第4話1-4連れて行かれた場所

 

僕は数分歩いた後、辺りを照らす小屋の前に連れてこられました。あたりには何もなく、ポツリと一件だけ建っています。見方のよっては別荘にも廃墟にも見えました。


「ここですか」

「いいや、違う」


 男性はその横の空間を指で突きました。その空間は時空の歪みのように揺れていました。少しずつ周りと色が区切られて見えました。

 テントでした。

男性はテントを指で揺すりました。テントからは誰かがいるかのように揺れていました。入口が開くチャックの音がしました。


「どうしたんや?」


 中から坊主でメガネの男が出てきました。両手を地面に着いて僕たちを見上げていました。僕が思うに、男性の仲間でしょう。


「この子、一緒でもいいか」


 角刈りは親指で僕を指しました。坊主メガネは僕の周りをキョロキョロ見渡していました。猫がトイレを探すかのような姿でした。


「いいんやけど、その子だけか?」

「あぁ、ほかに生存者は見かけなかった」

「そうなんや。たいへんやで」


 僕はテントに入れてもらいました。中は思ったよりも広く感じられました。知らない機械や知っている食料品が乱雑していました。


「早速だが、身を守る方法を坊主に教える」

「いきなり過ぎるで。まずはこれでも食べい」


 坊主メガネはポテトチップスコンソメ味とコーラを差し出しました。


「いいんですか?」

「ええねん。まずは腹ごしらえや」

「ありがとうございます」


 僕は袋とペットボトルを開けました。聞き覚えがある音と親しみを感じる匂いが充満しました。僕は久しぶりに嬉しく感じました。


「何か聞きたいことはあるか?」

「――どうしてテントにいるんですか?家はそこにあるのに」

「あれは人さんの家や。うちらの家じゃない」

「え?でも、家の横にテントはいいんですか?」

「ばれへんかったらええやろ。それにな、家の人は生きているかわからへんねん。もぬけの殻やし、こんな状況や、しのごの言ってられへん」

「でも……」

「でももへったくれもないねん!なんや坊主、文句あるんかい!」

「お前は落ち着け。びっくりしているだろ」


 角刈りは坊主メガネのほっぺを手のひらで押して場所を入れ替わりました。


「おい、まだしゃべ……」

「ところで坊主、ほかに聞きたいことはあるか?」


 僕は少し別のことを聞いたほうがいいと思いました。同じ事を言っても不快にさせるだけだと、子供ながらも察知しました。今は人間同士で仲間割れするときではありません。


「どうして家じゃなくてテントにいるんですか?」

「なるほど。それはごもっともな質問だ。家の中の方が安全だと言いたいんだろ?でも、よく考えるんだ。家だろうがテントだろうがどこだろうが関係ないだろ?だったらテントでもいいではないか」

「でも、家の方が便利だと思います」

「そうだな。でも、住めば都だ」


 僕は何かをはぐらかされているような気がしました。角刈りは陽気に装っていました。でも、聞かないことにします。


「ところで、どうして家の電気はついているのですか?」

「そんなのは知らない。家の人に聞かないと」

「そうですか」


 僕は納得仕掛けました。


「お前、子供相手だからって適当に答えたらあかんで」

「ちょっ、おまえ……」


 坊主メガネは角刈りのこめかみを手のひらで押して入れ替わりました。


「ええか坊主、俺が答えたるわ。俺たちはあの空家を囮に使っているわけや。どういうことかというと、光に虫が集まるやろ?正確に言うと光というより暖かいものに集まっているんやけど、それはどうでもいい。あの家の光を囮として利用することによって、テントは助かるねん。だから坊主はこのテントの中では光り物を出すなよ」

「そうですか。でも、家を勝手に使うのはやはりダメな気がします」

「そんなこと言っても仕方ないやろ、さっきも言ったけど。それにな、坊主が食べているポテチやコーラはあの家から盗ってきたもんや。だから坊主も共犯や」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る