第16話4-1僕の興味
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こういう時、立派な志を持つ者なら、医者を目指すのだろう。しかし、僕は違いました。文系として、なにかしらの学者になることを考えているだけでした。
僕は賢いのです、そんな簡単に医者になることはできないとわかっているところが。僕は馬鹿なのです、病人をあんなところに連れて行ったら病状が悪化することをわかっていなかったところが。
僕は病室の前で緑の長椅子に腰掛けていました。彼女に出会ったバス停がある病院まで彼女の母親が車で送ってくれて、そのまま彼女たち親子が病室から出るのを待っていました。僕が飽きていました、彼女への心配と自分への戒めをしすぎて。
彼女の母親だけが神妙な面持ちで出てきました。僕はそれを見上げていました、その場に座り続けながら。そして僕は立ち上がりました、頭で失礼だと気づいたので。
「命に別状はないわ。ええっと……お名前は?」
「同じクラスの者です。彼女からは普通2号と言われていました」
僕は本名を言いませんでした、というのも人に名乗ることに恥ずかしく思ったからです。その人は僕を見ながら何かを考えていました、というのもおそらく僕が何者なのかを不審がったのでしょう。その人の冷たい目は彼女を思い起こしました。
「――このタイミングで言うのも変ですけど、うちの子とはどういう関係なの?」
「ただのクラスメイトです。友達かどうかも怪しいです」
「付き合っているわけではないのですか?」
「違います。ただ単に、クラスメイトです」
「そのクラスメイトがどうしてうちの子と海に?」
「そう頼まれたのです。無理やり命令されて、自転車で」
「――そう。ごめんなさいね、うちの子が迷惑をかけて」
その人は平謝りをしました、ひきつった顔をしながら出てきた病室をチラチラ見て自分の娘のことで頭がいっぱいな様子で。僕はその関心ない探り方に自分を想起させました、というのも僕も目の前のこと違うことに興味を持ち考えながら目の前の人に興味なく話すことをしてきた自覚があるからです。僕が思うに、僕やその人のように目の前の人に真剣でない人は普通の人から嫌がられるだろうなということでした、そういう仕草がなくまっすぐ僕を見ていました彼女と違い。
「あっ、普通2号くん」
病室から彼女が出てきました、点滴台を支えにしながら。その顔が少し元気そうなところが無理をしている印象しか持てなかったです。普通なら心配するところですが、僕は責任放棄のためにもうすぐ亡くなる彼女から離れることしか考えていませんでした。
「ちょっと、まだ動いたら……」
「ごめん、お母さん、彼と二人にさせて、お願い」
「……終わったらここに待っていなさいよ」
僕は置いてきぼりにされた気分でした、彼女たちが勝手に物事を進めている状況の中で。彼女の母親が離れていく後ろをついていきたい気分でしたが、彼女の言葉からそれはできない相談でした。僕はなんか、普通に考えてこんな言い方はよくないのですが、もう彼女から気持ちが離れているというか、そもそもどうして一緒にいたのかと疑問でした。
「ごめんね。迷惑かけて」
「僕こそすみません。あんな寒いところに連れて行って」
「ううん。私が頼んだんや。あなたは悪くない」
彼女が僕を思いやってうそぶいているのを理解しながら、僕は別のことを考えていました。僕が思うに、人と接するからこういう面倒事に巻き込まれるのであり、僕は柄にもなく人に接するのはもうやめようと思いました。ここから先の彼女とのやりとりは事務処理というか、興味のない対応になる気がします。
「――これからどうするのですか?」
「入院することになったわ。この病院よ、大きな病院じゃなくって。私が思うに、もう家に戻ることはないわ」
「それって、つまり」
「病院で死にましょうってことや。大きい病院に行っても治し方がわからへんのやから、家の近くの病院になっただけや。家で死ぬのも申し訳ないし、それがええねん」
「そうですか」
「愛想ないな、元気出し!」
「元気ですね……そっか、無理やり出しているんですよね?」
「それが分かっているんやったら、さっさと元気になり」
僕が疑問として思い出すに、彼女の得体の知れない冷たい視線はどこに行ったのだろうか。僕が再考察するに、あの目は何を思ってのことだったのだろうか、僕の人間性に疑問を持っていたのか静かに怒っていたのか興味がなかったのか。それが気になって彼女との会話が頭に入ってこないです。
「もう諦めているんですか?」
「諦めているわよ。だから、いつ死んでもいいように今まで一瞬一瞬を一生懸命に楽しもうとしたじゃない。今日だって海に行ったし」
「普通は未来に治るのを期待して頑張るんじゃ」
「あなた、この世には未来というものは無いと言ってたやんけ。そんな無いもんを信じてどうすんねん。『明日は明日の風が吹く』っていうけど、そんなの推量でしかないんやろ? 自分で言っていたやんけ」
僕は思考の片手間に彼女の言葉を聞き流していましたが、自分がかつて唱えた理論が彼女の口から出てきてそれを塞き止めました。自分の興味がある議題が出てきたことで意趣を翻したのです。僕が自分に対して思うに、人間って自分勝手だなって。
「――言葉ではわかっていたんですけどね」
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