第12話3-3デート

 オープン3年目の大型商業施設につきました。そこは、都会とは決して言えないが田舎とも言えない中都市であるこの付近では一つだけ浮いているカラフルで立派なものでした。四階建てで食料品売り場・アミューズメントコーナー・駐車場がいたれりつくせりの状態で、僕たちは一階駐輪所に自転車を止めて立ち尽くしていました。

 僕は汗を流しながら息を上げていました、汗一つかかずに息を殺しているくらい静かな彼女に見守られながら。僕が思うに、普通なら大丈夫かと心配するかヘタれだと悪態つくかなのに、無言で見守られるのは胃腸に汗をかくくらい緊張するものでした。人が怖いのはわからないものだと言われていますが、彼女の思考がわかりません。


「映画館行くわよ」

「買い物は?」


 張り切って右手ガッツポーズしている彼女に僕は当然の忠告をしました。でも彼女はそんなことを気にも止めず、そのまま僕を置いて進んでいきました。その背中が語るに、何でも言うことを聞いてくれると言ったやんけ、というところだろう。


「喫茶店行くわよ」

「買い物は!?」


 映画館を出たら張り切って右手ガッツポーズしている彼女に僕は当然の忠告をしました。でも彼女はそんなことを気にも止めず……


「ペットショップ行くわよ」

「犬可愛いけど!」


 喫茶店から出たら張り切って……



「楽しかったわね」

「ほじくった鼻くそを食べながら言うことですか、それ?」


 僕が思うに、僕も鼻くそをほじくってその塩味を堪能するのですが、それは家の中の話であってフードコートですることではないです。満面の笑みでご馳走を食べるように言われても僕は渋い顔をするしかないのです。賑わっている周りの目が気になりながらハンバーガーを頬張る僕の頬はなぜか鉄板に焼かれたように熱く感じました。


「あなたも食べる?」

「女性の発言じゃないですよ!」

「あなた、女性に幻想を抱いているの?」

「それはないですよ。自分の母と同じように、怒るだろうしおならはするだろうしムダ毛処理は大変だろうし」

「じゃあ、いいじゃない」

「僕が言いたいことは、外行きの態度があるということです。家でそういうことをするのはいいと思いますが、外ではやめたほうがいいですよ」

「あなたの前でしかしないわよ」


 彼女は消えゆく炎のように聞こえないためにポツリと呟きましたが、消える直前の炎が激しく輝くように僕にははっきりと聞こえました。僕が悩むに、その言葉の意味がわからないこととその言い方をする意図がわからないということがありました。僕の前でしかしないのは見下されているからなのか、ポツリと呟くのは伝える価値がないからなのか。


「なんですか?」

「あなたの前では極力控えます」

「なんか、さっきと違う気が」


 態度の悪い社員のようなわざとらしい言葉といい方を聞いて、深追いするのは得策ではないと判断して流すことにしました。僕の行動パターンとしてありますのは、彼女に限らずできる限り話を掘り下げないことがありました、というのもどんな人間でも聞かれたくないことがあるはずなので相手が自分から言うまで待つことにしているのです。そういうスタイルなので、どうして周りの人が他人のことを必要以上に知りたいのかがわからないし、人に興味がない人間と周りから思われるし、人の秘密を全く知りませんでした。


「それよりも、今日は楽しかった? 時間はあっという間に過ぎた?」

「僕が楽しいかどうかはどうでもいいですよ。君が楽しかったら」

「あなたが楽しかったら私も楽しいのよ。さぁ、どっち?」


 彼女は笑顔の中に冷たい視線を発していまして、それが僕の頭を冷えピタシートのように冷やさせました。そうだこの目だ! 僕が思うに、彼女が僕に何かを疑っているときに何回も見せるその視線をやめてほしいということです。何を疑っているのかはっきり分かれば気が楽なのですが、それを僕が聞くのは恥ずかしいから無理です。


「――楽しかったとしか言えないですよ」

「そうね。むりやり言わせているのよ」

「でも、時間が過ぎるのは早く感じました」

「それは良かった」

「でも、君は僕と話すのは時間が長く感じるのですよね」

「そうよ。1人の時の方が早いわ」

「やっぱり、僕といるのは気まずいのですね。でも、それならどうして僕といっしょに?」


 僕は天邪鬼な言い方からの間接的な言い方からの相手への質問で、自分の感想を誤魔化しました。それは、恥ずかしさ・気持ちの分析不足・特に感想がないこと、そのどれかから起こったことだと思います。そういうその場しのぎでの発言を聞いて、彼女は目の冷たさを変えずに表情を真顔に変えて思案して腕組していました。


「――私ね、頭の病気のせいで、ほかの人より時間が早くすぎるように感じるの」

「そういう病気なんですか?」

「それで、暑い中に長い間いても気づかないし、知らない間に学校を行く時間を過ぎてしまうし、日常生活に支障をきたすの」

「それでですか」

「そんな私からしたら、時間がゆっくり過ぎることは羨ましいことなの」

「ゆっくりしたい気持ちは僕にもわかりますが」

「そうだけど、そうじゃないの。今すぐにでも死んでしまうのではないかという恐怖が襲って来るの。好きな人と一緒にいなくてもいいから、暑い地獄のようなところにいて苦しんでもいいから、時間を長く感じたいの」

「なるほど、それで僕と一緒にいるのですか」


 僕は合点がいきました。やはり彼女にとって僕は時間を長く感じる嫌な存在なのです。僕は気が楽になりました、というのも彼女を楽しませていなくても役立っているからです。

 僕は台風接近の時の子供のように妙に気分が高揚しました。人の役に立つのが嬉しいと久しぶりに感じるともに、今まで人のために行動してこなかった自分に不思議に思うとともに、人と接してこなかったことが原因だと思い出し納得しました。自分の高揚感のためにこうなったらいつまでも彼女と一緒に時間を潰そうと思いました。


「心配したじゃない。帰るわよ」

「母さん。私、まだ帰りたくない」

「どんなに心配したと思っているの? 自分のことを大事にして」

「だから、自分を大事にしているから、病院にも行っているし、メールもしたやん」

「そういう問題じゃありません。帰ります」


 彼女は母親らしき人にむりやり引っ張られていき、台風のように賑やかな後に静けさを残していきました。僕は彼女と一緒にいる時間が一瞬になくなり、高揚感も一瞬になくなりました。僕が思うに、なんとも言えない無重力のような空虚感が襲いましたし、そういえばアドレス交換をするのを忘れていました。

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