第7話2-4私の考え
図書室で早くも遅くも感じない2時間ほど過ごし、下校時間の6時に近づきました。僕は世界史の資料集を机の中に置きっぱなしにしていることに気づいて、教室に戻ろうとしました。すると、彼女が2時間前の場所や姿勢と代わり映えしないままでいました。
「何をしているのですか?」
僕はつい彼女に話しかけました、学校では話をしないと自分から提案したにもかかわらずに。彼女はゆっくりとこちらを向いたのですが、その視線は僕の後ろに向かったように感じました。僕は得体の知れないものに背筋を寒くさせました、彼女の視線外しは僕が人見知りからほかの人にして不審がられてきた専売特許みたいなものではないにしても。
「――あら、普通2号くんやんけ。どうしたん?」
彼女はすぐに視線を僕の目に合わせてきたので、僕はすぐに彼女の背後に視線を逸らしました。僕がゾクリとするに、そこには少し赤く染まった日差しが中庭を血のように染めていました。僕は彼女に業務連絡します、世界誌の資料集は人の血の争いを凝視したものなのか目を逸らしたものなのかと物思いにふけるのを我慢しながら。
「そろそろ下校時間ですよ」
「え? ……ほんまや、もうこんな時間」
彼女はケータイで時間を確認しました。バス停の時とは違いすぐに胸ポケットから取り出していました。僕が聞くに、彼女は友達といる場合よりトーンダウンしている声音であり、僕といることはそこまで楽しいものではないのでしょう。
「もしかして、2時間ずーっとここで?」
「そうみたい。時間が経つのは早いね」
「はぁ、ぼーっとしていたらそりゃあそうですよ」
「小さい時は一日が長く感じたけど、年を取ってからは早いわ」
「『ジャネーの法則』ですね」
「じゃねー?……なにそれ?」
僕が呆れるに、2時間もぼーっとすることや『ジャネーの法則』を知らないことがありました。彼女が僕に見せる顔は主に3つあり、相手に合わせた時の作り笑顔、疑問に思った時の眉毛を下げる困惑顔・その他のよくわからない時の真顔です。阿修羅像を思い出す3つの顔のうち、今は困惑顔が現れたので説明をすることにしました。
「大人になると時間が早くなることを『ジャネーの法則』というらしいです」
「博識やん」
「たまたま図書室でそういう本を読んできただけです」
僕が思うに、博識ではなく賢いという言葉を用いるところに彼女の賢さが見えました。僕が気づくに、今自分で賢さという言葉を出した時点で自分が賢くないことがわかりました。僕がわからないことに、彼女は変化させた真顔で何を考えているのだろうか。
「それで、どうしてそうなるの?」
「1つの説としては、新鮮なものには時間を長く感じるらしいです。小さい時は全てのものが新鮮だったから時間を長く感じるが、大人になると新鮮味がないから時間が短く感じるらしいです。例えば、怖い出来事に出会ったら時間を長く感じるのは、今までにない新鮮なものだかららしいです」
僕が意気揚々と言うに、登校時の責任に対する考え方の自信満々を自信喪失に追いやられたことに対するリベンジができると思ったからです。先ほど図書室で復習したばかりの理論を元に言っているので、勝利は硬いと思いました。彼女は真顔で何か反論を探しているのだろうが、どんなものでも簡単に返してやります。
「――なるほど、もっともらしいわ。ところで、その理屈だとアインシュタインが言ったことはどう説明するの? 暑いところにいたら時間が過ぎるのが遅く感じるけど可愛い子と一緒にいると時間があっという間に過ぎるというやつ」
「暑い方に関して言えば、さっき言ったとおりです。好きな人と一緒にいると時間が短く感じる方は……そうですねぇー……さきほどの理論通りいくと、新鮮味がないからになりますが……」
「なになに? 自分でもおかしいと思ったでしょ? 可愛い子と一緒にいることがそんなによくあることなわけないもんね」
「たしかにそうですね。むりやり理屈通り言うと……」
「頑張れ頑張れ」
僕は自信を喪失しそうでした、彼女の笑顔の応援とすぐに返事できないことに。しかし、その笑顔は吃っている僕を馬鹿にしているとしか思えませんでした。僕は心の中の自分へのイメージとして、歯を食いしばり折れかけたハートを歯で縛っていました。
「……そうですね、男性にとって一番可愛い子というか、好きな人と言ったら自分の母親なんです。だから、小さい時に親と暮らしていたら可愛い子と一緒に暮らしているということになり、可愛いこと一緒にいることに新鮮を感じないのです。それが可愛いことの時間が短く感じる理由です」
「あら、あなた、マザコンなの? 急に違う理屈を言っているやんけ」
「お、男はみんなマザコンかもしれないですよ、学問的に」
「でも、わたしもファザコンかもしれないわ。小さい時にお父さんと結婚すると言った記憶があるわ。うん、ある意味正しいかも知れないわ」
「それは良かったです」
僕が安堵するとともに屈辱感を味わいましたのは、彼女が余裕を持っているからです。僕が思うに、そのほくそ笑んだような顔は小さな子供が馬鹿なことをしていることに対する親の顔と同じです。クラスの人が馬鹿にした笑いではないにしてもいい気持ちではありませんが、そんなことを気にせずその笑顔は僕に近づいてきました。
「ところで、私の考えも聞いてくれへん?」
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