第17話4-2ズレている常識と興味

「とりあえず、未来なんかないねん。私の病気が治ることなんて、現実にはないねん」


 彼女は弱々しく涙目でしゃがれた声でした。僕が思うに、人に興味を持っても結局のところは相手の気持ちがわからないということでした、目の前の彼女を見ながら。理屈としては辛いのがわかるのですが、具体的にどういう辛さなのかが全く分からず、過去に遡ってヒントを探すのですが、たわいもない日常ばかりが浮かびます。


「――それなら、次のテストの勝負しましょう」

「はぁ? なんでやそうなるねん?」

「君に勉強で勝ちたいのです」

「はっはーん。わかったぞー。私に勝って未来は自分の力で変えることができる、推量したものは実現するとかしたいんでしょ?」

「いや、単純に負けたまま死なれるのが嫌なのです」

「はぁ!?」


 彼女は感情を起伏が少ないながらも、疑問・納得・驚きと移し替えていました。それを興味なく観察しながら、僕は学校での思い出とともに自分が興味を持ち力を注いでいる勉強のことを心配していました。僕が思うに、来年が受験であり、こうして人と接する時間はそろそろ削る必要があります。


「一応、僕にもある程度勉強ができるという自信があります。だから、人には負けたくないのです。だから、勝負しましょう」

「あなた、気は確か?」

「君は気づいているでしょ、僕が本気であることが」


 僕は無機質に淡々と話しました、彼女の表情を見ることもなく自分の意見に酔いながら。僕は気が楽になっていました、ただ切り離せばいい状況に。普通の人とは違い、人のことも背負い込むのは僕には無理なのです。


「……ただね、最近学校に行っていない私が圧倒的に不利だとは思わない?」

「それなら、すでに勉強を終えている文系数学にしましょう。それなら文句なしですよね」

「文句あるわよ。私が倒れた時、まだベクトルとか終わっていなかったわよ」

「なら、数学ⅠAにしましょう。1年の範囲なら問題ないでしょ」

「それならいいけど、次の数学のテストはその範囲なの?」

「わかんないです。先のことは」

「違うかったらどうすんのよ」


 彼女のもっともは発言に、僕は頭を垂れました。僕が思うに、テストのことはとても重要だから間違いは許されないし、だからといって未来のことはわからないし、別案を提案する方が得策です。僕は自分が興味がある勉強関連のことで頭がいっぱいでした、彼女の体調関係のことなんかきれいさっぱり忘れながら。


「――じゃあ、センター試験の数学ⅠAにしましょう。新聞で問題と解答が試験翌日に出るらしいですよ。先生からも試しで解くことを勧められました」

「そうなの? それならいいけど、私に勝てるの? 負けないわよ」

「昔の君ならともかく、病弱な君には勝てる自信はあります」

「言ったわね。じゃあ、負けたら罰ゲームや。何か恥ずかしいことさせたるわ」

「賭け事は嫌いですけど、仕方ないですね」

「よし、勉強めっちゃ頑張ろう」

「じゃあ、そういうことでお願いします」


 僕は意気揚々に勉強するために帰宅しようとしました、張り切っているライバルに勝つことだけを考えながら。それを見て彼女はいきなり僕の前に立ちふさがって呼び止めました。勉強一辺倒の僕の思考にバス停を思い出させる出来事でした。


「ちょっと待って。連絡先」

「え? あっ、そっか」

「そうよ。どうやって点数を言い合うのよ。また会うまですごく時間がかかるわよ。今までどんなに苦労したと思っているの」

「そうですね、すみません。あまりそういう機会がなかったので」

「はい、赤外線」

「――どうやるんでしたっけ?」

「どんなに普段しないの?貸して」


 普通の土台では全く慣れていない僕を彼女は呆れながらもケータイを持ってエスコートしてくれました。病院ではケータイの使用は遠慮するべきだというのが常識だと僕は思っていたのですが、どうやら僕の常識は普通からズレていたらしいです。僕が思うに、彼女への感謝よりもそういう考えが先に出てくる僕は彼女と違って普通の思考ができないです。


「ありがとうございます」

「じゃあ、連絡するわ」


 そういえば、連絡先を交換する常識も僕は持っていませんでした。


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