同じ奴が埋まっているんじゃないかって思ったけど違ったみたいだな。」
ウェルーアは再び上着を羽織り何事もなかったかのように埃を払う。
「え…と言うことは…もしかしてウェルーアも?」
「っそ!まぁ俺は子供の頃の記憶がないだけだしその辺はお前と違うけどな」
「…」
ソルは思わず自分に似たような時計があるのではないか?
と気になり自分の体をペタペタと触ってみたが特に何もなかったようだ。
「となると治癒術使える奴に頼むか…俺、これからこの先の村で依頼を受けてるんだ。この盗賊を搬送してくれるギルドの人がもう直来るはずだし、ついでに街に行って治療してもらってこいよ」
「え!?記憶喪失って治療できるの!?」
「当たり前だろ?治癒魔法使えば数日も経てば治るだろ。」
「……あの……さっきから言おうと思ってたんだけれど……さっきの鎌…何処行っちゃったの?治癒魔法って…何?」
「…え…鎌は魔法で収納してるだけなんだけど…治癒魔法は治癒魔法だろ…何言ってるんだ?」
「魔法って……何もないところから炎出したり水出したりするアレ!?」
「当たり前だろ?……………」
先程から、ウェルーアは違和感を覚えていた。
彼女の質問や発言が妙にしっくりこないのだ。コチラが言うことに対して首を傾げたり理解していないであろうことが多い。そう感じていた。
しかしそんな気持ちとは裏腹に、ソルはウェルーアを見て目を輝かせている。
先程まで服を剥ごうとして来た男を見る目とは思えない輝きだ。
そんなソルの様子にウェルーアは眉を顰める。
「…まさかとは思うけれどさ…この世界の名前は?」
「わからない。なんていうの?」
「魔法の種類は覚えてるか?」
「わからない。魔法っていっぱいあるの!?」
「ソルって名前以外!?本当にこれっぽっちも!??」
「うん!!魔法って私にも使えるの!?」
「っえー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まじで言ってるのか?」
記憶喪失というのは先程も言ったように二通りあるものだが
基本的にこの世界で言う記憶喪失は”常識”は知識として持っていることのほうが多い。
ウェルーアも、幼い頃記憶を無くしたが魔法の存在や使い方はなんとなくは理解していた。
しかし彼女は、まるで異世界から来たのではないだろうかと疑うほど記憶と知識がさっぱりなかった。
「お前、早急に治癒魔法をかけてもらったほうが良い。ソレはヤバい」
常識はずれにもほどがあった。
「ソレより、ウェルーアって今から村に行くんだよね!私も行っていいかな!」
「何で!?どうしてそういう話になった?!ギルドの人に街に連れて行ってもらって治癒術でその頭治してこいって言ったろ?!」
「でも私知らない人に付いていくの怖いし」
「俺も知らない人なんですけど!?」
「ううん、正直に言うね。ウェルーアの魔法が見てみたい!!」
「ぶっちゃけやがったこの女。遊びじゃ無いんだけど?!つまりお前を護衛しながら行くってことになるんだけど?!」
「駄目かな」
「駄目!!!頭治してこい!!話はそれからだ!!!」
彼らの小競り合いはギルド員が派遣されるまで続いた。
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