第8話

 ダイスは大声で返事しました。そして、そのまま姿をくらましました。お頭は上下左右に目を動かして探しました。

 右手のナイフで後方からの鉛筆を防ぎました。

 お頭はそのまま鉛筆を持ったダイスをナイフで追撃しました。お頭のナイフによる突きを刃の側面への鉛筆突きで回避したダイスは、そのまま後方へ倒れながら相手の左手があったところに蹴りを入れようとしました。その蹴りを入れようとするところにナイフが現れたので、ダイスは蹴りをお頭の頭の上にからぶらせてそのまま床に音をたてました。


「あともう少しだったのによ、つれないねぇ」

「どこに俺が来るのか分かっていたのか、悪党が」

「予測をしたら、その通りにお前が来ただけだ。左手の時と同じように右手を潰しに来ると思ってな。そしたら案の定お前は後ろから右手を狙ってきた。そして、それを防がれたら弱点である左を狙ってくるだろうと思って、ナイフで待ち構えただけだ。まぁ、顔を蹴らなかったのは予想外だがな、紳士のつもりか?」


 お頭の左半身にはナイフが装着された着物の裏が剣山マントのように羽織られていました。挑発するように見下ろすお頭に対して、ダイスは降伏した犬のようにお腹を見せた体勢で寝転がっていました。その腹目掛けてお頭はナイフを投げつけました。

 ナイフは突き刺さりました、そのまま床に。ダイスはお頭の左側に迂回していました。お頭はそのまま立ち向かいます。


「おい、どうするんだ? 左手がないといってもこのナイフの山、お前の攻撃なんか効かねぇぞ。キックか? 鉛筆か? 何でも来い」


 その時、お頭の右手が飛んで行きました。その予想だにしない切断にお頭は痛みも感じず、無表情に血しぶきに染色される右手を振り返るのみでした。その向こうには宙から落ちていく鉛筆が無数にありました。


「これは?」

「さっきお前の頭の上を蹴った時に大量の鉛筆を死角から放り上げてやったぜ。もちろんとびきり鋭利なやつをな。お前は俺自信や俺の蹴りに注意が行って気付かなかったんだろ?それから、頭にナイフを隠していることはまるわかりなんだよ、この不自然な坊ちゃん刈りが! 首だって剣山マントで護る気だったんだろ? そういう作戦が失敗して俺の作戦にかかるなんて、馬鹿な奴だな」


 ダイスは勝ち誇ったように半笑いで説明しました。両手がダルマのようになくなったお頭はその態度を見て必勝ダルマのように大きなを見開いて赤く興奮しました。しかし、その様子は負けが確定している破産者みたいなどす黒い怒りの絶望でした。


「くそがァ!!」

「お前の代わりに生きてやるよ」


 ダイスはお頭の首を鉛筆ではねました。これにてこの船の圧政は終わり、束縛された人たちは歓喜の雄叫びを上げました。それらを静かに見渡すダイスとカキは近づき、互いに日常生活のようにたわいもなく話し合いました。


「君の戦い方は相変わらずよくわからないです。綺麗でもないですし」

「泥臭くてもいいだろ? というか、お前の戦い方もよくわからねぇよ」

「私のは幾何学を描いたもので、規則正しい美しいものです」

「規則正しいものなんて面白くないだろ? 何が起きるかわからないから面白いんだ」

「いや、君の専門の代数学だって規則正しいものですよ。幾何学と違って目に見えにくいからわかりにくいだけで、博打と違いますよ」


 ここで補足しておくと、ダイスの得意とするのは代数学的な剣術です。代数学的な剣術とは簡単に言うと、見た目でのわかりやすさがないが、見えないところで法則性がある剣術です。具体的に言うと、気配を消す・相手の体重移動を見てフェイントを入れて戦う・神出鬼没、などがあります。

 イメージとしては忍者の戦い方に近いことをしたダイスは、紳士的にカキと握手しました。互いに顔は喜びと安堵の顔で緩んでいました。互いに文句を言い合うのは仲がいい証拠であり、厳しい戦いが終わった緊張からの解放でした。

 2人はこのあとの雑務を話し合いました。束縛されている人たちの紐をほどくこと、ゴロツキたちを捕縛すること、この事件について報告することなどを話し合いました。その後の旅の計画もああだこうだと朗らかに話し合っていました。

 ――女の子がいないことに気づくまでは……


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