見習い魔女と使い魔幽霊

ゆうげ

第1話



 私の名前は及川結、ごく普通の女子高校生だった。


 家族には年の離れた兄が一人と、父親、母親の四人暮らしだ。


 働かないで両親から毎月十万をもらって引きこもっている兄とその兄を溺愛する両親に、父親が毎日のように私を殴ってきたり、母親が私の存在を認知していない、そんなに語ることのない、平凡な家庭だろう。


 高校に入ってからは学費や諸々の金を返済しろと両親に言われ、一生懸命アルバイトを掛け持ちして両親にお金を返していた。


 帰りが遅いと殴られてしまうけど、返済するにはこれくらいしないと到底返済金額には足りなかったから、殴られるのを承知の上でアルバイトをしている。


 そんなある日の放課後、バイト先に向かうために急いで走っていると、赤信号なのに車が私に向かって突進してきた。


 その瞬間、ああ、死ぬんだなって思った頃にはもう地面に倒れ込んでしまっていて、制服を汚したことで父親がとても怒って私を殴るんだろうな、と思えてきた。


 短い人生、楽しかったことなんてなかったように思える。

  私も、兄のように愛されたかったなぁ、なんて考えながら目を閉じた。


 ……はずだった。


 事故現場になってしまった場所には多くの花束や飲み物がたくさん置かれていて、たくさんの糸が私の足を縛り付けていて、この場所から動けなくなっている。


 私に興味を示さなかった女の子が、両親が事故現場になってしまった場所で泣きながらテレビの取材を受けていたりしても、この場にいる私に気がつかない。


 この場から動こうにも糸が邪魔をして動けないし、誰かに助けてもらおうにも誰も私に気がつかないから助けてもらえなくて途方に暮れてしまう。


「……結?」

『優子?』


 そんな中、数日経ったある日の夜に(塾帰りなのかはわからないけど)幼馴染でクラスメイトの橘優子は私に視線を合わせて声をかけてきた。


「結、動けないの?」

『……うん、動けないし、誰も私に気がつかないの』

「そりゃあ、今の結……幽霊だもん」

『幽霊?』

「うん、幽霊……でも、今から変わるよ」


 きらりと街灯に照らされて光る大きな裁ちはさみを使って、私の足に絡みついた糸を断ち切ってきた。


「結、これからよろしくね」

『……どういうこと?』

「契約、結とずっと一緒にいられるように契約をしたんだ」

『け、契約?』

「うん、契約……というより、使い魔って言った方がいいかな?魔女のパートナーになってもらったって感じ……かな?」


 使い魔? 魔女のパートナー? 急にいろんなことが起きすぎて、わからないことだらけだ。


 簡単に優子に説明をしてもらうと、優子の実家は魔女の家系らしくて、優子はその後継者だった。


 「魔女の使い魔は黒猫」、と家族間で決まっているようなんだけど、優子と黒猫は相性が悪かったらしくて、早く違う使い魔を探しなさいと親に急かされて困っていた優子はたまたま地縛霊になってしまっていた私を見つけて、使い魔にしようと思いついたらしい。


「これからよろしくね、結!」

『えーっと……どこからつっこめばいいのかな……』

「いいじゃん!ずーっとあんなところにいるより、私の家に来た方がずっといいよ!お母さんにも早く報告しないといけないしね!」

『うぅ、気が重いなぁ……』



**



「……これが優子の使い魔?」

「うん!幼馴染の及川結!お母さんもよく知ってるでしょ?」

「知ってるけど、優子……貴方地縛霊を使い魔にするだなんて相当趣味が悪いわよ?」

『……』

「えっ?どうして?」

「使い魔の契約を切ったら、結ちゃん、元の場所に戻るか成仏しちゃうじゃない」

「……切らないもん、ぜーったいに!切らないもん!やっと結を私だけの結にできたのに!」

『ま、まって……優子、その言い方、勘違いされちゃうって』

「勘違いされてもいいって!私は結のものだし結は私のものだもん!」

「……相手が地縛霊でも?」

「当たり前じゃん!ずーっと一緒にいるって決めたんだもん!」


 ツッコミどころ満載な会話に入り込めないまま、諦めて聞き流しつつ、優子の母親の使い魔(この場合私の先輩になるのかな? )である黒猫のクロさんが話しかけてきた。


「お互い大変だな、あんな魔女の使い魔になっちまってよ」

『え、えぇ……』

「俺なんて、魔術で魂ごと身体を繋ぎ止められてんだぜ?全く酷い話だよ」

『えっ、あの……失礼ですけどおいくつなんですか?』

「あー……俺が産まれて、あの魔女と契約してからだから……四十は超えてるな」


 四十は超えてるらしいクロさんに驚きつつ、まだ終わらない親子喧嘩にびっくりしている。

 私もああ反抗していれば、少しは変わったのだろうか。


 ……いや、家を追い出されるだけだな、なんてことを考えていたら、ばっと優子がこちらを振り返って「またネガティブなこと考えてるでしょ!」と言ってきた。


『え、えーっと……その、うん……』

「……やっぱり!……ふふん、少しずつ、その考えを変えてみせるからね!結はもう私の使い魔なんだこら!あの家とはもう縁切りだよ!」

『う、うん』

「こら優子!無理強いをしない!」


「……やれやれ、また騒がしくなるな」

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見習い魔女と使い魔幽霊 ゆうげ @yorugohan

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